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    とおる

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    時間連動ウツハン小説
    「薄紅色の約束」~後編~

    「薄紅色の約束」後編人探しは案の定困難を極めた。
    八雲とウツシが村の娘達に話をするも、青年を知っている素振りを見せるものは誰一人として現れなかったのだ。
    夕暮れの空に夜を知らせる鳥達が西の空へと飛んでいく。
    「次が多分最後の子かな」
    「うん。……この村の子じゃなかったらいよいよお手上げだ。」
    本当に彼が好きだと言った娘はいるのだろうか?
    何か思案する珍しく口数の少なくなったウツシを気にしつつ、八雲は祈るように家の戸を叩いた。

    「あ、おかえりなさい。どうでしたか?」
    ただじっと待ち人を待っていた青年が大桜の下に帰ってきた二人に声をかける。
    「うん。……ごめん。この村の娘達に声をかけてみたんだけど、皆違うって」
    八雲が申し訳なさそうに頭を下げると、青年は慌てて首を振った。
    「そんな!謝らないで下さい!一人一人声かけるの大変だったでしょうに。ありがとう。こんなに良くしてもらって、十分ですよ。」
    そんな二人の様子を黙って見ていたウツシが口を開く。
    「あのさ、君は……」
    「誰だい?そこにいるのは!」
    ウツシの言葉を遮り、暗がりからあの老婆が怒りの形相でこちらに近づいてきた。
    「何をしたって無駄だよ!この大桜は絶対に切らせはしないからね!」
    「あ、いや俺たちは何も」
    八雲が老婆の怒りを沈めようと弁解しようとしたその時、青年が目を見開き息を飲む。
    「ベニさん?」
    青年の呼びかけに老婆もぴたりと静止し、信じられないといった顔で青年を見上げた。
    「ヤマブキさん……」
    青年、ヤマブキは静かに目を閉じると、胸に手を当てふぅ、と息を吐く。
    「……思い出したよ。全部。俺が待っていたのは貴女だ。ベニさん。」
    「ヤマブキさん、なのかい?」
    ベニは信じられないといった様子でよろよろとヤマブキの前まで歩を進める。
    「うん。」
    ヤマブキは閉じた目を開くとベニのしわがれた手を優しく取った。
    「ベニさんと大桜の下で待ち合わせた日、百竜夜行が起こった。俺は偶然この村に居合わせてね、外部のハンターとして救援要請を受けたんだ。結果は凄まじい数のモンスターの群れに加えて突然現れた怨虎竜に大敗。襲われた村や里は壊滅して、為す術なく俺は死んでしまった」
    「やっぱり、そうだったんだね」
    「貴方にはバレていましたか。先程言いかけていましたもんね。」
    「……っつ。」
    ヤマブキがもう死んでいたことに衝撃を受けた八雲の手をウツシはぎゅっと握る。
    「五十年前の百竜夜行だね?」
    ヤマブキの古い装備や彼の話から、記憶に新しい百竜夜行ではなく、五十年前に起こった百竜夜行のことだと推測したウツシはヤマブキに問いかける。
    ヤマブキは静かにうなづいた。
    「……そう。あれからもう五十年もたってしまったのか。ベニさん、随分待たせてしまったね。ごめん。」
    ヤマブキは申し訳なさそうにベニの手を優しく撫でる。
    そんなヤマブキにベニはくしゃりと晴れやかに笑った。
    「待ちくたびれ過ぎて、こんな婆さんになっちまったよ」
    ヤマブキも泣き笑いのような笑みを浮かべて、ベニの手を両手で包み込む。
    「どんな姿だってベニさんはベニさんだ。……この桜をずっと守ってくれたんだね。」
    「約束を忘れた日は無かったよ。だからどうしても守りたかったんだ。」
    「桜もベニさんに感謝してるよ。……ほら」
    その時、ハラリハラリと一枚、また一枚と淡く光る薄紅色の花びらが八雲達に降り注ぐ。
    「き、教官!桜が!」
    「うん」
    信じられないものを見るように八雲とウツシは大桜を見上げる。
    そこには満開の桜が見事に咲き誇り、辺りを桃色に染めていった。
    「貴女がずっと好きでした。」
    そう言ってベニの手に手紙を乗せると、にこりと笑ったヤマブキの体がすぅ、と霞んでいく。
    「昔も今も、ずっと貴女が好きです。」
    ベニはヤマブキの霞んで消えゆく手を手紙ごとぎゅっと握った。
    ヤマブキの手をすり抜けても、ベニには確かにヤマブキの熱を感じた。
    「私も貴方が好きだよ。今度は貴方が待ってておくれ。私ももうじきそっちに行くからね」
    ヤマブキを見つめるベニの瞳から溢れた涙が地面を彩る花弁に消えていく。
    「うん。待ってるよ。」
    ヤマブキが笑った拍子にふわりと花びらが舞う。
    次の瞬間、そこにはもう満開だった大桜も、たった今まで笑っていたヤマブキの姿も無かった。
    静寂が辺りを包み込む。
    ただ優しい月明かりが三人に降り注いでいた。
    ヤマブキの姿が薄紅色に溶けてしばらくの時が経っても、ベニは胸に手紙を大事そうに充て、ずっとその場に佇んでいた。
    「ベニさ」
    「八雲」
    八雲は一人佇むベニに声を掛けようとするが、ウツシが手を引きそれを制した。

    ありがとう

    風に乗って二人を見守っていた八雲とウツシの耳に、優しくヤマブキの声が届く。
    八雲はウツシと繋いでいた手をぎゅっと強く握ったのだった。

    「教官はいつからヤマブキさんのこと気づいていたの?」
    ベニを家まで送った後、月夜に照らされたあぜ道を歩きながら八雲はウツシに尋ねた。
    ウツシは繋いだままの八雲の手に指を絡めてきゅっと握る。
    「ヤマブキさんの双剣を見た時かな?だいぶ古いもののようだったし、俺の記憶にあの形の双剣は存在しなかったからもしかしたらってね」
    そっか、と八雲は空を見上げた。
    「ヤマブキさん、笑ってたな。」
    「きっと約束を果たせて満足だったんだよ。なんと言っても五十年越しだからね」
    そう言うとウツシは八雲の手を引いて、その胸に閉じ込める。
    「ちょ、なに、きょうか、っん。」
    八雲が何か言う前に、ウツシはその唇を己の唇で塞いだ。
    啄むように軽くキスを交わした後、するりと八雲の口内に舌を突き入れると深く唇を合わせる。
    「っふ、っん。」
    口内で絡まる舌に、不意打ちをつかれた八雲から小さな声が漏れ出る。
    しばらく八雲の口内を堪能した後、ちゅっと音を立てゆっくり唇を離すと、ウツシは八雲を抱きしめた。
    「いきなりはずるい、だろ」
    肩口に顔を埋め息が乱れる八雲に、ウツシは愛おしげにゆっくりと髪を撫でる。
    「君が大好きだ」
    「な、何?ヤマブキさんに感化されたのか?」
    「んー?なんか今八雲にたくさん好きを言いたい気分なんだ。八雲、好きだ。愛してる」
    「……っつ。教官の阿呆」
    優しい愛の言葉が降り注ぐ中、八雲は憎まれ口を叩きながらもそれに答えるようにそっとウツシの背中に手を回したのだった。
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