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    これから死ネタに移行するんだけど(?)死ぬほど長くなりそう、何年かかるかわからん

    #ディルガイ
    luckae

    エンドロールは止まらない「イカレ裏切り野郎様、おはようございます」

     旅人を旅をしていた頃、毎日のように聞いていた機械音声にも感じられる女の声が響いた。

    「イカレ裏切り野郎様、早く起きてください」

     暗闇の中、微睡むようにぼんやりとしていた意識が覚醒していくのを感じる。長らく忘れていたようなその感覚を、男はとても鬱陶しく思った。

    「イカレ裏切り野郎様、いい加減に目を開けてください」

     男の気持ちに関係なく声は変わらず罵倒と催促を繰り返す。
     このまま狸寝入りを決め込んでいてもきっと女の声は消えないだろう。そう思った男は仕方なく目を開けた。体も意識も、なぜか泥のように重い。

    「ようやくお目覚めになりましたか。イカレ裏切り野郎様」

     開けた視界はどこまでも白く、相変わらず動かない体は厳重に拘束されていることを知る。唯一自由の効く首を動かして音が聞こえた方を向けば記憶にある声と違いない、いつもの冒険者協会の服を着たキャサリンがいた。

    「それでは改めまして。イカレ裏切り野郎様、おはようございます。このお部屋はいかがですか?こうして、のうのうと生きているなんて、恥ずかしくないんでしょうか」

     男とキャサリンの目があった瞬間、ニコニコと笑みを絶やさないまま強烈な罵詈雑言がキャサリンから放たれる。
     他者から向けられる明確な悪意にも何か反応をするでもなくただぼんやりとキャサリンを見つめ返す男が見えているのか見えていないのか、キャサリンはひたすらに喋り続けた。

    「これから貴方に注射させてもらう『お薬』、『HAPPY DREAM』には強い睡眠作用があります」
    「素晴らしいことに、その注射を打つと『ハッピードリーム現象』が起こります。その名の通り、この上なくハッピーな夢を見る現象です」
    「貴方には勿体ないくらいの、良心的で、ハッピーで、すてきなお薬です。投与は一日一回です。それで一日お楽しみいただくことができます」
    「貴方はとんでもないイカレ裏切り野郎で、テイワット一の危険人物なので少々拘束は入念にやらせて頂きました。悪く思わないでくださいね」

    「説明は以上です。では、レッツ・ハッピードリーム!」

     ブツリという乱暴な音と共にキャサリンが映っていた画面が暗くなる。それとほぼ同時に、男の首に細い針が刺さり何かが注入されていく。
     途端に訪れた強烈な眠気に逆らう気力もなく、男は再び目を閉じた。





     次に目を開けると、同じような白い部屋にいれられてはいたものの拘束は消え、先程までキャサリンが写っていたスクリーンは窓へと変わっていた。紛い物の夢のように青い空をのっぺりとした白い雲がゆっくり流れていくのが見える。
     
    「……」

     声を出すのも億劫だった先程までとは打って変わって体が軽い。いつの間に着ていたゆったりとした白い麻のシャツが肌に心地良い。黒いスキニーはガイアの為にあつらえたかのように足を締め付けない。
     ベッドから体を起こしてぐるりと部屋を見渡せばすぐそばに見慣れた日記がのった小さな机があった。その先には白いドアがある。

    「…………」

     ベッドを降りて誘われるように、でも明確な意思を持ってドアを開ける。
     素直に開いた鍵のかかっていないそれに拍子抜けるような思いをしながらも、途端に流れ込んできた新鮮な空気と穏やかな日光を無感動に受けていればコツコツと近づいて来る足音が聞こえた。

    「あら、もう出ていたのね。驚かせてごめんなさいね、ガイア」

     穏やかに微笑む女にも、男──ガイアは何も返さない。無表情のままだ。女もそれを見越していたのか、特に気を悪くしたような素振りも見せずそのまま続ける。

    「ああ、自己紹介が遅れたわね。わたくしは夢先研究協会の……貴方には騎士団、の方が馴染み深いかしら。とにかく、リサよ。リサ・ミンツ。貴方の実験が少しでもスムーズに進むよう最大限にサポートするのが仕事なの。これからよろしくお願いするわね」

     相変わらずガイアは何も言わない。ただ黙ってリサの若草色の瞳を見つめ返すだけだ。 
     リサはガイアの様子に一瞬だけその瞳に深い哀愁をたたえたものの、すぐに穏やかな微笑みに戻って言った。

    「…ふふ、何をしたらいいかわからないっていう顔をしているわ。そうねぇ…貴方は今、『ここに越してきたばかりの住人』ということになっているの。だから今日はこの街の住人に挨拶をしてきたらどうかしら?
     それじゃあ、わたくしは他に仕事があるから一旦お別れね。いい夢を見るのよ、ガイア」

