ラリー、ラリー この日は大学の授業は二限目からで比較的ゆっくり登校できる日だった。そして柿崎と生駒、嵐山が取っている科目だったので、約束をしているわけではないが、なんとなく早めに教室に行ってなんとなく三人で話をすることが多かった。
しかし、今日はまだ嵐山が来ていない。
「じゅんじゅんが遅めなの珍しいなあ」
「そうだな」
そろそろ二限目が始まる時間だ。そんな時間になっても嵐山が来ないことは珍しい。何か急に広報の仕事が入ったのだろうか?と思いながら柿崎と生駒が話をしていると、勢いよく噂の主が教室の後方入り口から飛び込んできた。そのままの勢いで柿崎の横に座ると同時に講師が教室に入って来る。
「ま、間に合った」
「珍しくギリギリやったねー」
はあー、と大きく息をつきながら嵐山が机に項垂れる。柿崎越しに生駒が首を伸ばして声をかけた。
さすがに講師が授業を始めたため、嵐山は生駒に少し恥ずかしそうに笑って見せた後、そのままテキストを広げて講師の話を聞き始める。
九十分の授業が終わり講師が教室から出て行くと、嵐山が大きく息をついてテキストを閉じ鞄にしまい始めた。
「じゅんじゅん、今日は珍しく寝坊でもしたん?」
「いや……まあ、恥ずかしながらそんなところだ」
「大丈夫か?疲れてるんじゃないのか?」
柿崎が心配そうに嵐山を見る。何せこの友人は自他共に認める多忙なボーダーの広報部隊の隊長だ。健康管理は仕事の内できちんとしている方だと思うが、心配だ。そんな柿崎に大丈夫だよと嵐山は笑って見せる。
「弓場ちゃんと合流して昼飯食うことになってるけど、じゅんじゅんどう?」
「ああ、今日は夕方から本部で打ち合わせだから昼はこっちで食べようと思っていたから」
「じゃあ、一緒に食えるな」
待ち合わせする弓場に嵐山も行けることを生駒がすぐにメッセージを送り始めた。弓場と会うのも久し振りだなと嬉しそうに嵐山は言いながら立ち上がる。通路側の嵐山が立ったので、柿崎と生駒の順番で続いて立った。
立ってから何か違和感を感じ、柿崎は首を傾げる。なんだろう、何か違和感を感じる……と再度視線だけで周りを見渡す。
「あ」
思わず声が出た。そんな柿崎に気付き、嵐山が振り返って「どうした?」と声をかけてくる。
嵐山だ。嵐山に違和感を感じたのだ。
今日の嵐山の服装はシンプルなシャツの上にジャケットを羽織っていて、下も何度か見たことのあるパンツだし鞄もいつも大学に持って来ているトートバックだった。でも明らかに一つだけ違和感を感じる部分がある。
「アレー?それどうしたん?」
柿崎越しに生駒が嵐山を見て、足元を指差した。
「え……?あっ」
生駒に指差された足元を見て、理解した嵐山が声をあげる。柿崎が感じた違和感の原因は嵐山の足元にあったのだ。
気に入っているのか、嵐山は普段いつも同じスニーカーを履いている。デザインはシンプルだが綺麗な赤いスニーカーだった。一見、赤い色なので派手に見えそうだが、シンプルなデザインのせいかそんなに派手な印象は与えてこない。そして何より隊服のイメージのせいなのか、嵐山にその赤い色がよく似合っていた。
でも、今日はその赤いスニーカーではなかったのだ。
別にあの赤いスニーカー以外も持っていて履いているのも見たことはあるのだが、今日の違和感はそこではない。嵐山が今日履いているのが、いつもの赤いスニーカーと同じデザインの青いスニーカーだったのだ。
「嵐山がその色なの珍しいやん」
嵐山といえば赤い色のイメージだ。青い色が似合わないわけではないが、どちらかというと青い色といえばここにはいない友人の姿を思い浮かべる。
「どっちかというとその色だったら……ん?んん?」
「いや……その……これ、俺のじゃないな……」
「いや、いい。もういい。それ以上言うな」
ちょっと恥ずかしそうに言い淀む嵐山の言葉を柿崎は慌てて止めた。多分、これ以上はきっと自分達が砂を吐くような居た堪れない気持ちになる展開が……それこそ、その青いスニーカーの持ち主のサイドエフェクトではないが、容易に視える。
と、同時に今日の嵐山が時間ギリギリに来た理由もなんとなく察することが出来てしまう。……出来ればそんな友人達の事情を知りたくなかった。
そういう柿崎の思いは呆気なく生駒によって打ち破られる。
「それ迅のやつ?お揃いやん」
「ああ、お互いの誕生日に買ったんだ」
そう言って自分の履いているスニーカーを見る嵐山の声と表情がとても愛おしいものに対するものだったので、思わず柿崎と生駒は顔を見合わせた。
***
高校三年の夏、迅が時々考え込んでいる姿をよく見かけるようになった。何か悩み事だろうか?悩み事であれば何か力になれないだろうか?と声をかけても大した事ないよ大丈夫と笑ってみせるだけで理由を教えてもらえなかった。
