ファッションバトルある日の仕事終わり、茨が帰る支度をしているとジュンがやってきた
「お疲れ様です」
「お疲れ様ですジュン。どうかしましたか?」
「茨、明日休みっすよね?」
「えぇ。それが何か?」
「買いもん、行かねぇっすか?」
ジュンの発した言葉に一瞬耳を疑った
「殿下が行くのではなくて?ジュンが?」
「そっすよ。欲しいもんがあるんすけど、よかったら茨もどうかな~って」
「殿下と行けばいいのでは?」
「おひいさん、明日別件で予定埋まってるらしいんすよ」
そう言われ少し考える茨。自分は特に予定がなく、ジュンと一緒に買い物へ行ってジュンの趣味を知るのも後々役に立つかもと考えると行くのも悪くはなかった
「なるほど。そういうことでしたら、一緒に行ってあげなくもないですね」
「よっしゃぁ!んじゃ、あとで集合時間とか伝えるっすね。お疲れっした!」
茨が行くと言うや否や、足早に部屋を後にするジュン
「…なんなんでしょうね。まぁいいですけど。さて、俺も帰らないと」
茨も支度を済ませて寮へと帰っていった
次の日の朝、ESのフロントにジュンと茨の姿があった
「んじゃ、行きましょう」
「どこに行くんですか?本当に集合場所と時間しか教えてくれませんでしたが…」
「行けばわかります」
そう言ってジュンに連れられて茨はESを出る。しばらく歩くとショッピングモールに着き、とあるお店の前でジュンが止まった
「ここっす」
「洋服屋、ですね。もしかしてジュンの洋服を見るのに付き合えと?」
「ちげぇっすよ。いつも茨がかっちりした服しか着てないんでたまにはこういうのどうかなって思ったんすよ」
結構広めの洋服屋に連れて来られた茨は辺りを見回す。ここは結構色んな種類の洋服が置いてあり、ジュンが何度か行ってるという話も聞いていた
「それはつまり、ジュンが自分の服を選ぶ…ということですか?」
「そっす。たまには茨もスポーティなの着ましょうよ」
元々のジュンの趣味を知る目論見が崩れたところでこれ以上一緒にいる理由はないのだが、このまま帰るのも癪なのでしばらくジュンに付き合うことにした
「わかりました。ちょっとだけでしたら付き合いますよ」
「よし!んじゃ、行きましょ」
ジュンに腕を掴まれ、引っ張られてそのままスポーティな感じの服の売場に直行した
「これなんかどうっすか?」
そう言うってジュンが手にしたのはいかにも茨が着なさそうなカジュアルなパーカーだった
「いかにも自分が着なさそうですね…」
「だから選んでるんじゃないっすか!ほら、試着してみてくださいよぉ!」
「仕方ありませんね…」
ジュンに渡された服を持って試着室へと向かう茨。着ないとジュンが満足しなさそうなので、仕方なく試着をした
「どうですか?」
「ん~なんかイメージと違うっすね。これはどうっすか?」
そう言ってまた別のパーカーを持ってきたジュンからそれを受け取り着替える
「いかがですか?」
「それも違いますね…んじゃこっちで!」
そんなやり取りを試着室のところでかれこれ10分ほど続けていると痺れを切らした茨がこんな提案をしてきた
「これでは埒が明きません。着せ替え人形にされるのも飽きたのでもういっそのこと自分とジュンでファッション対決をしましょう!」
「ファッション対決っすか?」
「そうです。お互いがお互いに似合うフルコーディネートをする。これでどうですか?」
一瞬悩む素振りを見せたジュンだったが、次の瞬間には頷いていた
「いいっすよ。そういうことなら審判が必要っすよね?」
ジュンはポケットに入れていたスマホを取り出す
「あてがあるんですか?」
「まぁちょっとした伝っすよ」
そう言ってジュンは電話をかけた
その頃、ジュンと茨が買い物をしているショッピングモールに見覚えのある影が二つ
「うわぁ~助かったよ!ありがとう衣更くん!」
「お互い様だって!真にもこの前生徒会の仕事手伝ってもらっちゃったしな!」
オフの日であった真と真緒が中古ゲーム屋で買い物を終えたところだった。どうやら真の欲しかったゲームを一緒に探して買えたようだ
「ずっと見つからなかったんだけど、衣更くんが見つけてくれたおかげで手に入れられてよかったぁ~」
「真、そのゲームの話になるとすげぇ目が輝いてたからな。印象に残っててたまたま昨日通りかかったら見つけたんだよ。残っててよかったな」
二人がゲームの話で盛り上がりながら帰ろうとすると、真の携帯に着信が入った
「あっ、ごめんね衣更くん。電話みたい」
「おう、気にせず出てくれ」
真がスマホを操作して電話に出る
「もしもし、遊木です」
『おっ、遊木さん出ましたね!よかったっす。漣です』
電話の相手はジュンだった
「漣くん、どうかしたの?」
『実は………』
数十分後、ジュンと茨の前に真と真緒の姿があった
