Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    こともり

    @mg_wym3

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    こともり

    ☆quiet follow

    ボツになっためだ→にかss。着地点を見失ったので供養。糖度低めのビター寄り。

    タップすると全画面で読みやすくなるらしいです。

    #めだにか
    doodlebug

    花いちもんめ「あの子がほしい」と言われる側の子供だった。花いちもんめの話だ。
    俺は、人が自分に何を求めているか、何を期待しているかが何となくわかる。わかってしまう。幼い頃からそういう視線に晒されてきたから過敏になっているのかもしれない。
    だから自分を変えた。何も求められない人間になった。友達も恋人もいらない。引き換えに手に入れた日常は快適だった。期待されないってこんなに楽で身軽なんだと初めて知った。
    そして迎えた二年のクラス替え。話し相手、いや友達が一人できた。目高優一くん。入学式で会った俺の師匠。
    目高くんは不思議なひとだった。飄々としていて、ともすれば近寄りがたい雰囲気だけど、話してみると気さくで面白い。どこのグループにも顔が利くのにどこにも属していない。普通なら角が立ちそうなことも、目高がそう言うならとみんなが納得する。
    まるで水のようだ。輪の中にするりと入り込んでは、用意された器に合わせて形を変える。だから誰とでも付き合える。こういう人を世渡り上手と呼ぶんだろう。
    そして何より——故意か無意識か分からないけど——目高くんは心の内を他人に悟らせない。
    俺は人の機微を察するのに長けていると自負があったのに、この人に至っては全然分からない。
    この人は俺になにを求めてるんだろう? 疑問に思って尋ねたことがある。師匠はなんで俺と関わるんですかって。目高くんの答えは「一緒にいると面白いから」だった。
    「なんかツボなんだよね、二階堂って。見てて飽きないっていうか」
    「見てて飽きない……それって昆虫観察みたいな?」
    そういうところだよと言われた。目高くんは笑っているけど、俺は今の言葉のどこがツボだったのか分からない。
    「昆虫とは思ってないけど、まあ見てて面白いって点では近いかも」
    あくまでフラットな物言いだった。近すぎず遠すぎず、引かれたラインを超えてこない。その関係が心地よかった。この人なら『ただの友達』になれると思った。期待も見返りも求めない、ただの掛け替えないのない友達に。
    そんなふうにして、高校生活二年目で友達がひとり出来た。

    迎えた三年目、俺と目高くんは同じクラスだった。『あいつは他に友人もいないし目高に任せておこう』って感じだったのかもしれない。真相はともかく、同じクラスになれたのは有難い。ひとりでもやっていく覚悟はあったけど、目高くんと話すのは楽しかったから。
    違和感に気付き始めたのは初夏だった。目高くんは変わらず話し掛けてくれるし、グループ学習であぶれた俺を輪に招いてくれたりもする。
    だから変わったのは態度じゃない。たぶん、気持ちのほうだ。
    二階堂明に向けられる視線のほとんどは恐怖や嫌悪に起因する。今ではすっかり慣れて気にならないが、逆にそれ以外の感情を孕んだ視線はちょっと特殊だ。だからすぐにわかる。
    「おお……すごいな、超能力?」
    振り返ると目高くんがいる。ちょうど声掛けようと思ってたと言って、教室までの短い距離を並んで歩く。
    俺はいつも通り自分の足の爪先を見ながら、振られた話題にぼそぼそ返す。目高くんの視線は多分つむじ辺りに注がれていると何となく察せる。クラスでは席が離れているけど、背中に視線を感じる時は大体目高くんだ。
    「お、目高じゃん」
    教室に入ると窓際から声が上がる。
    「ほんとだ。いいタイミングで来たな」
    「ん? なんの話?」
    「この間言ってたゲームの配信。見る?」
    「おー、見よっかな」
    手招きされた目高くんが俺を振り返り、じゃ、と紡いだ。頷くために顔を上げて、一瞬の視線の交錯。名残惜しげに絡んだ熱が、黒目の奥でふっと揺れた。
    一瞬身が竦んだ。誤魔化すようにさっさと自分の席へ向かう。
    目高くんの目は口ほどに物を言う。
    俺を見る目高くんの視線には、人が何かを求める時の熱が宿っていた。