ふとした時に視線を感じて迅を見ると、こっちを見てはいるが明らかに嵐山自身を見ているわけではないのがわかる。多分、自分の未来を視ているんだと思った。だからきっと自分に関することなのかもしれないとは思ったが、迅が話してくれない以上嵐山一人ではどうすることも出来ず、もどかしいと思う。
そう思ってた日々を数日過ごしたある日、嵐山は迅に今度の休日に一緒に出掛けて欲しいと誘いをかけた。
「いいけど……何、デート?」
「うーん……これはデートになるのか?」
「いや、本気で悩まないでよ。いいよ、どこ行くの?」
「桐絵の誕生日プレゼントを買いに行こうと思って。そして、その件で迅に相談がある」
「小南?」
嵐山の従姉妹の小南の誕生日が近く、誕生日プレゼントを用意しようと思ったが先日小南と出掛けた時に彼女が欲しそうにしていたアクセサリーがあった。なのでそれにしようと思ったのだが、中々の値段だったのだ。いや、購入することはボーダーで固定給を貰っているので可能なのだが、意外と真面目な従姉妹はこんな高いものをと恐縮してしまうのが予想できた。
「だから、迅と折半で一緒に買うのはどうかなって……。迅もまだ桐絵の誕生日プレゼント決めていないだろ?」
「あー……なるほど。オッケー。それに乗らせてもらえるならおれもありがたいよ。嵐山ともデートできるしね」
迅としても正直女の子が喜ぶプレゼントを考えるのが大変だったので嵐山の提案は渡りに船だった。もう誕生日プレゼントにケーキバイキングかお洒落でお高めのカフェで奢る(容赦無く奢らされる)のでいいかと思っていたぐらいだったので、そしてなにより嵐山の言うアクセサリーを貰った小南が凄く喜んでいるのが視えた。どうせなら沢山喜んでもらうほうがいい。
次の休みに街中のショッピングモールへ二人で行くことが決まった。
駅前で待ち合わせをして、ショッピングモールへ向かう。
すでにもう何を買うかを決めていたので、そのまま真っ直ぐにアクセサリーがあるショップに向かい迷うことなく購入した。嵐山が会計を済ませ、ラッピングをしてもらう間に迅は改めて店内を見渡し……男二人でくる場所じゃないよなと多少の気まずさを感じる。隣にいる嵐山はそんな気まずさを全然感じていないようだが……。
目の前のケースに展示されている指輪をぼんやりと眺めて迅は息をついた。小南の誕生日プレゼントはあっさり決まり、購入することができた。彼女はこのプレゼントをとても喜んでくれる。それはいい。いいのだが……。
ポケットに手を入れたまま迅は考え込んでしまい、嵐山から声がかかるまでラッピングが終わっていることに気づくことはなかった。
その後、何件か服を見たりして回りカフェで休憩を取ることにした。何も言わなくとも店内の一番奥で人目につかない場所を選び座る。店内の一番奥なせいか、人気があまりなくなんとなく二人は安心するように息をつく。
「後で金額教えて」
「ああ、後で連絡するな」
「ん、よろしく」
「……店で考え込んでたよな。ここ最近考え込んでいたことか?」
飲んでいたアイスコーヒをごくん、と飲み込み迅は驚いたように嵐山を見る。先ほどの店で考え込んでいたのを嵐山がそんなふうに気にしていたとは思ってもみなかったのだ。
真っ直ぐに見つめてくる嵐山を見て、ああ言い逃れはできないなと迅は思う。
どのみち、考えすぎていて詰んでいたのだ。時間ももうない。それならば……。
「あー……いや、大したことないんだけど……。……いや、世間的にはってことで、おれ的には大したことなんだけどさ」
「うん」
「その……さ、誕生日なんか欲しいものある?」
「……は?」
「……誕生日」
「……誕生日?俺の?」
「そう、お前の」
「……、……え?」
ポカンとしている嵐山の様子に気まずくなった迅がズゴゴとアイスコーヒーをストローで飲み始める。まだ理解出来ていない嵐山はそのまま動かない。
「……だってさ……おれ達……その、お付き合いっていうの始まってからの誕生日じゃん……。今までみたいに飯奢るとかそんなので終わるのもどうかなって……」
「迅……」
「……なんでしょうか……」
「……迅、可愛いな」
「っ、すいませんねー!どうせ女々しい奴ですよ、ヘタレですよ!」
「そんなこと言ってないだろ?……太刀川さんや風間さんに言われたのか?」
「そうだよ!あーもう……。本当は用意してスマートに渡したかったんだよ。でもお前、どんなに視ても全部喜んでるからどれが一番いいのか、かえってわかんなかったんだよ!」
ヤケクソになって言ってくる迅に嵐山は笑った。
確かに迅と嵐山はなんだかんだあって、遠回りしたりすれ違ったりしていた両片思い状態からやっと両思いになれた。友達、仲間、クラスメイトなどの肩書きに「恋人」が増えた。