「すんません、お休みのところなのに…」
「ううん、僕と衣更くんも丁度同じショッピングモールにいたから大丈夫だよ」
ジュンに電話で二人のファッション対決の審査を頼まれた真は真緒にも話をして審査を引き受けることになった
「なるほど。ジュンの伝ですか」
「べつに変なこと言ってないっすよ。電話してた時茨も聞いてたでしょうよ」
「ええもちろん。不正がないのはわかってますよ」
対戦ということもあり既に張り詰めた雰囲気が出ている二人を見て顔を見合わせながら苦笑いする真と真緒
「んじゃ、制限時間は1時間っすからね」
「わかってますよ。絶対にジュンには負けませんから」
「へっ、それはこっちの台詞ですよぉ」
「じゃ、じゃあ始めるね!よーいスタート!」
真の掛け声と共にジュンと茨はお互いの目的のお店へと向かっていった
スポーティな服の並ぶ店で茨は服のラインナップを見ていた
「なるほど。こんなのとかジュンに似合いそうですね」
自分がいいなと思った紺色のジャケットを手に取り全体を見る。ジュンに似合いそうなものではあった
「これでも悪くはなさそうですが…まだジュンに似合うものがあるかもしれませんね。とりあえずキープして他も探しましょう」
茨はジャケットを持ったままお店の中を更に散策しに行く
一方、ジュンも茨に合いそうな暗めのシャツを持ってお店をキョロキョロ見回していた
「うーん、茨に似合うもんっていうとやっぱ硬めの印象になっちまいますね」
どれもこれも目につくものがいつも茨が着ているような感じのものばかりで溜め息をつくジュン
「さーて、どうしたもんっすかね……」
悩みながらもとりあえずフルコーデになるように洋服や小物などを取っていった
一時間経って相手に着せたいものを持ってきた二人はお互いに洋服等を受け取り着替えに入る
「二人とも、時間ギリギリまで悩んでたみたいだね」
「だな。最後の最後まで小物どっちにするかとか悩んでたみたいだしな」
真と真緒がジュンと茨が戻ってくるのを待っていると…
「おや?真くんに真緒くんだね」
「あっ、巴先輩に乱先輩」
真と真緒の元へ日和と凪砂が一緒にやってきた
「二人とも、買い物?」
「いえ、漣くんと七種くんを待っていて…」
「ジュンくんと茨を?あの二人何をしてるの?」
「なんか相手に似合うコーデを探して、どっちが似合うかを競うって言ってましたけど…」
それを聞いて日和と凪砂は顔を見合わせて笑った
「こんな面白いことになってるならもっと早く来るべきだったね!」
「そうだね。二人が服を選ぶところも見たかったね」
「「???」」
真と真緒がさっぱりわからず首を傾げていると着替え終わったジュンと茨が戻ってきた
「閣下に殿下何故ここに?」
「うわっ、おひいさんにナギ先輩」
「ふふっ、何故ってもちろん茨の様子を見に来たんだね!ジュンくんがどんなコーディネートをしてるか心配だからね!」
「ジュンが選んだ茨のコーデ、私も興味があったから」
凪砂と日和がニコニコしている一方で、茨はジュンに睨みを利かせている
「………ジュン~~?自分を嵌めましたね?」
「わわっ、そんな睨まないでくださいよぉ!茨のためっすよ茨のため!」
「自分のため?そんな言い訳で逃れられるとでも?」
「いいや、ジュンくんの言ってることは嘘じゃないね」
「どういうことですか?」
ジュンに一発拳を入れようとしていた茨が日和と凪砂の方を見る。真と真緒もそちらに注目している
「茨が見ていた仕事の一つにファッション雑誌のモデルの仕事があったよね」
「ファッション雑誌…?あぁ、もしかして自分とジュン宛てに来ていたやつですか?確かスポーツ系のイメージの雑誌だったような気がします」
「うん、それだと思うよ」
「ジュンくんが、茨がスポーティーな服着てるところなんて想像つかない!って言うからどんな感じになるか試してたんだね」
「なるほど…そういうことでしたか」
納得した茨がジュンに向き合う
「納得してくれました?」
「ええ、勿論。余計なお世話ですよ!」
「いった!ひでぇっすよ!」
軽くジュンの腹を殴る茨。ジュンは殴られたところを擦っている
「丸く収まったみたいでよかったね」
「元からどうなっても変な方向には行かなかったと思うけどね!」
Edenの四人が一件落着のような雰囲気を醸し出してる中、真と真緒が困った顔をする
「えーっと…これって僕達もういいのかな?」
「じゃないか?勝負もどうでもよくなってそうだしな」
「だ、だよね?じゃあ、行こっか衣更くん。さっき買ったゲーム、一緒にやろう!」
「そうだな!んじゃ、行くか!」
真と真緒はこっそりその場を後にする。結局お互いのフルコーディネート対決の勝敗はつけなかったが、お互いに気に入ったので購入して私服として時々着ているのをお互いにSNSに上げていた