「俺の僚機がこんなに可愛いなんてッ!!」 最近の俺はどこかおかしい。
ロッカールームで一人、海軍大尉のトム・“アイスマン”・カザンスキーは悩んでいた。
「…おかしい…ありえない…こんなことを思うなんて…」
「戦闘機に頭でもぶつけたか…?…いや、ぶつけていないだろう!俺!…」
アイスマンは一人なのをいいことに、独り言をロッカーにぶつけていた。しかも、かなり頭のおかしい独り言を。
「…あの、マーヴェリックだぞ?」
そう、アイスマンの目下の悩みはTOP GUNの同期であるピート・“マーヴェリック”・ミッチェルの事だった。
確かに、問題児の代名詞であるマーヴェリックであるなら、優等生であるアイスマンが悩んでいてもおかしくはなかった。何なら同期皆、あのやんちゃ問題児に悩んでいるだろう。…マーヴェリックの相棒であるRIO、ニック・“グース”・ブラットショウは一緒に楽しむ愉快犯的なところはあったが…
「…なぜ…?なぜなんだ…俺…」
そう、アイスマンは言いながら頭をロッカーにガンガンぶつける。
「…どうしたんだ…?アイスマン…?」
その音に反応してか、シャワーが終わったからか同期たちがロッカールームに続々と入って来た。その中には、今アイスマンの悩みの種でもあるマーヴェリックもいた。
「…い、いや…何でもない…。」
アイスマンは動揺を隠し答えたが、同期から見ても明らかにおかしかった。まぁ、流してやるのも情けか…という同期のやさしさでこの話は終わるはずだった。…だったのだ。ただ一人空気が読めていないヤツが言い出さなければ、だが…。
「…いや、明らかにおかしい!…どうしたんだよ…アイス」
アイスマンが気づいた時には遅かった。その声を聞き、音源の方へ顔を向けると思いのほかマーヴェリックはアイスマンの直ぐ側にいた。あまりの近さにアイスマンは身を固くしたが、それでも近寄ってきたマーヴェリックの顔をじっと見ていた。
アイスマンより少し下にある頭は、きれいなブルネットでシャワー後のため湿っている。いつもの髪型よりボリュームがなく、まるで雨に濡れた子犬のような可愛さがあった。アイスマンを心配そうに見つめている瞳は、お互いの体格の違いのため上目遣いになっており、瞳の色から目の形までよく見えた。希少なグリーンアイは、キラキラと星が瞬いているように光っていて、いつまでも見つめていたくなる様な魔性な魅力があった。
「…なぁ…アイス、どうしたんだ?」
明らかに動揺しているアイスマンを無視し、マーヴェリックはもっと近づいた。
「…なッ、なッなッ…!」
ドンッ!ガタガタッ…ゴトッ…ガン!…ドタンッ
近づいて来たマーヴェリックに驚き、アイスマンは自身のロッカーに後ろから突っ込んだ。アイスマンのロッカーは、優等生のものとは思えないほど物が溢れかえっていた。そんなロッカーに突っ込んだアイスマンは、上から落ちてきたシェービングフォームの缶を頭で受け、倒れた。
同期たちはかなり驚いた。なにせ、大きな音がしたと思ったら、アイスマンが自身のロッカーに埋もれるように倒れているのだから…。この異常な光景を見て、少し固まったが、すぐ復活しアイスマンのもとへ向かった。
「…大丈夫か!アイスマン!」
「…おい、平気か?アイス…?」
同期たちは、口々に声を掛けた。なお、一番近くにいたはずのマーヴェリックは、驚き過ぎたのか口をぽかんと開け棒立ちになっていた。そして、邪魔になると判断したグースに連れて行かれた。
「おいッ!聞こえているか?…アイス?」
アイスマンの相棒である、RIO、ロン・“スライダー”・カーナーは、未だに自身の乱雑なロッカーに埋もれているアイスマンを起こそうと、肩に手を置こうとした。
「…マーヴェリックが可愛すぎる…」
ロッカーに倒れてから誰の問いかけにも答えなかったアイスマンが、唯一言った言葉だった。
そう、このアイスマン…同期であり、お互いに僚機にしてやるよ!と言い合っている好敵手のマーヴェリックが可愛くてしょうがないのである。マーヴェリックの可愛さに当てられたアイスマンは頬を赤くしており、まるで夏風邪をこじらせ熱に浮かされている様だった。
アイスマンのつぶやきを聞いたスライダーは、助け起こそうとした手を引っ込め、後ろにいる同期たちに向き直った。
そして、死んだ目をして言った。
「…解散」
スライダーの号令と共に、同期たちは何事も無かったかの様に支度をし、帰って行った。
静かになったロッカールームには、未だにロッカーの中でマーヴェリックの可愛さに悶えているアイスマンだけが残されていた。