Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    IiW6zNvv5LT2B6i

    @IiW6zNvv5LT2B6i

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    IiW6zNvv5LT2B6i

    ☆quiet follow

    尻叩き
    168話後りんのみ帰郷if
    お題「教科書」で書いてるのにまだミリも出てこない

    #ニキ燐
    nikiPhosphorus

     そばは五分以内に食べる。それがニキのポリシーだ。
     つゆで伸びてしまう前に、美味しいものは美味しいうちに食べなきゃ罰が当たってしまう。とはいっても、サービスエリアで提供されるそばなんかは、事前にゆでられた麺を温めてつゆを注いで作られているから、既に伸びてしまっているんだけど。
     夜のサービスエリアは空気が静かだ。同じバスの乗客らしい人が自販機でどの飲み物にしようか迷っているのが見える。コンビニや自販機に人が吸い寄せられていく。この短い休憩時間でそばを食べようとする人はあまりいないみたいだ。いかにもトラックの運転手といった様相の人が丼を食べているのを発見し、勝手に親近感を抱く。
     止まる事なく麺を吸うニキをじっと見つめていた燐音が、視線をニキの背後の時計にうつし、立ち上がった。目で問うと、「トイレ」と一言。
    「ひとりで行ける?」
    「俺っちのことなんだと思ってンだよ。テメェこそ俺っちが起こすまでバスの中でずっとぐっすりだったくせに」
    「誰かさんのせいで無駄に疲れたっすから。そうだ、バス出発ってあとどのくらいっすか?」
    「ん~……あと十分くらいだなァ。そば食べきれそ?」
    「十分あれば二杯はいけるっすね!」
    「……きゃはは、頼もしいねェニキくんは」
     席を離れる燐音に、意識をそばに戻して箸で麺を持ち上げる。「ニキ」と、再度声をかけられた。
    「がっつきすぎてむせんなよォ」
     心配ご無用っす。ずずず、麺をすする音で答えた。

     おかしいなと思ったのは、それから五分ほど経って、そばの器を返却台に戻す時。立って周りを見ると、さっきまでちらほらといた人がほとんどいなくなっていた。いるのは丼の人とニキと、あと数名。
    (あれ、もしかして燐音くん時間間違えてる?)
     燐音はまだ戻ってこない。心配になってトイレまで探しに行くと、そこには誰もいなかった。おかしい。
     不安に息を荒らげながら外に出ると、目的の人物はいなかった。
    「……はぁ?」
     バスもいなかった。

     燐音くんに置いてかれた。
     ニキが気づいたのは、確かにこの場所に駐車していたはずのバスが消えていて、代わりに横の地面にニキの荷物が無造作に捨てられているのを目の当たりにしてからだった。
     悪い夢かと目をこすっても、頬をつねってもちっとも変わらない光景――嘘だろ。
     いつからいたのか、斜め後ろから感じるこちらを気遣うような視線にかまわず、ひざから崩れ落ちた。
    (トイレって言ったじゃん、確かに戻ってくるとは言ってなかったけど、つうか出発時間嘘ついたんだ)
     コンクリートの硬さに膝が激痛を訴え、それがじわじわ広がって、胸のあたりまで傷みだして、塞がる喉からグウと音が漏れる。
    「その……大丈夫か?」
     ずっとこちらを微妙な表情で見ていた男――どこかで見たことがあるアイドルに声をかけられた。大丈夫、な訳ない。
    「燐音くんの馬鹿野郎……」
     最後の言葉が「むせんなよ」って、何なんだ。
     情緒もクソもない、最低かつ最悪な「さよなら」だ。

     

     こはくもHiMERUも嘘をついて二人を捨てて去ろうとしたニキを怒らなかった。
     ニキではないもう一人にひどくご立腹で、逆にニキにはすごく優しいから、ニキは不快で恥ずかしくて申し訳なくて、何よりみじめでたまらなかった。
     燐音に向ける怒りをニキにも向けて欲しかった。なんでそんなことをしたのか、馬鹿じゃないかって罵って欲しかった。見捨てられた人間の烙印を押さないで欲しかった。
     燐音くんもこんな気持ちだったのかな、ふと至った。一緒についていくと言われて、みじめに思ったのだろうか。故郷に帰るという彼を怒って引き留めればよかった?そうしたら、今も隣に立ってくれていたのだろうか。
     血の味がする。知らぬ間に噛んでいた唇から血がにじんでいた。

     三人のCrazy:Bで立つステージ。リーダーの不在、暗い表情を隠しきれないこはく、うつむく一彩に会場は一時どよめいたが、それがおさまると次には拍手と歓声が沸き起こった。
     それはまるで悪からの解放を祝福するような、祝祭を彩るファンファーレのような。
     「やめえ!やめろ!」こはくが叫ぶがもう手遅れだった。観客はすっかり正義が悪を滅ぼした瞬間に立ち会ったという虚構の事実に酔いしれて、こちらのことなど見えていない。
     歓喜している人たちは皆物語の正しさを愛しているのであって、単なる一キャラクターの感情などどうだっていいと思ってる。今後どれだけこはくやHiMERU、ニキが燐音の弁明をしたって強がりとして一蹴されるだろう、世間にとっては脅されていた方が面白いし都合がいいから。
     「おめでとう!」いつまでも鳴りやまない拍手が弾丸のようにステージに降り注いだ。会場に笑顔が並んでいる。
    (まさに、アンタが望んだとおりっすね)
     よく見ると、笑顔の中にぽつりぽつりと泣いている顔があった。燐音のファンだろうか。捨てられちゃったね、可哀想に。
     どこからかあの特徴的な笑い声が聞こえた気がして、眉を歪める。
     俺っちの一人勝ちだなァニキ、うるさいうるさいうるさい!
     人生で一番嫌いな夏が終わった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭😭😿😿🙏🙏🙏😭👏😭🙏😭🙏😭💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works