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    fukuske5050

    たまに文章書きます
    その時その時でだーーーーって書きたい部分だけ書いているので突然始まって、突然終わります…
    ▪️書いてるもの
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    fukuske5050

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    本誌済み
    真とワカとマ
    ※マは本誌の病状です さすったりしてます こういうことをしてよいのか悪いのか、調べていません

    #真ワカ
    #ワカ真

     顔色が悪いのは真一郎の方だ。僅かに自由になる時間さえも、病室でひとり横たわり、管に繋がれたまま意識のない弟の傍らから離れない。ただ生き永らえているだけのそれから離れない。医療も奇跡もまやかしも、真の最愛にできることはそれだけしかないからだ。
     万次郎のため。そのために真一郎の生活は費やされ自分のための時間は皆無に等しい。食べることも、眠ることも惜しいのだ。怖いのだ。少しでも目を離した隙に呼吸を漏らした隙に、必死に抱えた腕の中からサラサラと流れ落ち、万次郎が失われていく。
     蝕まれているのは真一郎の方だ。若狭にはそう思えてならなかった。

     職務の休憩時間に万次郎を見舞う真一郎に合わせて万次郎の病室を訪れる。それは万次郎のためではない。真一郎のためだ。若狭にできるのはその程度でしかない。訪れた若狭の呼び掛けに答えた真の声は枯れて夜明けのカラスのようだった。ギャアと鳴いてみせるのは威嚇なのか懇願なのかはわからない。せめて水を、そう思って席を外し、帰ってきた病室で見たものは。
     真一郎の手は横たわったままの万次郎の肩を押さえつけ、首元に手をかけていた。
    「…、真ッ?」
    「ーーワカ」
    あぁ、と言って真一郎は振り向いた。
    「手伝ってくれないか」
     優しい声だった。佐野の家は彼の祖父も妹も弟も揃ってじゃれ合うようなままごとのような家族だった。ままごとのような、それでいて誰もがそれを壊さないように、手探りで必死に手を繋いでいるような。みんな少しずつ寂しくて、隙間を埋め合うように優しい。
    「寝たきりじゃ背中辛いだろうと思って。さすってやりたい」
     見れば万次郎の首にかけた指は首の下に差し込まれて重たい頭を支え、肩にかけられた手はからだを抱き起こそうとしている。手をかけていたのではなかったのだ。だらんと伸びたからだを抱き起こすところだったのだ。きっと。
     ウン、と短く答えると若狭は万次郎の元に近寄った。ふたりがかりで万次郎のからだをゆっくりとおこして横向きにして、寝たきりの背中を浮かせる。ガリガリのからだは尖った骨が浮き上がって、触れた手のひらには肉の感触がほとんどない。
    「万次郎、背中、痛いだろ」
     強すぎないように。細心に丁寧な慎重な動きが万次郎の肩の首を、肩を、背中をさする。着衣のすぐ下にあるだろう脆い骨の凹凸を行き来する。
     その手は指は、バイクのハンドルを握る手だった。ドライバーを握る手だった。消毒された狭い部屋で物言わぬ弟と過ごすような男ではなかった。怪我だらけ傷だらけ、それでもうなだれることのない、どこか底知れぬ男の気概にゾクリとしてーー惚れた。
     若狭は気がついていた。万次郎に手にかけようとした真一郎に、自分が驚きもしなかったことを。
     反射的に声を漏らしたけれど、止めようとはぴくりとも動かなかった。
     手伝えのひとことに指先にはおかしな熱が生まれて痺れ、一瞬のうちに答えが浮かび上がりーーそう、しようとした。
    (ソウスレバテニハイル)
     なにが、なにを。その問いも答えも、若狭の中にはとうにあって、それを告げないでいるのはけしてきれいな思いなんかじゃないことも、わかっていた。真一郎へ向かう感情は、きれいなんかじゃない、潔いものなんかじゃあけしてない。
     それをわかっているからこそ、若狭は見間違いなのだと飲み込んだ。
    「昔っから真は痛いのとか、敏感だもんな」
    「うーん?」
    「オレが怪我したり痛ぇのとか隠しても、すぐバレた」
     かすり傷や小さい怪我はしょっちゅうだった。起き上がれるならあんばい、動けるなら上等だ。鈍い痛みを逸らすために奥歯を噛み締めた気配に気がつくのは真一郎だけだった。見逃してほしいその瞬間をどうしてだか目敏く見つけてしまう。
    「オレは痛いのとか苦手なんだよ。だからかなぁ、痛いのとかわかるっていうか」
    「そんなもん?」
    「そんなもんよ」
    「…ふーん」
     真一郎がしきりと撫でるのは、背中の肩を寄せるとへこむ窪みの辺り。三角の骨の…小難しい名前が浮かばない。なんて名前だっただろう、そうじっと見つめ、もしも羽根が生るんならあの辺り、そうおかしなことが頭に浮かぶ。
     人の痛みが見えてしまう真一郎の目には万次郎 の背中には羽根さえも見えるのだろうか。真一郎を捕まえて離さない万次郎の羽根は、果して白い羽根なのだろうか。
     万次郎の羽根が見える真一郎のその背にも、羽根があるのだろうか。
     若狭には見えない羽根が、このふたりにはあるのだろうか。
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    fukuske5050

