寒冷群島の船好きな場所は、と聞かれると寒冷群島が真っ先に思い浮かぶ
柔らかな雪と美しい氷の壁、肺まで凍りそうな刺さるような冷気。
自分は種族的に雪に足が沈む事は無いのでそこまで足を取られる事もない。
なので採取ツアーで寒冷群島に来た際は暫くその場に立って海の方を眺めている事が多い。
遠い昔に父や母と歩いた、もう戻り方も分からぬ朧気な故郷はここの様に肺が凍りそうで美しかった様に思う
妹も寒冷群島が好き、と言っていたから赤子だった故に故郷を覚えてはいないながらも何か感じ取っているのかもしれない
足の沈まぬ雪道を進んでゆくと寒冷群島のシンボルの1つでもある大きな朽ちた船がある。
隙間風と雪の入り交じる船室で腰を降ろし目を閉じるとギィイ…ギィイ…と軋む音と波の音、そして自分の鼓動と呼吸音くらいが聞こえるくらいで、後は耳が痛くなりそうな程の静寂があった。
こうしていると、カムラの里に流れ着くまでのあの日々をどうしても思い出してしまう
―俺に赤子の妹を抱かせ、柔らかくて細く白い指を傷で赤く染め、自分や妹と同じ薄い金糸の長い髪、涙を湛えながらも強い光を宿した青い瞳の美しい人―
俺の
「……母さん……」
生活の為でもあるし、どこぞとも分からぬ地から流れ着いた自分や妹を守り育ててくれたカムラの里への恩義も勿論ある
あるにはあるが、ハンターになれば様々な地やモンスターの情報が手に入る。
もう、どこにも無くても。誰も居なくなっていても。
故郷に繋がる何かが掴む事ができれば
せめて、生まれた地を何も知らぬ妹にいつか
殆ど朧気になっている自分にもいつか
この海のどこかに繋がるあの地を踏み締める事ができるなら
「それにはまず、イブシマキヒコとナルハタタヒメからだな…」