     リサがくるりと踵を返してどこかへと去っていく。それをガイアは黙って見守った後、暫くその場に突っ立っていた。今更何かを楽しんだり考えたりするつもりもなかったが、久しぶりに自由に動く体を手に入れておいてぼんやりと過ごすのも勿体ないような気がする。ややあって、リサが向かった方向とは反対の自分がいる場所から一番近い家へとガイアはゆっくり向かった。
     




     緑色の屋根をしたやけに背の高い家に入れば、中には屋根と同じ色の帽子やマントを身につけて竪琴を奏でている少年が座っていた。窓も開いていない室内で風は吹いていないはずなのに、少年の帽子に飾られた白い花や少年の毛先に行くにつれて若草色へと色が抜けていく三つ編みは曲に合わせてそよぐように揺れている。
     ガイアが入ってきても暫く優しい竪琴の音色に合わせて詩を誦じていた少年は、詩がひと段落ついたタイミングで琴を弾く手を止めてガイアを見た。
     
    「おや、お客さんかと思ったけど……見慣れない顔だね。いつここに着いたんだい?」

     話し声まで歌うような心地の青年の声は、大きく張り上げている訳でもないのにスッと頭に入ってくる。

    「……つい、さっきだ」

     気が付けばガイアは返事をしていた。声を出すのは久しぶりのことだった。

    「そっか、じゃあ今日来たばっかりなんだね。どう?ここも、なかなかいいところでしょ?」

     思いの外すんなりと声が出ることにまず驚きを感じる。少年はガイアのそんな様子に気付いていないのか、少年は手に持っていた竪琴を座っていた椅子にそっと置くと軽い足取りで近づいて来た。

    「ボクはウェンティ。怪我をした野生の龍を保護したり、飼育したりしてるよ。君はガイアだね?リサから色々話は聞いてるよ。……来たばかりで、色々と不安な事もあるだろうけど大丈夫。この街の人はみんな、君を歓迎するよ」

     そうしてにっこりと微笑むと、ウェンティはサッと体を脇に寄せてガイアの視線をウェンティの背後へと促した。
     よくよく見れば先程までウェンティがいた場所の更に奥に部屋とは不釣り合いな物騒な雰囲気を醸し出す檻があり、薄暗いそこから何か大きなものが動く気配がする。

    「君はある意味ラッキーだ。ちょうど今怪我をした龍を預かっているところでさ、トアリンって言うんだけど。ねえトアリン、ボクの新しい友達だよ」
     
     いとけないようにも見えるその顔を上げて薄暗闇の中へ声をかけるウェンティに合わせてガイアも同じ方向を見上げると、大きな龍が顔を覗かせていた。ガイアのことをじっ、と見つめている。首元には痛々しい包帯が巻かれており、頸の方には血が滲んでいた。
     きっとあそこが、怪我をしたところなのだろう。

    「痛そう、だな」

     気が付けばそう声を出していた。隣にいても聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声だったがウェンティには耳聡く聞こえたらしく、初めてガイアが自ら声を出したことを少し驚きつつも喜ぶようにくるりと振り返る。

    「……今はもう、大分楽になった方なんじゃないかな。出会った頃は酷かったんだよ?首に紫色の結晶みたいなのが刺さっててさあ──」

     ウェンティは話し続けているが、ガイアはトアリン、と呼ばれた龍から目を離すことが出来なかった。トアリンもまた、変わらずガイアのことをじっと見つめていた。
     まるで、ガイアの全てを見透かしていると言わんばかりに。





     また来てよね、とにこやかに見送ってくれたウェンティの家から出たガイアは、次の家へと歩きながら改めて街並みをぐるりと見渡した。
     のどかなところだ。建物が密集している訳でもなく、様々な色形の家がぽつぽつと建っている。ガイアが最初に入っていた小さな白くて四角い建物と、街をぐるりと囲む硬質で高いフェンスだけがその小さな街にそぐわない異質な雰囲気を放っていた。
     時折動物のような鳴き声が聞こえるだけで他に人もいない舗装された道を歩いていれば、程なくして次の家が見えてきた。
     水色のペンキが塗られたこじんまりとしたそれは、所々に可愛らしい音符が描かれている。中から少女の歌声が漏れていた。人が動くような気配もする。
     小さな銀色の十字架が飾られている丸いドアを開ければチリンチリンという軽い音と共にきゃっ!という短い悲鳴が聞こえた。

