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    レンタル彼氏14。呼び出された理由

    レンタル彼氏14仕事が終わったのは二十二時を少し超えてからのことだった。
     逸る気持ちを抑えつつも、普段より手早く帰り支度を済ませて「お疲れ様です」と現場を後にする。
     大通りに出てタクシーを広い、魏嬰にもらった住所を運転手に告げた。
     わざわざ家に招いてまで云いたいこと、とは何なのだろう。
     タクシーが停まったのは、築年数を大分重ねていそうな二階建てのアパートだった。紙切れには二0一号室と書かれている。
     錆びの浮いた階段を上がり、ひとつ深呼吸をしてからインターフォンを鳴らす。
     たった三秒、されど三秒してから細く開いた玄関の戸。
    「お疲れ、藍湛」
     インターフォンを鳴らしたのが私だと確認してから、魏嬰は戸を大きく開いて私を部屋の中に誘い込んだ。差程広くない1DKの部屋だった。
    「遅くなって済まない」
    「何時まででも待つって云っただろう」
     寧ろ遅くに呼び出して悪いと肩を竦めながら、魏嬰はローテーブルの横に座らせた。
    「ウチ、酒以外の飲み物大してないんだよな。コーヒーと水、どっちが良い?」
     冷蔵庫を覗きながら問われ、じゃあ水で、と返せばミネラルウォーターのボトルを渡された。
     パキッと蓋を開けて数口喉に流し込んだ水はよく冷えていた。
     魏嬰は缶ビールを片手にベッドを背凭れにして床に座る。
     丁度私の視線と四十五度になる位置だった。
     プシュ、とプルタブを起こして缶ビールを呷った魏嬰は、コトリと床に缶を置いて、私に向かって手を伸ばしてきた。
    「藍湛、手、貸して」
     朝と同じ台詞に促されるまま右手を差し出す。
     指先をキュッと握ってきたかと思えば、手指を絡められて心臓が大きく跳ねた。
    「やっぱり、違う……」
    「違う……?」
     何が違うのかと首を傾げたら、魏嬰は私の手を慈しむように両手で挟んだ。
    「藍湛の手をさ、握ると安心する」
    「…………」
    「他の誰にも感じたことがない、あったかい気持ちになるんだよ」
     仕事で色んな客と手を繋いできたけど、こんな感覚は初めてなんだと魏嬰。
    「何か、さ。藍湛の手を握ってると、離すのが惜しくなって、もっと触っていたいって思う」
    「…………」
    「こういう云い方はちょっと悪いかも知れないけど……『藍忘機』は皆のものだけど。『藍湛』は俺だけのものだった?」
     問いに、考えるまでもなく頷く。
    「『魏無羨』も、『藍湛』の前でだけは『魏嬰』だった……」
     彼は一体何を云いたいのか。
    「藍忘機、は仕方がないって思っている。けど。藍湛は俺だけのもので居て欲しかった」
     他の誰にも譲りたくないんだ。
     僅かに睫毛を伏せて、魏嬰は続ける。
    「こんな感覚、初めてなんだ」
     誰かに執着するだとか、独り占めしたいだとか。ずっと触っていたいとか。そんな風に感じるの初めてで、どうしたら良いのか判らなくて。この一ヶ月ずっと、何でか考えて、何となく、これなのかなって、思ったんだ。
    「つまり……?」
     何となく魏嬰の云いたいことが予想出来て、心臓が煩くなる。その煩さは喉元までせり上がってきて、いっそ口から出るんじゃないかとすら思った。
    「前に、俺が好きって意味が判らないって云っただろう?」
    「……あぁ」
    「多分、こういうことなんだろうな、って思った」
    「…………」
    「俺、藍湛のこと、好き……になったんだと思う」
    「…………」
     予想通りの言葉に眩暈がした。
    「こんなこと、云われても困るだろうけど……」
     膝を抱えた魏嬰が、その膝の上に額を乗せる。
    「会えないのが寂しくて……苦しくて……でも連絡先判らないから、どうしようかって考えた時に、あ、そういえば、って」
     唯一連絡が取れるかも知れない手段があるじゃないか、って思ったら動かないでいられなくて。
     けど露骨な書き方したら誰かに見られた時に迷惑掛けるかなって、藍湛にしか判らないと思うメモにしたんだ。
     ちゃんと伝わって良かった。
     少しだけ顔を上げた魏嬰は唇で緩い弧を描き。細めた目で私を見詰めてきた。
    「……初めてだから、自信ないけど……多分、俺、藍湛のこと、好きだ」
     人間が、っていう広い括りじゃなくて。もっと狭い、藍湛が云ってた特別な好きって意味で。
    「こんな気持ち、ぶつけられても、困ると思うけど……云わないままでいるのも、不完全燃焼って感じで落ち着かなくて……」
     最後まで我儘ばっかでごめん。
     くぐもった声に、私の呼吸は止まりそうになった。
    「魏、嬰……」
     名前を呼ぶことで呼吸をどうにか整える。
    「私は……」
    「うん、判ってる……」
    「……判っていない」
     どうせ目の前の彼は私が拒絶を紡ぐと思っているのだろう。
     違う。そうではないのだ。
    「私も……」
     魏嬰と向かい合って、頬に手を添える。
    「好きだ」
    「……は?」
     顔を上げて目を丸くした魏嬰に、私は緩い瞬きをしてから親指で魏嬰の頬を撫でた。
    「他の客と一緒くたにされたくなくて。拒まれるのが怖くて紳士ぶってはいたけれど……」
     本当はずっとお前のことが好きだったんだ。
     そう零したら、魏嬰は酸欠の金魚のように口をパクパクさせてから、いつから? と問うてきた。
    「殆ど一目惚れだ」
    「…………」
    「でなければ、旅行などに誘ったりしない」
     他の男に同じことをしているのかと思ったら気が気ではなかったし、そういう行為は全部私が塗り替えてしまいたかった。
     魏嬰のすべてを、私との思い出でいっぱいにしたかったんだ。
     だから、他の誰かがしたことのないことをしたくて旅行に誘ったのだと肩を竦める。
     結局迷惑を掛けることになってしまったが、と声を暗くしたら、頬に添えた手に手が重なってきた。
    「藍湛、」
    「何だ……?」
    「俺、藍湛と居る時間が一番好きだ」
     これって、特別な好きで間違っていないか?
     改めて問うてくる魏嬰が無性に愛おしく感じて。
     私は体を伸ばして魏嬰の額に唇を押し当てた。
    「藍湛……」
     顔を上げた魏嬰の戸惑い顔さえ愛おしくて、引き合うように今度は唇同士を合わせた。
     触れるだけのキスを何度も繰り返していたら、おずおずと魏嬰の腕が私の首に回ってきた。
     薄く唇が開いたのは本能か。
     歯列を割って舌を差し込んだら、たどたどしく触れてきた舌先。
     とはいえ私も経験は極浅く、時折歯と歯をぶつけながら不器用なキスを重ねた。
    「は……、らんじゃ、くるし……」
     私の肩を押しながら、魏嬰が深く喘ぐ。
     唾液でてらてらと光る唇と、薄ら濡れた双眸が艶めかしく見えて私は己の熱が昂るのが判った。
    「……魏嬰」
     膝を立てたままの魏嬰の脚に下腹を押し付ける。
    「……っ、らんじゃ、」
     当たってる……と恥じ入るような声に余計熱が煽られる。
    「魏嬰が、可愛いから……」
    「可愛くは、ないっ」
     それだけは強調する魏嬰はやはり可愛い。
     そっとジーンズ越しに彼の欲に触れたら、彼の欲もほんのりと昂りを見せていた。
    「ちょ、やめ、ばか!」
    「……したい、というのは、嫌か?」
    「…………」
     うっ、と言葉を詰まらせる魏嬰の熱を撫でながら、真剣な眼差しで彼を見詰める。
    「……興味は……なくもない、けど……」
     掠れた声が私の耳許をくすぐる。
    「男との経験、ない……し」
    「私もない」
     間髪入れずに答えつつも、多少の知識はあると付け加える。
    「何で、知識はあるんだよ……」
    「私もあわよくば、を狙っていた証拠だ」
     わざとらしく口端を上げて見せたら、魏嬰は「嘘を吐け」と唇を尖らせた。
    「そんな気があったら、絶対気付いてた……」
     そういうところには敏感なんだと自負する魏嬰に苦笑が洩れる。
     確かに時間を買っている間は繋がりたいという下心を抱いたことはない。
     しかしキャストでも客でもなくなった今、私と魏嬰はただの一般男性同士で。ましてや両想いだと知ってしまった今、本能的に相手を求める気持ちが降って湧いたように私を突き動かした。
    「嫌なら、何もしない」
    「…………」
    「決してそれだけの関係になりたい訳ではないから」
    「…………藍湛のばか」
    「何故罵られなければならないんだ」
    「だって……」
     無理矢理されたら拒絶出来るけど、そんなことを云われたら逆に拒絶出来ないじゃないか。
     俯いて、魏嬰は私のシャツの開襟部分に指を引っ掛けた。
    「藍湛の、体温を直に感じたいって思うのは……こういうことで合ってるのかな……」
    「大まかには、恐らく」
     私も魏嬰の肌に触れたいとTシャツの裾に手を忍ばせたら、魏嬰は大きく肩を跳ね上げてから、私の肩に額を乗せた。
    「嫌だ、ってなったら……」
    「やめる」
    「じゃあ……」
     良いよ、と胸元に落ちてきた吐息にいよいよ燻っていた火種が燃え上がった。
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    Replies from the creator

