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    fukuske5050

    たまに文章書きます
    その時その時でだーーーーって書きたい部分だけ書いているので突然始まって、突然終わります…
    ▪️書いてるもの
    ・どらまいどら(のつもり)

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    fukuske5050

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    210話前にどうしてもあげたくてがさがさ仕上げ。
    どらけんカタギになったと思ってました。完全に。
    読んだ勢いで書いたのでいろいろちょっと解像度低め。とっても楽しく書けました。

    みちづれ振り上げられた右手が勢いそのまま向き合う頬をなぐる。
    軽くなったからだはあっけなく頭から地面に投げ飛ばされた。
    どさりと叩きつけられた当たりの強さに堪えられず、万次郎は小さく声をあげる。
    けれどそれ以上は飲み込んで、痺れる片手を支えに打ちつけられた半身をのそりと起こす。
    切れた唇の端を無造作に手の甲でぬぐい、垂れたままの頭をあげはしない。
    片手で支え座り込んだままの姿を見下ろすと
    うなだれた首はぽきりと折れた花の茎のように萎れてもろい。

    万次郎の脆い様に、そうさせた自分こそが責められるべきだと龍宮寺は苦い声を漏らす。

    「オマエ、受け身も取らねぇか」

    人に拳を振るうことから遠ざかっていた。
    震えるほどに、人に、誰かに怒りを抱くことから遠ざかっていた。
    ほんの数年ほど前のことが、あまりにも遠い。

    殴られうなだれる万次郎を見下ろして、龍宮寺は震えていた。

    喧騒と高揚の混ざりあう熱を帯びた毎日だった。
    なによりも無敵を掲げる万次郎と共にいることが龍宮寺の誇りだった。

    それが今。
    万次郎は軽いからだごと吹き飛んで、抗うこともなくたやすく投げ出される。

    ほんの数年ほど前の時間があまりにも遠い。
    今更ながら自分たちがどれだけ離れていたのかを突きつけられる。

    「その価値もねぇか、オレは」
    万次郎の垂れた頭を見下ろすように投げかける。
    怒りではない。
    怒り、嘆き、悲哀、後悔、そんなものでは到底言い尽くせない。
    そんな陳腐なものでは言い尽くせない。

    烈火のごとく突き上げる感情は、万次郎の思惑通りにはまった自分への業火のマグマだ。

    力任せに胸倉を掴み、項垂れた顔を引き上げる。
    ぐいと引き寄せ正面から向き合うその顔に、龍宮寺は息をのむ。
    なにも映さない、落ちくぼんだ黒い目に。
    瞬きをしない乾いた目に。
    なにひとつ応えようとしないまま、いとも簡単に殴られる。
    それは明確な万次郎の拒絶に違いない。
    (オマエの世界に、オレはもういないのか)
    胸倉を掴む腕がこみ上げる感情に震え出す。

    龍宮寺にとって東京卍會はすべてだった。
    万次郎がかつてそう口にしたように、それは万次郎そのものだった。
    龍宮寺にとってそれは、すべてだった。

    それが突然に他でもない万次郎自身に奪われて、万次郎も姿を消した。まるで最初から万次郎だけが無かったように、そこだけすっぽりと消え去った。
    万次郎だけが打ち消され、なのにそのほかはしっかりと日常が取り残されている。
    それが却って万次郎がいないことを浮き上がらせる。

    切り捨てられたのだ。
    不要なのだと。
    万次郎が見据えた先に、もう不要なのだと切り捨てられたなら、それも受け入れようと飲み込んだ時が、確かにあった。
    そう龍宮寺は行きついた。

    けれど。

    龍宮寺は向かい合った万次郎の額にめがけて自分の額を思いきりにガツンと打ち付ける。
    打ち合った額は火花が散るほどの音をたて、万次郎はどさりと地に崩れ落ちる。
    龍宮寺は落ち捨てられた万次郎を見下ろした。
    「オマエ、本当は何がしたい」
    答えろ、オマエの言葉で答えて見せろと龍宮寺は祈る。

    「オレや仲間みんな切り捨てて、なにしようとしてる」

    もう遅いとは思わない。
    まだ遅いとは思わない。
    まだだ、と決めたからここへ来たのだ。

    諦めて飲み込んだらなにも変わらない。そうなんどもなんども教えられた。
    握り拳で仁王立ちで、ボロボロに痛めつけられても立ち上がるヤツの姿が目に浮かぶ。
    その姿を思い浮かべれば龍宮寺の口元には笑みさえ浮かぶ。
    (ありがとな、タケミっち)

    龍宮寺の不適なまなざしは倒れた万次郎にこそ注がれる。
    「マイキー」
    にじみ出すように大切なその名を口にする。
    とたん万次郎の腹の奥底がじくりと跳ねる。

    万次郎自身にさえ見えない自身の抑揚が、龍宮寺には見える。
    粉々に砕いて飲み込んで、腹の中に溶かしても。泡となって脆く霞んでも。
    それがどんなに微細なものであったとしても、一度でも万次郎の中に生まれたものならば、龍宮寺には隠し通せない。
    オマエの細胞の最後のひとかけらまでけして取りこぼさない。

    白も黒も。
    清も濁も。
    残らず全部。

    それが龍宮寺の覚悟だった。

    失った存在への贖罪と後悔と。そして感謝と。
    どんなにか自分が幸福だったのか。
    どれだけ愛していることを一生伝える続けることを、胸の中のただひとりの人に誓う。

    だからどうか。
    許してほしい。
    今までの幸せも安穏も、これからずっと生きている限りオマエのものだと誓う。
    だから、どうか。
    オレの修羅は全部、アイツに。
    アイツと一緒にいることを許してくれ。

