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    7/1アップルグミ感謝祭3 開催おめでとう小話
    アッシュとルークとナタリアとティアとでおでかけできるかわからない話

    その服を着たのなら「アッシュ 大変だ」
     突然に開いた扉の向こうから、というよりはもう入ってきているルークに声と姿にアッシュは手に持っていたペンをそっと机の上に置き、インク瓶を閉めた。
     何度か聞いたことのあるルークの「大変だ」である。本当に大したことは一割で、けれどその一割で被害を被ったこともあるのでとりあえず話は聞くことにしている。この間はインク瓶を倒されて惨事になったので自衛だ。
     アッシュもルークと生活を始めて一年以上過ぎたのでルークの相手ももう慣れた。……いや訂正しよう。ここまで遠慮がなくなってきたのもそれほど前の話でもなく、「大変だ」の相手は初めはアッシュではなくてガイだった。
     なぜだか2人で戻ってきてから3ヶ月位は何故かガイがファブレ邸にいたからである。マルクトに帰ったんじゃなかったのかと思われたガイは、ルークを補充と言いながらさんざん世話を焼いて、結局ルークに帰れと言われて泣く泣く帰っていった。そうだろう、伯爵様が他国の公爵家でお世話係を喜んでしているだなんて聞いたことがない。何年も行方不明扱いだったルークが心配なのは分かるが、そんな年齢でもないのだ。ルークも時間が経つごとに、感じていた時間的な違和感や新しい世界に慣れて、そわそわしていた空気も落ち着いた。ガイはお役御免だろうとマルクトの一番偉い人からから返還請求が出ていたのである。
     ルークのことはガイに任せてしまっていたアッシュはそのときになんとなく困ったなと思った。もしかして、ガイが引き受けていたルークの面倒な事が自分に降りかかってくるのではと思ったのだ。
     けれど、よくよく考えてみればルークは屋敷の中ではそれほど騒がしいとは思わなかった。観察してみればルークには話す相手がいないのだ。騒がしい、落ち着きのないうるさいと思っていたルークの姿とはまったく違う。朝もちゃんと起きるし、食事も文句を言わない。ちゃんと勉強もしているし、時々思いっきり体を動かしたいと愚痴っていたくらいだ。
    アッシュに対しては特に、遠くから話しかけたそうにちらちらとこちらを見ながら、時々頑張ったような顔をして剣の稽古に誘ってくるくらいだ。アッシュが思っていたルークと違うなと思い始めて、ルークが一番話をしていただろうガイがいなくなって、少しだけルークとの会話が増えた、気がした。
    そこから半年近くかけて、改めて思い返せば分かる。今やルークはさっきのようにろくなノックもなくアッシュの部屋に乗り込んでくるくらいになった。相手に分からないくらいにじりじりと距離を詰めてきた結果だ。アッシュもなんだか今はそれが普通だと思っていたが、はじめはそうではなかったことに気がつくのは今だった。
     話がそれた、ルークが大変だと飛び込んできたことである。
    何がとルークに問う前に今日のルークもすでにソファーのアッシュの隣に座っている。まだ部屋に入っていいとも言っていない。けれどアッシュはルークに対してそれが嫌だとか困るとかいった感情は得には持たなかった。遠慮なく行動しているように見えて、ちゃんとここまでは大丈夫だというラインをルークはちゃんと見ている。あの面倒な眼鏡に友人と言わしめただけはある。アッシュも側でルークを見ていればどうしてもほだされてしまうのはこの1年でよく分かった。
    ガイのように「もう大丈夫だから家に帰れば?」みたいな言葉をかけられたらショックで家出してしまうかもしれない。それくらいにもうアッシュの中にルークが側にいる生活がなじんでしまっていた。そう言われないように、一応それなりに努力はしているつもりだった。
    つまりはルークとの生活を手放す気がないと言うことだ。幸いにしてまだルークはじりじりとアッシュとの距離を詰めてきている途中だ。まだいける、とアッシュは思っていた。だからルークが時々起こす無茶な言動も気にせず受け入れられるのである。
     現に、ルークが大変だと言って入ってきてから何が大変かを伝えないのはアッシュに話を聞いてほしいからだ。ということは、アッシュに何かしてほしいことでもあるのだろうか。少し頼られるような、甘えられているようなそんな感じがして悪い気はしない。
    今日は特別な用事がなかったから、アッシュは部屋で全く急がない次の視察の書類をまとめていたのである。公爵子息としての仕事はそれほど多くない上に大体ルークとセットである。だから今日も明日も特にルークには急ぎの仕事はなかったはずだ。とすれば個人的な用事……アッシュに言ってくるのだからきっと関係があるのだろう。
