現パロリンゼル~中学生編~辺りに歓声が響く。
中学生活最後の運動会。
生徒観覧席のボルテージは、最高潮だ。
現在のプログラムの競技は、男子スウェーデンリレー。
ゼルダのクラスは今、第1位でバトンを繋いでいた。
「ゼルちゃん!うちのクラスすごい!!このまま1位で逃げ切ってほしいよね!」
「え!?あ、う…うん!」
隣の椅子に座るクラスメートに突然話しかけられて、ゼルダは慌てて返事をした。
クラスのみんなが懸命に走る男子達を応援する中、しかしゼルダは全く違うところに意識を向けていたから。
リレーはそろそろクライマックス。
運動場のトラックには、次々とアンカーのベストを着た生徒達が並んでいく。
その中の、青色のハチマキとベスト。
ゼルダの目は、そこに釘付けだった。
最初にバトンを持って飛び込んできたのは、緑のハチマキ。
ゼルダのクラスのアンカーがバトンを受け取って、走り出す。
それからだいぶ経ってから、2位のクラスがバトンを渡す。
その後は少し団子状になって、3、4、5…そして6位の走者がアンカーにバトンを渡した。
バトンをしっかりと受け取って駆け出す、青色のアンカー。
(リンク……)
リンクは6位でバトンをもらって、走った。
わぁああ!!と、さらに歓声が大きくなる。
青のハチマキが、次々と前の走者を抜かしていったからだ。
6位から5位、4位、3位、あっという間に、2位に。
そしてリンクはついに、1位を走るゼルダのクラスのアンカーを前方に捉えた。
スウェーデンリレーは、100m、200m、300mと後のランナーになるほどに、走る距離が長くなる。
アンカーが走るのは、300mだ。
1位と2位にはかなりの差があったが、300mを走るうちに、その距離はぐんぐんと縮まっていった。
緑のハチマキのアンカーが、後ろからのあまりの追い上げに、一瞬ギョッ!?とした表情をしたのが見える。
周囲のみんなは椅子から立ち上がって、喉を枯らさんばかりに応援の声を上げている。
分かってる。自分が応援すべきなのは、クラスメートのランナーだ。でも…
(リンク…、頑張って…!!)
心の中でそっと、精一杯の声援を、リンクに送った。
ゴールの手前で青と緑のハチマキは並び。
最初にゴールテープを切ったのは、青色だった。
わぁあああぁ!!
悲鳴にも似た歓声が、生徒観覧席からも、保護者観覧席からも、上がる。
気付かぬうちに、自身も腰を浮かせてリレーの行く末を見守っていたゼルダは、ストン…と力が抜けたように、椅子の上に座った。
「……かっこ、よかった…」
そしてぽつんと落ちたゼルダの言葉は。
まだ冷めやらぬ大歓声の中に、消えた。
運動会も無事全ての競技を終え、皆で後片付けをし、下校時間を迎える。
ゼルダはいつものように1人、校門前に向かった。
誰と帰ると、約束をするわけではない。
でもいつも、校門へ向かうと、リンクがそこで待っているのだ。
だから、ゼルダも友達と帰りの挨拶を済ませて、校門向かう時は1人で行く。
でも今日は、様子が違ったようだ。
いつものようにリンクは校門前に、いた。
でも、1人じゃなかった。
周りに、たくさんの女の子がいる。
きっと、今日の運動会で大活躍したから、クラスの女の子達に呼び止められたのだろう。
いつも、リンクと何となくここで会って、そして一緒に帰るけれど。今日は無理みたいだ。
(仕方…ないよね……)
だって、リンクは人気者なのだから。
彼女でも何でもない自分が、独り占めを、していいわけがない。
今日は1人で帰ろうと、なるべく校門の端っこを歩いて、邪魔にならないように立ち去ろうと思っていたところに。
女の子達の声に混じって、リンクの声が耳に届いた。
「ゴメン、俺帰る」
えぇーーっという女の子達の声を振り切って、リンクは歩いてきた。こちらに向かって。
「ゼルダ!」
名を呼ばれて振り向いた先に、眩しい笑顔。
それが自分に向けられた事に、ゼルダは胸の高鳴りを押さえられないのであった。
リンクに手を引かれて、歩く。
でもこっちは、家の方向じゃない。
「リンク…どこに、行くのですか?」
「ちょっと、寄り道しよう」
そう言って、リンクが連れてきてくれた場所は、川の土手だった。
ここから川の向こうに沈む夕日が美しい事を、この辺りに住む人ならば誰もが知っている。
お互い何も言わずに、自然に土手の草むらに座る。