    そうして夏休みに入った。大学入試に向けて勉強漬けの日々で、他のことをしてる余裕なんてなかった。おかげで余計なことを考えずに済むのは幸いだ。
    家だと捗らない時は学校の図書室へ行く。市立図書館だと誰かに会う危険性があるからだ。冷房のない図書室にわざわざ来る生徒はほとんど居ない。
    職員室で鍵を借りて図書室へ行く。扇風機を付け、窓を開けて籠もった熱気を追い出した。三階は風通しが良く意外に涼しい。誰も居ないし、快適。
    しばらくテキストに没頭していた。
    「二階堂?」
    呼び掛けられて振り向く。
    「あ……目高くん」
    図書室の出入口に目高くんが立っていた。夏服に鞄を提げてこっちに歩いてくる。
    「何してんの。勉強?」
    「うん」
    「図書館行けばいいのに。ここ暑いじゃん」
    「図書館は誰かに会いそうだから……。目高くんは?」
    「俺は数学の補習」
    そう言って胸元をぱたぱた扇ぐ。暑いんだろうな。俺は人が居ないだけで快適だけど、普通はこんな蒸し暑い部屋で勉強なんかしないよねって他人事みたいに思う。
    「そんじゃ、勉強頑張ってね。ちゃんと水分と塩分摂るんだよ」
    「うん。ありがとう」
    お母さんみたいなことを言う。階段を下りる音が遠ざかっていくのを聞きながら俺もテキストに向き直る。片っ端から問題を解いていく。分からない問題に付箋を貼って途中まで書いた式のミスを見つけて解き直して、四ページほど進んだ辺りで、首筋にヒヤリとしたものがくっ付いた。
    「わあっ!?」
    持っていた赤ペンが落ちる。飛び上がって後ろを見ると「いい反応すんね」と笑った目高くんがペットボトルを差し出した。
    「差し入れ。どっちがいい?」
    「え? えーと、じゃあこっちで……」
    カルピスを受け取る。残ったポカリスエットは目高くんが引き取った。さらにコンビニの袋から塩分タブレットも出てきたので、笑われた恥ずかしさよりも感謝が勝った。素直にお礼を言う。べつにいーよ、と軽く返される。
    「ここ座っていい?」
    「あ、うん。どうぞ」
    向かいに座った目高くんは筆箱と教科書を取り出す。ルーズリーフを広げた拍子に、無造作に置いてあった俺のクリアファイルへ視線がすっと移った。
    「……あ、ごめん。勝手に見た」
    「大丈夫だよ。どうせ模試の結果だし」
    「A判定、すごいね」
    「でも結構ギリギリだった」
    「ギリでもAはAじゃん? 俺の結果見たら二階堂絶望して倒れるよ」
    俺の第一志望は県外の大学だった。もし第一志望に受かれば向こうで学生寮に入るつもりだ。目高くんは県内を第一志望にしていたから、卒業後にばったり再会するなんて奇跡はまず起こり得ない。
    何となく、卒業したら疎遠になる気がする。目高くんは大学で更に友達が増えるだろうし。なら俺から連絡すれば良い話だけど、今でさえ躊躇って一度も連絡したことない。なのに卒業した後なんてもっと無理な気がした。
    「受かるよ。二階堂なら大丈夫」
    模試で落ち込んでると思ったのか、気丈な声に励まされる。ありがとう、と自然に笑みが溢れた。言われた言葉をお守りのように抱く。受かるよ。二階堂なら大丈夫。
    そこからお互い無言でシャーペンを走らせた。蝉と運動部の掛け声の合間に紙をめくる音。汗でじっとりした頭を吹き抜けていく風が気持ち良い。
    「はー……」
    ぐっと伸びをする。今日のノルマがやっと終わった。
    「休憩しよっか」
    目高くんもシャーペンを置いてポカリスエットを呷る。それを見て急に喉が渇いた。集中するとつい飲食を忘れてしまうのは悪い癖だ。蓋を開けてカルピスを一息に飲み込む。
    「この本返してくるね」
    「俺も行くよ」
    机に積み上がった参考書や辞典を二人で戻しに行く。背の高い目高くんはひょいひょい本棚に入れていくけど、俺は背伸びをしなければ一番上まで届かない。
    爪先にぐっと力を込めて腕を目一杯伸ばす。最後の一冊を戻そうとした、その時だった。
    「ひっ……!」
    手から本が滑り落ちる。
    脇腹をつつ……と下から上になぞられて変な声が出た。咄嗟に口元を押さえて戦犯の方を睨む。
    「ごめんごめん。面白い反応してくれるからつい」
    目高くんは落ちた本をひょいっと元の場所に返す。
    「くすぐり弱いの?」
    「弱いよ……」
    本棚の下段へ視線を逃がす。妙に高い声を出してしまったのが気まずかった。
    「ふぅん。弱いんだ」
    顔を上げた時にはもう手遅れだった。十本の指先が脇腹を這い回る。
    「あははは! くすぐったい、ねぇ、目高くん待って、あはっ、しんじゃう、しんじゃうからっ」
    爆発したように笑い転げた。ばたつかせた手足は簡単に往なされて、ちっともやめてくれない。いつの間にか隅の方に追い詰められて、背中と本棚がくっ付いているから逃げることもできなかった。
    「はぁっ……はぁ……、」
    笑いすぎて頭がぼーっとしする。くすぐり地獄からやっと解放されたけど、ずれた眼鏡すら直す気力がない。
    不意に目高くんの手がゆらりと持ち上がる。反射で肩がびくっと跳ねた。
    「違う違う、もうしないから」
    あやす様にそう言って、目元をやさしく撫でた。一拍遅れて、生理的に浮かんだ涙を拭ってくれたとわかった。
    そのまま下に降りた指先が俺の顎を持ち上げる。導かれて、目線の高さが同じになる。瞳の奥に陽炎のような揺らめきを見る。
    このひとが俺に何を求めているのかわかる、わかってしまう。
    「……俺が言うのもなんだけど、逃げないの?」
    逃げていいなら逃げたかった。でも身体が動かない。かろうじて視線だけ逸らすと、沈黙の果てに眼鏡が攫われる。目高くんの片手が目元を覆う。視覚を奪われて、薄闇の中で唇にポカリの味が移った。
    触れてすぐ離れる。目隠しも取れる。塞がれている間は何も見えていなかったから、キスも俺の勘違いだと思いたかった。でも微かに残ったポカリの味がそれを否定する。
    取り去った眼鏡を俺の耳に掛け直す。吐息が鼻先を掠める距離で黒目に射抜かれる。
    ほしい、と目高くんは言った。
    何を? 聞き返すまでもない。
    中学時代の俺でも鈴木くんでもなく、誰もが避ける"あの"二階堂明に向けて、ほしいと言っている。だからこそ恐ろしかった。無理だ。応えられない。何も求められない人間になった筈なのに、どうして。
    音楽室から聴こえる音色が外れた音階を踏む。あの子がほしいと歌う声が記憶の殻を破って鳴り始める。
    涙が出た。何の涙か分からない。
    ただ、もう戻れないという確信めいた予感だけが漠然とあった。
    そんな目で見つめられて、俺はなにを渡せばいいというのだろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏😇😇😇😇❤🙏✝🇴⛎✝🇴ℹ😭🙏🙏🙏❤♓🇴💲♓ℹℹ💕💲🅰ℹ⏮🇴🙏🙏🙏🙏🙏☺💘😭😭😭😭💕💕💕💕😭🙏😭😭😭😭😭😭👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    isona07_2