    「呼べよマイキー」
    寝そべり伏せた横顔を隠す前髪を払う。現れた額はこすれて赤く滲んむ。
    その皮膚の下には血が通い、からだ中には命が巡っている片鱗だ。
    同じだけの傷がきっと自分の額にもある。
    生きている。
    重たげに中途に下りた瞼が微かに震えまつ毛が揺れる。
    「オレを呼べ」
    削げた頬に振れる。ひやりとした感触に手放したままの時間の長さを思う。
    「マイキー、聞こえるか」
    両の手でその頬を包み、細い顎をとらえ、ぐにゃりとなった首ごと抱えこんで真正面から向かい合う。

    (どんなことになってもオマエから離れねぇ)

    長い両の腕を使って抱え込み、重なり合った互いの輪郭の隙間を埋めるようにぴったりと抱きしめる。
    触れた体温ごと飲みこむように抱きしめる。

    どくん

    龍宮寺の熱を吸い取るように、すうっと万次郎の呼吸が龍宮寺を押し返す。

    ぱくりとわずかに唇が開く。
    それはまだ声にならないほど微かな音。けれどそれが龍宮寺に聞こえないはずがない。

    「言え」
    「言えよ、オマエ、」
    思い知れ、と思う。
    オマエのみちづれが誰なのか思い知れ。
    どんなに自分がひとりぼっちだったのか、思い知れ。

    オマエもオレも、離れた時間が互いにどんなにか空っぽだったのか、思い知れ。

    *
    ーー声が聞こえた。と万次郎は思った。
    その声を間違えるはずがない。確信と疑いとが混ざり合って頭の中を蜷局を巻いてぐるりと巡る。
    語尾がほんの少しだけ優しい、心地良い、あの声。
    思わず万次郎は霞がかったモヤの向こうに手を伸ばす。
    伸ばそうとしてもがいて届かなくて、躊躇する。当たり前だ。それはもう手放したものだから。

    もうこれ以上失うことも壊れることも許さない。
    それでもまだ壊れて砕けてしまうならいっそ砕けた破片ごと頭からまるごと呑み込んで、諸とも全部奪ってしまおう。飲み込んでしまえば全部オレのものになる。
    そうしてしまえばもう失うことも離れることも、けして無い。
    そう、万次郎はひとりで決めた。

    どうやっても失う正気ならいっそ自分で棄ててしまえばい。
    目をつぶって耳をふさいで口を閉じてしまえば、どこからもなにが正しいなんてもうわからない。

    だけど、それは間違ってたのか…?
    またオレは間違えたのか……?
    教えてくれ、

    *
    (ーーケ、ン…チ)

    喉をせりあがる音は臆病なほどかぼそくて不確かだ。
    なのにたったひとつの名を口にするために、喉が唇が震えて震えて伝えようとする。
    万次郎の手は空に向かって彷徨って、そうして龍宮寺にたどり着く。
    たどり着いてしがみつく。震える指で、しがみつく。
    龍宮寺にはそれで充分だ。万次郎が望むなら充分だ。
    「言え、マイキー」
    囁く声が刹那に熱を帯びて万次郎の鼓膜を震わせる。


    「ケン、チ、」
    おれから にどと はなれるな

    *

    きっとこの腕は自分を離すことはない。
    万次郎は知っていた。
    だからこそ、万次郎が手離した。
    それだけが万次郎に残された手段だと。
    それがたったひとつ、万次郎が抱えた龍宮寺への想いを守る方法だと信じたから。


    しっかりとありったけの力をこめて、自分を抱きしめる龍宮寺を確かめる。
    懐かしい体温とにおいと、重み。
    手離すことでしか守れないと乖離した、重み。

    「バカヤロ、やっと言ったか」
    言って龍宮寺は万次郎を抱きしめた。
    今度こそ向き合って。離れない。それは万次郎と龍宮寺のどちらの思いだったのか、もうわからない。
    指をからませ隙間を埋めるようにしがみついて、湧き上がる熱がどちらのものなのかわからない。
    「いいか。覚えておけよマイキー。オマエが地獄行きを選ぶならオレが必ず止めてやる。何百回でも何千回でも何億回でも。首ねっこひっつかまえてオマエを殴ってでも絶対に止めてやる」

    だから、マイキー
    「ひとりには、なるな」

    オマエの行き着くところなら地の果てまでも付きあうぜ
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    fukuske5050

    MOURNING本誌済み
    真とワカとマ
    ※マは本誌の病状です さすったりしてます こういうことをしてよいのか悪いのか、調べていません
     顔色が悪いのは真一郎の方だ。僅かに自由になる時間さえも、病室でひとり横たわり、管に繋がれたまま意識のない弟の傍らから離れない。ただ生き永らえているだけのそれから離れない。医療も奇跡もまやかしも、真の最愛にできることはそれだけしかないからだ。
     万次郎のため。そのために真一郎の生活は費やされ自分のための時間は皆無に等しい。食べることも、眠ることも惜しいのだ。怖いのだ。少しでも目を離した隙に呼吸を漏らした隙に、必死に抱えた腕の中からサラサラと流れ落ち、万次郎が失われていく。
     蝕まれているのは真一郎の方だ。若狭にはそう思えてならなかった。

     職務の休憩時間に万次郎を見舞う真一郎に合わせて万次郎の病室を訪れる。それは万次郎のためではない。真一郎のためだ。若狭にできるのはその程度でしかない。訪れた若狭の呼び掛けに答えた真の声は枯れて夜明けのカラスのようだった。ギャアと鳴いてみせるのは威嚇なのか懇願なのかはわからない。せめて水を、そう思って席を外し、帰ってきた病室で見たものは。
    1853

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