    「もしかして、聞こえちゃったかな…?」

     踊ってでもいたのだろうか、片手を顔の近くで掲げたポーズのまま柔らかい金色の髪と青い目を持った少女がゆっくりと振り向く。
     恐る恐る訊かれたその内容に嘘をついてやる義理もないのでそのまま肯定してやれば、少女はバッと顔を両手で覆った。

    「うわ〜っ、この時間は誰も来ないだろうって油断してたよ…練習してるところを見られて恥ずかしい…」

     ツインテールに結われた金髪をユラユラと揺らしながら落ち込んでしまった少女にかける言葉も見つからず、ガイアは黙ってその様子を見つめる。少女は暫くそのままでいると、少ししてよしっ!と言う声と共に顔を上げた。

    「変なところ見せちゃってごめんね…私はバーバラ。この街で採れる植物とかを採取して販売してるの!あなたの名前も、聞いていいかな?」

     背の高いガイアを見上げるようにして真っ直ぐ瞳を見て問うバーバラに負けて小さく名前を言えば、バーバラはにっこり笑って首を傾げた。

    「そっか!ガイアさん、これからよろしくね!何か必要なものがあればいつでも売ってあげるからまた遊びにきてね!」
     
     



     バーバラの家のすぐ隣にある異国情緒漂う中華風の家に入れば、漢方の独特な匂いがまずガイアを出迎える。少しごちゃついた部屋の奥にあるカウンターでは、長い髪を一つに束ねた男が静かに書物を読んでいた。
     ガイアが男に気付いてから少し遅れて男もガイアが入ってきたことに気付いたのだろう。いらっしゃい、とかかった低い声は男が書物から顔を上げたことで意外そうなものに変わった。

    「おや、見ない顔だな。名前を聞いても良いだろうか」
    「……ガイアだ」

     パタリ、と本を閉じながら問われるもうすっかり慣れたその質問に、他と違わぬ返事を返せば男は仏頂面のまま口を開く。

    「そうか、ガイアか。よく来たな。俺は鍾離という。ここで薬を売って生活している。薬と言っても大したものではない、いわゆる漢方というものだ」

     そこまで言うと鍾離と名乗った男は一旦口をつぐんでガイアの様子を伺った。漢方ってなんだろう、でも訊かれているわけでもないのに何かを言うわけにもいかない、と黙ってその金色の瞳を見つめ返せば鍾離は一転して朗らかに笑った。

    「ははは、突然漢方と言われても困るか。まあ、なんとなく体が冷えるとか、肌が荒れてしまっただとかそういう時に来るといい。適当なものを調合してやろう」

     そう言ってまた鍾離は僅かに微笑む。僅かではあっても出会った時から仏頂面であったその男の笑みは、孤独と緊張で凝り固まったガイアの心を優しく解きほぐしてくれた。
     この街の人はみんなガイアに笑いかけてくれる、優しくしてくれる。
     本当にハッピーな夢だ。
     久しぶりに心が明るくなっていくのを感じながら、ガイアは鍾離の家を後にした。





     ドカーン!

     鍾離の家から出た途端、向かい合わせに建っていた家から爆発音が聞こえた。

     音の発生源と思われるドーム状になった屋根にウサギのような耳とつぶらな瞳が付いている可愛らしい家へ急いで走ってドアを開ければ中から黒い煙と共に子供の声がする。

    「いたた……また失敗しちゃった……」
    「だ、大丈夫か!?」

     思わず駆け寄って大きな声を出せば見知らぬ男に突然大声を出されて怯えたのか、小さな少女はところどころが煤こけた赤い服をぎゅっと握ると大きくて赤くて丸い瞳を更にまんまるくさせて言った。

    「おにいさん、だれ……?」
    「…!すまん……ガイアだ」

     その恐怖を孕んだ瞳にたじろいで咄嗟に掴んでしまっていた少女の薄い肩を離せば、少女は先程の事などすぐに忘れてしまったのかガイアの名前を聞いてすぐに満面の笑みを浮かべた。

    「ううん!いいよ!クレーはクレーっていうの!お魚をドカーン!して、毎日お料理してるんだ!さっきは失敗しちゃったけど…」

     服や顔に付いた煤を払ってやれば素直にありがとう!と言われる。その天真爛漫さが可愛くて自然と口角が緩んでいくのを感じていれば、クレーはもじもじと顔を伏せてしまった。

    「あのね、ガイアお兄ちゃんには、クレーのお友達になってほしいの…」

     その可愛らしさと言ったら!
     もうすっかり上がった口角も隠さずガイアは一も二もなく了承した。あんなに可愛くおねだりされて断れるヤツなどいるだろうか?いや、いない。いるわけがない。
     友人になることを了承した途端に太陽のような笑顔を見せるクレーを見て、ガイアはハッキリとこの夢に「幸せ」を認めた。
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