『手を伸ばす幸福』 いつか、誰かと。
いつも、あんたと。
いつか、誰かの。
いつも、君の。
心のベクトルなんて、関係ない。
今ここにいる自分が、すべて。
駅から南北に延びる公園の切れ目から広がる光の波。色とりどりの出店が道の両側を埋めて、どこまでも延びている。
公園の木々の上に見えているのは熊手の屋台だろう。
「盛況、だね。」
横断歩道を渡ったところで、広がる景色と吸い込まれていく人の流れに寂雷が感嘆したように息をつく。
思わずこぼした言葉に、けれど隣に立つ男は赤い目を険しくしてその穏やかな横顔をにらみ上げた。
「あぁ。
シンジュクだって似たようなもんだろ。」
「まあ、ね。
けれど、こういう祭にはその街の色というか匂いがでるものだよ。」
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