    「何があった」
    「明日! ティアが来るってさっきナタリアから連絡がきて! 明日俺用事ないから一緒に出かけようってなったんだけど」
    「……それで?」
     一緒に出かける、のところで浮かべた笑顔にアッシュは少しだけ面白くない感情が脳裏に浮かんだがそっと押し込める。そうか、ティアと出かけるのか、嬉しそうに。これがガイ相手ならイライラしたら蹴れるのにと思うところが末期である。大切な仲間だと言うことはアッシュだって十分に理解しているし、これが初めてでもない。アニスが来たときだって楽しそうに出かけていくこともある。けれど、ティアが相手だと他の誰ともルークの反応が違う気がするのだ。いや、いまルークの一番近くに毎日一緒にいるのはアッシュなのだ。ルークがそう選んで側にいるのだから間違いない。
    ちょっとルークとの時間を分けているだけなのだから。
    誰にとも無くそう言い聞かせて、アッシュはルークに向き直る。
    「それで、明日出かけるときに何を着ていこうかなと思ってクローゼット見たんだけど、服が無いんだ!」
     大変だろ? と首をかしげるその顔があざといのは、これから何をアッシュにお願いするつもりなのだろうか。大丈夫だ、成功している。
    「服なら次の季節のものまで母上が用意してただろ……ああ、街に着ていく服か」
    「そう! いつもの白いコートみたいなのしかなくって、毎回同じじゃかっこ悪いだろ? 明日までに用意するのもまあできなくはないけど、一人で街に降りたら前怒られたし、あんまり自分で服買ったことないしどうしようかなって思ったら」
     そこでルークはアッシュに少しだけ身を寄せると、その着ている服に目を落とした。
    「そういえば、俺とお前と服のサイズ一緒じゃん? アッシュの服貸して!」
     確かにいまだ二人のサイズは変わらずで、服を仕立てるときも母の趣味で二人そろいのものを同じサイズでよく作られてしまっている。少しずつ意匠が違うのだ。だから同じと言っても服を交換はできない。けれど、街に行くような一般的な既製服なら誰が着ても変わりは無いだろう……が、アッシュは少し考える。
     顔も同じだしアッシュが着て違和感がないならばルークが着ても問題ないのだろう。けれどルークとアッシュの服の趣味は基本的に違う。ルークをよく知る人が見ればルークの服ではないと分かるのでは……それでいいのか。いや、ルークのちょっと格好つけたい少年心もある程度は守ってやりたい気持ちがないわけではないのだ。アッシュだってナタリアに「それルークの服を間違って着たのですか?」とか言われたら恥ずかしい。
    「いつもの服でも何も言わないだろ」
    「えー、だってアッシュがいつも着てるような服なんかかっこいいなって思ってたから、俺が着てもかっこいい感じになるかも? って思ったから、なんだけど……アッシュ?」
    「仕方ないな、そこのクローゼットから選んで持って行け。右側の奥だ」
    「え? どうしたの? 貸すの嫌だったんじゃないの? そんな感じの顔だったよな?」
    「おまえがかっこいいと思ったやつでも持って行けばいい」
    「あ、うん。じゃあ……借りる。アッシュありがと」
     態度を急変させたアッシュを不審に思いながらもルークはアッシュの手を一瞬握ってありがとうと言って部屋の奥のクローゼットへうきうきと駆けていった。
     一方アッシュはその背中を視線だけで追って、ルークがどの服を選ぶか監視していた。
     ルークがかっこいいと思った服はどれだ? 1月前に一緒にケセドニアに行ったときか? けれどあのときの服は夏使用で今のバチカルの気候には合わないはずだ。だとすれば……
     アッシュはルークの好みがどういったものか知りたかっただけだった。次に用意する服の参考にしよう。ルークにかっこいいと思ってもらうために。
     そこまで考えてもちろん表情は仕方ないなといった顔をしている。そうだ、仕方なく貸すのである。ルークがアッシュにお願いしてくることは少ないのだから、たまにはいいはずだ。
     そんな言い訳をしているうちに、ルークは衣装を抱えてソファーまで戻ってきた。
    「はい、これアッシュの。俺の着るやつとあんまりかぶらないようにしたから。おんなじだとティアもナタリアも見分けれるとは思うけどややこしいから」
     そしてはい、と言う言葉とともに一着の衣装がアッシュの手元に現れた。
     これアッシュの?
