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    IiW6zNvv5LT2B6i

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    書いたところまでとりあえず
    このまま没になるか完成するか五分五分、リハビリも込みで書いたので後で手直しするかもしれないです
    (B.L.営.業という言葉に嫌な予感がした方は読まないほうがいい)

    客席を仰ぐ。ファンの熱狂が伝播しニキの体を揺さぶった。
    ステージの上、ライトの熱を浴びながら、あちらこちらから名前を呼ばれて大きく手を振り返す。
    空腹を吹き飛ばすほどの高揚感に、はふ、と息が漏れる。楽しい。嬉しい。夢中で歌って踊って、急に顔が見たくなって赤色を追いかけた。燐音くん。心のなかで呼んだって当然気づかない彼に歌いながらかけ足で近寄る。
    「ニキ」
    漸くニキに気づいた燐音の顔はうっすら赤く火照り、瞳はライトを反射してギラギラしている。獣じみた瞳。本気でライブを楽しんでいる顔だ。
    きっとニキも今同じような顔をしてるに違いない。ニキを見た燐音は一層無邪気に目を細め、そして突然ニキの腰を引き寄せた。
    「んぃ?」
    「ジッとしてろ」
    途端沸き上がる他と色の異なる歓声に白黒しながら燐音を見やると、マイクに通らない声量で声が降ってきた。
    「……また何か企んでる?」
    それにならって小声で尋ねるニキを無視して腰に手を回したまま歌い始める燐音に、沈黙は肯定と知っているニキはそっとため息を吐いた。


    「BL営業ぅ?」
    無事ライブが成功し空気の緩んだ控室で、コールドスプレーを皆でまわしながら熱を冷ます。非常食のカロリーバーを頬張るニキの隣に座るこはくが素っ頓狂な声で燐音の言葉を復唱した。
    「そ。今はまだ俺っちとニキだけだけど、そのうちメルメルとこはくちゃんにも回ってくるかもしれねェからちっと予習しとけよォ」
    「……そのような低俗な売り方はHiMERUの流儀に反するのですが」
    「お上様の意向っつンだから諦めろメルメル。世の中には飲み込まなきゃなんねェ不条理なんて腐るほどある、お前も知ってンだろォ?」
    燐音の思いつきではなく事務所からの指示。押しの強い要求に流石の燐音も断れなかったらしい。なるほど、ライブでのアレはそういう訳だった。バーに水分を奪われた口内をペットボトルの水で潤し、考える。BL営業……BLの意味はさっき燐音に説明されたばかりだ。いやしかし、ううん。
    「えらい人の考えることはわかんないっすね~」
    「ぎゃははっニキきゅんは流石だなァ!」
    「それもしかしなくても馬鹿にしてるっすよね!?」
    食い気味で噛みつくもまるで効いた様子はなく、むしろニヤニヤと意地の悪い笑みを見せつけてくる。クズだ。悪魔だ。こんな悪魔と恋人を演じるのか?本当に?
    「お先真っ暗っす……」
    最年少が労るようにニキの肩を叩いた。


    さて。
    久しぶりにアパートに戻り、食卓に大皿に盛った青椒肉絲をどんと置く。先に座って携帯をいじっていた燐音が、やって来たご馳走を前に潔く携帯を置いた。
    「きたきた、これ食べたかったんだよなァ」
    「食堂には置いてないっすもんね、青椒肉絲」
    「なァ早く食べようぜ」
    「なはは、僕もお腹すいたっす」
    食欲をそそる匂いに胃がギュルギュル反応している。お互いちらりと目線を交わし、手を合わせる。
    いただきます。きれいに揃った声に再び燐音を見ると、早くも箸を大皿に伸ばしていた。本当に食べたかったんだな、と感心しつつニキも負けじと箸を伸ばす。
    そうやってしばらく夢中で箸を進めてしばらく。大皿の中身も主にニキによって残りわずかになったころ、あ、と思い出したかのようにニキが口を開いた。
    「そうだ燐音くん、聞きたいんだけど」
    「ンぁ?何だよ」
    大分前に箸を置き、ニキが吸い込むようにたいらげていくのを楽しそうに眺めていた燐音に向き直る。
    「さっき言ってたBL営業のことで」
    「ウン」
    「復習なんすけど、BLっていうのはつまり男同士の恋愛ってことっすよね?」
    「そうそう、男同士でアンアンチュッチュすんの」
    「ヒィッ言い方やめろぉこのお下劣男!ってそうじゃなくて」
    うっかり燐音のペースに持っていかれそうになるところを既のところでこらえ、軌道を直す。というかそもそもキスすら結婚してからな人間が何を言う、チュッチュさせてくれなかったくせに。どうせ恋愛したこともないくせに!
    心のなかで燐音めがけて言葉のナイフを全力投球した、ら勢いそのまま自分に返ってきた。
    「あの、燐音くん。そのう、絶対に笑わないで聞いてほしいことがあって」
    「……あって?」
    「…………僕、一度も恋愛したことなくて」
    そう、何を隠そうニキもそういったこととはまるで縁がなかった。なんといっても花より団子、恋愛より目先のご飯だったので。小学生の頃から何度か告白されたことはあっても、実際に誰かと付き合ったことはなかった。中学生の頃も何度か、けれど燐音と出会ってからは呼び出しに応じるのも億劫になり(なんせ"お兄さん"があまりに危なっかしくて目が離せなかった)、そのうち誰もニキに告白しなくなった。卒業してからは燐音に振り回されますます怒涛の日々だったので、まあお察しの通りだ。
    そんなこんなで恋愛のれの字さえまともに通ってこなかったニキなので、いざ恋人らしく振る舞ってと言われてもどうすればいいかわからない。何をもって恋人と呼べるのか、恋人ならではの距離感、特別、その全てに靄がかかった状態でーー
    「…………燐音くん」
    笑わないんだね。
    後につづく言葉が口の中で溶けていった。笑わないで、なんて前置きしたものの、どうせ椅子から崩れ落ちるくらい爆笑して自分のことを棚に上げて馬鹿にされると思っていた。
    燐音の表情は凪いでいた。ニキに向ける視線は柔く、口元には微かに笑みを浮かべていて、そこに嘲笑の気はなく只々穏やかなものだった。出会って間もない頃を想起させる、愛しい幼子を見つめるような。ニキは少し居心地が悪くなって、身じろぐ。
    「なあ、ニキ」
    優しく撫ぜるような声に、じゅわり、口の中に甘みが広がった気がした。
    「デートしようぜ」