    DOODLEめだにか。二階堂君の初恋を永遠と咀嚼したいと思っている人間がかいた。短い。ドラマおめでとうございます。楽しみです。円盤買いますね。「二階堂…」
     師匠の声が聞こえる。それは甘く蕩けそうな声音で、僕はその声を聴いた瞬間に甘いチョコレートを思い浮かべてしまった。僕の頬に、師匠は手を添える。その手はザラザラとしていて、手が荒れているな、と思った。師匠の手は僕より大きい。それでいてあったかかった。肌が乾燥していてザラザラしているのがちょっとイヤだったけど、まぁ、許容できる範囲だった。
     二階堂、と、もう一度僕を呼ぶ。その声に「なぁに」と答える僕の声はまるで猫の鳴き声のようで、何だか恥ずかしくてたまらなかった。誤魔化すように瞬きをする。そんな僕の様子に師匠はクスリと笑って「カワイイ」といった。カワイイ、可愛い!?僕は師匠のその発言に目を丸くせずにはいられない。正直『可愛い』という言葉は人生で腐るほどに言われてきた言葉だ。僕が高校生になる前、周りの人たちはは躍起になって僕にカワイイという言葉を投げかけてきた。僕としては他人が僕に向けて伝えてくる『カワイイ』という言葉はとても不思議で仕方がなかったのだが、それでも周りの皆は僕の事をひっきりなしに可愛いというので、ああ僕は可愛いのだな、と、そのようなことを僕は不必要に必然的に理解 2311

    recommended works

    isona07_2

    DOODLEめだにか。二階堂君の初恋を永遠と咀嚼したいと思っている人間がかいた。短い。ドラマおめでとうございます。楽しみです。円盤買いますね。「二階堂…」
     師匠の声が聞こえる。それは甘く蕩けそうな声音で、僕はその声を聴いた瞬間に甘いチョコレートを思い浮かべてしまった。僕の頬に、師匠は手を添える。その手はザラザラとしていて、手が荒れているな、と思った。師匠の手は僕より大きい。それでいてあったかかった。肌が乾燥していてザラザラしているのがちょっとイヤだったけど、まぁ、許容できる範囲だった。
     二階堂、と、もう一度僕を呼ぶ。その声に「なぁに」と答える僕の声はまるで猫の鳴き声のようで、何だか恥ずかしくてたまらなかった。誤魔化すように瞬きをする。そんな僕の様子に師匠はクスリと笑って「カワイイ」といった。カワイイ、可愛い!?僕は師匠のその発言に目を丸くせずにはいられない。正直『可愛い』という言葉は人生で腐るほどに言われてきた言葉だ。僕が高校生になる前、周りの人たちはは躍起になって僕にカワイイという言葉を投げかけてきた。僕としては他人が僕に向けて伝えてくる『カワイイ』という言葉はとても不思議で仕方がなかったのだが、それでも周りの皆は僕の事をひっきりなしに可愛いというので、ああ僕は可愛いのだな、と、そのようなことを僕は不必要に必然的に理解 2311