秋が近付いて、日が傾くと少し涼しくなった風が、2人の髪をもてあそぶ。
天候は快晴で、最高の運動会日和だったから、今日の夕陽もとても美しいのだろう。
空が藍に染まり、橙と青が美しく織り混ざる様を、ゼルダは言葉もなく見つめた。
(綺麗………)
地元の人間ならば、よく見慣れた景色だというのに。
どうして今日はこんなにも、美しく見えるのだろう。
すごく感動して、なぜだかドキドキもして。
リンクは一体どんな気持ちでこの景色を見ているのだろうと、気になってしまって。
リンクの方を向いたら。
リンクは、ゼルダの方をじっと見ていた。
自分が振り向いたから、隣に座っていたリンクの顔がとても近くて。
ふと、こんな事が前にもあったと。ぼんやりとした意識の中に思い出す。
少し前に、図書室でリンクと2人で勉強会をした時のことだ。
リンクが、今日の授業の内容がよく分からなかったから、教えてほしいと言ってきたから。
2人で図書室に行った。
最初は、他の人もいっぱいいて。普通に勉強会をしていたのに、いつの間にか誰もいなくなっていて。
そんな事にも気付かずに、ノートにペンを走らせるリンクを眺めていたら。
ノートから顔を上げたリンクと、目が合ったのだ。
すぐ目の前に、リンクの顔があって。
その距離が近すぎると、分かっていたのに。
離れる事が、できなかった。
きっと、捕らえられたのだ。その、澄んだ青の瞳に。
それはうるさいくらいに心臓が高鳴った自分が見た幻だったのかもしれないけれど。
リンクの顔が、さらに近付いてきて。
そっと瞳を…閉じようとして。
図書室の扉がガラ…ッと開いた音に、お互い弾かれたように離れた。
またリンクの顔が、近付いてくる。
これも、ドキドキしている私の見る、幻…なのだろうか?
でも、リンクは1度止まって。そっと言ってくれたのだ。
「この間の、図書室の…続き」と…
だから、今度こそ…瞳を閉じて。
今にも爆発しそうなこの心臓の音を、どうしたらいいのだろう…と思っているうちに。
さほど時間をあけずに、ふに…、と。唇に柔らかいものが触れてきた。
秋が近付いたとは言え、快晴の運動会で日に焼けて。少しかさついた、リンクの唇。
チュ…ッと音を立てて、離れていく温もり。
目を開けて見上げたリンクの顔は、夕日で照らされただけではないと分かるくらい、赤く染まっていて。
きっと自分もそうなのだろうなぁと思ったら、とても恥ずかしくなって。
でも、お互い絡み合ってしまったみたいに、視線を逸らす事ができなくて。
少し潤んだように見える瞳で、リンクは聞いた。
「また、しても…いい?」って…
頭がぼんやりとしてしまっていて、何も考えられなかったけど。
でも気が付いたら、しっかりと頷いていた。
頬を紅に染めて、見つめてくるゼルダは。何を思って、俺からのキスを受け取ってくれたのだろう。
図書室でうっかり2人っきりになってしまって。気持ちを止められなくなってしまって、ついキスをしそうになった時。
でももう少しのところで誰かが図書室の扉を開けてくれたから、とどまる事ができてほっとしていたのに。
でも結局、無理だった。
夕陽に照らされたゼルダが、とても綺麗で、眩しかったから。
顔を近付ける俺の意図が伝わってなかったら、困ると思って。
この間の、図書室の続きだって、ちゃんと言ったけど。
でもゼルダは、瞳を閉じてくれて。
初めて触れたゼルダの唇は、ふわふわしてて、とても柔らかくて。
もっともっと、って思ったけど。初めてなのに、あんまりしちゃゼルダをびっくりさせてしまうから。
すごく名残惜しかったけれど、唇を離して。
でもやっぱり、またしたくなってしまって。
聞いてしまった。
またしても、いい…?って。
付き合ってもないのにキスして、その上何言ってんだ俺…って思ったけど。
ゼルダは、頷いてくれたから。
どうしよう。
嬉しくてもう、心が舞い上がってしまって。
次…いつ、できるかなって、そんな事ばっかり考えてしまって。
ドキドキが止まらないな…って思ってたら、ゼルダがもじもじと恥ずかしそうに下を向くから。どうしたのかな…って。
そしたらゼルダが、とっても小さな声で、言ったのだ。
「あの…今日のリレー、リンクすごく、かっこよかった…です」
うっわ……///
今、それを言うのは、反則だ。
どうしよう。
もう、今すぐにでも。
もう1度、キスしたい。