    「どういうことだ」
     訳が分からなくてルークの持っている衣装がどんな服だったか確認するのを忘れるところだった。黒のシャツに黒のジャケット……アッシュは黒しか持っていなかった。しかもどれも似たり寄ったりだった。特別区別もなく、ルークはこの服の何を気に入ったのか、差がよく分からなかった。黒いのがいいのだろうか。
     一方アッシュの手元にあるのも黒よりもグレーに近いコートで二人が並んだら違う感じにはなるだろう。これで色が白のものだったら二人の色味がいつもと逆転しただけになるので多分笑われるだけだ。
     そうだ、二人だ。ルークとアッシュの二人分の衣装にティアトナタリガが二人を見分けられるように? と言うことは。
    「アッシュも行くだろ? ナタリアも来るし」
    「聞いてねぇぞ」
    「あ、だからこれナタリアからの手紙な!」
     忘れていたかのように懐から一通の手紙を取り出したルークが遅すぎる。けれど読む前に大体のことは分かった。ルークがティアと出かけられるのをウキウキとしていただけでなくて、4人で出かけるなんて嬉しいなと思っていた……ことにしよう。多分ルークの脳内はこうだ。ナタリアとアッシュを一緒に連れ出してデートさせよ! だ。一緒に出かけるのが嫌なわけでもないが、ルークの妄想はだいぶずれている。
     けれど仕方ない、ルークなのだから。思い込んだらなかなかその思い込みが溶けてしまわないのも、それをいつかアッシュで固めてやろうと目の前で決意されていることも。
     そのくらいうかつなところがルークのいいところでもあるのだ。
     ナタリアからの手紙には一緒に出かけませんかとしか書いていなかった。それもルーク宛である。アッシュ宛てではなかった。これはナタリアは3人で行くつもりなのでは? ナタリアも少し思い込みが激しいところがあって、以前もそのままではルークは渡しませんわ、などと言われたことがある。バチカルの最上階で育つとそうなるのだろうか。意志が強いのは尊敬できるところでもあるのでいいことだ。だが、アッシュを置き去りにしないでほしい。
     多分、アッシュも行く事も想定されているだろう。行っても行かなくても何も言われなさそうだ、とも思う。けれども、楽しそうに衣装を選んでいたルークを見て行かないとはアッシュは言えなかった。
     それにアッシュはルークと出かけたかった。今日はじめに明日出かけるからと言われた時の落胆した気持ちを思い出す。そうだ、一緒に行くのがなぜ自分ではないのかと思ったからだ。だから。



    「俺たち4人で来たんだよな?」
    「そうだな、何か不満でもあるのか」
    「べっつにー、せっかくティアとナタリアと一緒なのに二人とも楽しそうでいいんじゃ?」
    「お前もあそこに行けばいいだろう。見守ってやる」
    「その見守ってやる、は心惹かれるけど、俺はこっちの肉串の方がいいかな……」
    「まあ時間がかかりそうだから、買ってきていいぞ」
    「そこは俺が買ってくるって言わないんだな」
     笑いながらベンチから立ち上がったルークの背中を見つめてアッシュは一息ついた。結局バチカルの市街地に4人で降りたのに、女子二人が話し始めるとアッシュとルークがそれぞれエスコートするタイミングなんて何もなかった。後は財布を出すタイミングを間違えないようにするだけである。もちろんルークは自分で買わせた。ルーク大好き女子の心証を損ねないことがアッシュにとって一番なのである。これでもかわいいお店にルークごと連れて行かれそうになるのを引き留めてやったのだから感謝してほしい。次に行きたそうな店はもうちょっと落ち着いた服飾品店だから、外出できる服をルークが持ってないと呟けば喜んで二人が選んでくれるだろう。ルークと一緒であまりセンスのないアッシュが選ぶよりいいかもしれない。