    recommended works

    maru464936

    PASTTwitterの過去つぶやきまとめ。リーゼお婆ちゃんが亡くなった時のちょっとした騒動。語り手はフィーネ似の孫だと思う
    無題孫たちの述懐で、「母方の祖父は、物静かで穏やかなひとだった。」みたいに言われてたらいいよね。

    「だから私たちは、祖父にまつわるさまざまな不吉な話を、半ば作り話だろうと思っていた。祖母が亡くなった日、どこぞの研究所とやらが検体提供のご協力の「お願い」で、武装した兵士を連れてくるまでは。
    結論から言うと、死者は出なかった。数名、顎を砕かれたり内臓をやられたりで後遺症の残る人もいたみたいだけど、問題になることもなかった。70を超えた老人の家に銃を持って押しかけてきたのだから、正当防衛。それはそうだろう。
    それから、悲しむ間も無く、祖父と私たちは火葬施設を探した。
    私たちの住んでいる国では、土葬が一般的だけど、東の方からやってきた人たち向けの火葬施設がある。リストから、一番近いところを調べて、連絡を入れて、みんなでお婆ちゃんを連れて行って、見送った。腹立たしいことだったけど、祖母の側に座り込んだまま立てそうになかった祖父が背筋を伸ばして歩けるようになったので、そこは良かったのかもしれない。怒りというものも、時としては走り出すための原動力になるのだ。
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