    MOURNING本誌済み
    真とワカとマ
    ※マは本誌の病状です さすったりしてます こういうことをしてよいのか悪いのか、調べていません
     顔色が悪いのは真一郎の方だ。僅かに自由になる時間さえも、病室でひとり横たわり、管に繋がれたまま意識のない弟の傍らから離れない。ただ生き永らえているだけのそれから離れない。医療も奇跡もまやかしも、真の最愛にできることはそれだけしかないからだ。
     万次郎のため。そのために真一郎の生活は費やされ自分のための時間は皆無に等しい。食べることも、眠ることも惜しいのだ。怖いのだ。少しでも目を離した隙に呼吸を漏らした隙に、必死に抱えた腕の中からサラサラと流れ落ち、万次郎が失われていく。
     蝕まれているのは真一郎の方だ。若狭にはそう思えてならなかった。

     職務の休憩時間に万次郎を見舞う真一郎に合わせて万次郎の病室を訪れる。それは万次郎のためではない。真一郎のためだ。若狭にできるのはその程度でしかない。訪れた若狭の呼び掛けに答えた真の声は枯れて夜明けのカラスのようだった。ギャアと鳴いてみせるのは威嚇なのか懇願なのかはわからない。せめて水を、そう思って席を外し、帰ってきた病室で見たものは。
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    fukuske5050

    MOURNINGド誕のつもりで書き始めだけれども…😭下書き状態でだいぶ意味不明ですが…いろいろ無理だった⤵️⤵️
    ドがひとつ年を取るのはマが身を削って頑張った証、と思って書きました
     やっと軌道に乗ったバイク屋の灯りが消えるのがは遅いのは毎晩のこと。営業時間を終えると共に店を営む相棒が先に店を出る。アイツは店にひとり残りデスクに向かい、辺りが暗くなった頃にやっとシャッターに鍵をかけて帰路へと向かう。
     跨るのは丁寧なメンテナンスを繰り返した昔と変わらない愛機。同じ商店街で挨拶ついでに総菜を買うか、遅くまで開いているスーパーで買い物をして帰るのが日課。渋谷の繁華街にある実家を出て、安アパートにひとり移り住んでからは一層堅実に生きている。
     けれどその日だけは閉店作業を終えると早々に店を出る。少しばかり遠回りをして、昔なじみの店で懐かしい味の甘味を2つ。時代に合わせるように改装した小洒落た店構えと女性向のメニュー。いかついツナギ姿の男がひとり、不釣り合いな店に入れば一斉に注目を浴びて少しばかり肩身が狭い。遠慮がちに店員に声をかけると、店員は古参なのか訳知り顔で表情を崩すと店の奥に声をかける。かけられた声にぱたぱたと小走りに姿を現したのは母親のような年代の店の主だ。にこやかに目じりの皺を緩ませて、小さな茶色の包みをアイツに手渡した。
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