     今日のルークの出で立ちは、ティアもナタリアも何も言わなかったがアッシュのふりをし損ねたルークの図になっていて、単体で見れば服もぴったりだし、ルークも黙っていればスマートな青年なのだから似合っているはずなのに、どうしても隣にアッシュがいるせいでアッシュの服だと二人にはばれていた。少しでも格好をつけたい少年心を汲んで黙っていてくれている。
     ルークはルークらしくいればいいのに。ルークからかっこいいと思われるのも嫌ではないが、ルークはアッシュを目指しているのか? 多分違うとは思うのだけれども昔から羨望のようなそんなまなざしを受けていた記憶はある。ルークの前で格好つけていていただけの話なのだが、ルークはまだ気がついていないのだろうか。
     気がつかないでもいいのだけれど。
     ティアと会うのを楽しみにしていたのならば、多少かわいい店でも一緒に行けばいいのにアッシュが声をかけたらほいほいアッシュについてきた。ときおり、何か言いたそうにアッシュとルーク自身の服を見比べて首をかしげているのは、かっこいいと単純に思っていたのが服のことではなかったと気がついたからではないか? そろそろ気がついてもいい頃ではと思うが、アッシュはそれほど急いでいないので言わなかった。
     まだ時間はあるのだ。ゆっくりと少しずつ気づけばいい。ずっと隣にいることができるのだから。
     とりあえず、肉を食べ終わったルークをティアとナタリアの間に放り込もう。次はアッシュと出かけるための服を用意してもらうために。

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    その服を着たのなら「アッシュ 大変だ」
     突然に開いた扉の向こうから、というよりはもう入ってきているルークに声と姿にアッシュは手に持っていたペンをそっと机の上に置き、インク瓶を閉めた。
     何度か聞いたことのあるルークの「大変だ」である。本当に大したことは一割で、けれどその一割で被害を被ったこともあるのでとりあえず話は聞くことにしている。この間はインク瓶を倒されて惨事になったので自衛だ。
     アッシュもルークと生活を始めて一年以上過ぎたのでルークの相手ももう慣れた。……いや訂正しよう。ここまで遠慮がなくなってきたのもそれほど前の話でもなく、「大変だ」の相手は初めはアッシュではなくてガイだった。
     なぜだか2人で戻ってきてから3ヶ月位は何故かガイがファブレ邸にいたからである。マルクトに帰ったんじゃなかったのかと思われたガイは、ルークを補充と言いながらさんざん世話を焼いて、結局ルークに帰れと言われて泣く泣く帰っていった。そうだろう、伯爵様が他国の公爵家でお世話係を喜んでしているだなんて聞いたことがない。何年も行方不明扱いだったルークが心配なのは分かるが、そんな年齢でもないのだ。ルークも時間が経つごとに、感じていた時間的な違和感や新しい世界に慣れて、そわそわしていた空気も落ち着いた。ガイはお役御免だろうとマルクトの一番偉い人からから返還請求が出ていたのである。
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