相似の瘡蓋【相似の瘡蓋】
季節外れに葉を落としてしまった大樹のように、彼はひとり立っていた。
日陰のうちに固い樹皮を晒す、寒々しい黒。陽射しのなかへ自ら動くことは許されず、光を受けるための青い葉も既に持たない。枯死することを厭わないどころか、淡い納得すら覚えているような立ち姿であった。それでも本当の森の内であれば、ただの景色に埋没できたであろう。けれどここはアスファルトの上だから、彼は根も下ろせない。ひとり、ただそうすることしかできないように、立っている。
休日の温泉街の駅前でも、彼は周囲からは遠巻きにされている。改札を出た私は、それをみとめて足を速めた。
「お待たせしました、カイさん」
私を見つける視線が、カイさんを解凍する。目尻と唇がほどけ、伏せられていた黄金の瞳が光を帯びた。いつもより丁寧に、目立つところのないように撫でつけられた黒髪は、首を傾けたところで揺れもしない。
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