    これを言うとなぜか皆に驚かれるのだが、ニキと燐音は普段あまり二人で街を出歩くことはない。ニキはバイトで忙しく、燐音は意外と一人行動が多い。二人で出かけるのはライブで遠方に行った時かスーパーに食材を買いに行く時ぐらいだから、こうやってお互いの休日に前もって出かける予定を組むのは初めてかもしれなかった。
    「ムズムズする……」
    同じように人を待って立っている人がちらほら見られる駅の広場で、ニキは得も言われぬむず痒さに襲われた。
    同じ寮に住んでるのにわざわざ待ち合わせ場所と時間を決めて。それだけでニキは妙にそわついて、燐音と寮内で鉢合わせないよう細心の注意をはらい、出る時間が被らないよう早めに待ち合わせ場所に向かった。
    別に緊張するような相手じゃない。ずっと一緒に住んでたし。ニキのかっこ悪いところも知られているし、燐音のかっこ悪いところも知っている。
    そう、別に今更デートだなんだ言われてどぎまぎするような相手じゃないのに。ニキの心は自分でも引くくらいムズムズと浮足立っている。心臓もいつもよりこころなしかうるさい。
    己の心の誤作動に振り回されて頭が疲れたせいか、朝にたらふく食べたはずなのに早くもお腹が空いてきた。はあぁと長い息を吐きながら体力温存のためその場にしゃがみ込む。
    「お腹空いた……」
    始まる前からすでにてんてこ舞いだ。慣れないことはするもんじゃない。BL営業なんて意地でも断ればよかった。燐音に口で勝てた例なんてほぼほぼないが、それでも戦うべきだった。
    「燐音くんの馬鹿……」
    「誰が馬鹿だってェ?」
    独り言のはずが上から言葉が返ってくる。しゃがんだまま見上げると、昼の光を背負った燐音が呆れたようにニキを見ていた。眩しくて顔を地面に向ける。ふは、と笑みを含んだ声が降ってきて、次いで衣服の擦れる音と、「にぃき」と間延びした声がすぐ目の前で聞こえた。
    「お腹空いたのニキきゅん」
    ニキに合わせてしゃがんだ燐音が覗き込むようにニキを見た。
    「チョコ持ってきたけど。食う?」
    「ありがたくいただくっす……」
    恐らくニキ用に特別に持ってきてくれたのだろうチョコをありがたく頂戴する。乱雑に包装を剥いで口に放り込むと、ガツンとくる甘さに脳が冴える。
    「うぁ〜生き返る」
    「なんで待ち合わせしただけで死んでンだよお前ェは」
    体調悪ィの?とニキの顔色を確認する燐音に羞恥と罪悪感がじわじわとニキを侵食する。まさか燐音とのデートに緊張したせいだなんて言えない。ニキのプライドなんてあってないようなものだが、それでも流石にありのままを白状するのは気が引ける。
    どう言い逃れしようかニキが決めあぐねていると、沈黙を肯定と解釈したのか燐音の眼差しが厳しくなる。
    「ニキ、帰っぞ」
    「んぃ!?え、なんで!?」
    「体調不良のヤツを連れ回すほど俺っちも鬼じゃねェっしょ」
    「体調不良じゃないから!心配ないっす!」
    「ア?」
    「あの……その……」
    「はっきり言わねェと担いで帰る」
    「恥ず!?死んでも嫌っす!別に、ただ……そう、恋愛って難しいなって、思っただけっす」
    苦しくない言い訳を必死に考えながらたどたどしく答える。本当でもないけど嘘でもない。恋人(仮)との待ち合わせというだけでこんな風になるとは思わなかった。世の恋人たちは皆このドキドキに耐えつづけてるのか。すごい、ニキには想像もつかない。
    ニキの返答に燐音はきょとり、と瞬きを一つ。そして堰を切ったように笑いだした。
    「あはははは!ニキ、おま、あっははは!」
    「ちょっと!燐音くんひどいっすよ!こちとら真面目に言ってるってのに!」
    「いやだって、ふは、あはは!」
    普段のきゃははともぎゃははとも違う、これは本気で笑ってる時の笑い方だ。ひどい。人の純情を笑うなんて心がない。ヒイヒイ言っている悪魔を、羞恥で頬を赤くしながら睨みつける。ああもう言うんじゃなかった!
    数十秒後、んっふふ、なんてめったに聞かない笑い声を発しながらもなんとか落ち着いたらしい燐音が、それでも多分に笑いを残した声で言った。
    「まさかニキくんがそんなこと考えてるなんてなァ」
    「……初めてなんだから仕方ないじゃないっすか」
    「きゃはは!……そんな真剣に俺っちと恋愛しようと思ってくれたんだ?」
    からかうように言われてうぐ、と言葉に詰まる。決まり悪げに眉をひずめるニキに反して、燐音はとびきり楽しそうに笑った。
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