その恋人になってからの初めての誕生日に何を贈るか、それがここ最近の迅がずっと悩んでいた原因だったというのだ。あんなに迅の考え事の原因が何かわからずもどかしい思いをしていたのに、まさかその原因が自分だったなんて思いもしなかった。
「迅、俺は迅から貰えるなら何でも嬉しいぞ?」
好きな人から貰えるものなんだから、何でも嬉しい。
これは建前でも何でもなく本心だ。自分の事を考えてくれたそのことが何よりも嬉しいのだから。
「あー、だから!それが一番困るの!」
そう言いながら口を尖らす迅に、口元が緩むのを隠しきれず嵐山は慌てて口元を手で押さえる。
本当に迅から貰えるものならば何でも嬉しい。でもそれが困るのであれば自分としても何が欲しいのか具体的に考えて伝えるべきであろうと思っても、中々これと言ったものが思いつかなかった。
「うーん……、そうだな……」
「……別に無理して考えなくていいよ。お前を困らせたいわけじゃないからさ」
「いや無理しているわけでは……あ!なあ、欲しいもの一緒に考えてもいいか?二人でさ、考えたい」
一人ではなく二人で。迅が抱えて考える事を全て共有出来ないのはわかっている。迅のそのサイドエフェクトや迅のポジションでは自分よりずっとずっと思案することや思うことは多いだろう。その中で言えることより言えないことの方が多いのもわかっている。
でも、今回のこれは迅一人の問題じゃなく嵐山にも関係する問題だ。だから一緒に考えて迷って悩んで共有したい。共有できる間柄に自分達はなっているはずだと思う。
「……うん。でも、決まらなかったら誕生日に間に合わないよ」
「いいよ。一緒に考えることも俺にとっては誕生日プレゼントみたいなものだからさ」
悪戯っぽく嵐山は笑って見せた。
「それに、来年の誕生日までは今年の誕生日プレゼントは受け付けているから大丈夫だ!」
無理やりのような嵐山理論に、最初は目を丸くしていたがすぐに迅が「何だよそれ」と笑う。
焦らず時間をかけて一緒に考えよう、嵐山は迅が大好きなその笑顔でそう言ってみせた。
とりあえず、もう少しこのショッピングモールの中の店を覗いてみようとなり、二人はカフェから出て歩き始める。
カフェに入る前までは誕生日プレゼントの事がずっと気になって考え込んでいたが、今はどこかすっきりした気持ちになっている。こいつのこういう所は敵わないな……、と隣の嵐山を見てそんなことを思っていると、視線に気づいたのか嵐山はどうした?と首をかしげて覗き込んでくる。
何でもないと言いながら嵐山の視線から逃げた、その先にある靴屋が目についた。迅の視界に飛び込んできたのは、目玉商品としてディスプレイされているスニーカーではなく、その横の方に置かれているスニーカーだ。
嵐山に声をかけて、靴屋に入る。そして先程視界に入ってきたスニーカーの方へ真っ直ぐ向かった。
「へえ、なんかいいな」
迅の後ろから覗いてきた嵐山がそう言った。
迅が見ていたのは有名ブランドのものではないが、シンプルなデザインの赤い色のスニーカーだった。この色のスニーカーは珍しいな、デザインが良いなと思って見ていたが、どうやら嵐山も同じ印象を持ったらしい。
値段やサイズを確認してみると、値段も手が出ないものではないしサイズも丁度良い。何よりこの赤いスニーカーは隣で同じように見ている嵐山にとても似合いそうだと思ったのだ。
「これ……」
「うん、これがいいな」
迅の考えが伝わったのか、もしくは嵐山も同じことを思ったのかどちらなのかはわからないが、嵐山が頷く。
あんなに悩んでいた嵐山への誕生日プレゼントはこの赤いスニーカーに決まった。これでいいのではなく、これがいいと決めたのだ。赤いスニーカーを手にして迅は満足気に頷く。
そんな迅の横で嵐山が店員を呼んだ。サイズも手にしているので大丈夫なはずだが、なぜ店員を呼んだのかわからず迅は首を傾げる。
「すいません、このスニーカーってこの色のみですか?」
「そちらのですね、ありますよ。お待ちください」
迅が手にしているスニーカーを見て、店員がディスプレイ棚の下からいくつかの箱を出してくる。箱から同じデザインのスニーカーで色違いのものがいくつか出てきたので、嵐山はそのいくつかを手に取って眺め始めた。
もしかしたらこの赤い色以外が良かったのだろうか?迅の中ではこの赤い色が嵐山に似合っていて良いと思ったのだが……でも本人が気に入ったものを贈るのが一番いいだろうと考え直し、嵐山が選んでいるスニーカーを覗き込む。
嵐山が手にしていたのは青いスニーカーだった。赤と同じく派手すぎない色味だ。サイズを確認して嵐山はうん、これがいいなと頷いている。
「それにするの?」
「ああ、これにする」
「そっか、じゃ買ってくるから」
嵐山が手にしている青いスニーカーを受け取ろうと手を伸ばすと、不思議そうに嵐山が首を傾げてきた。
「何でだ?これは俺が買うんだぞ?」
「ん?だって誕生日プレゼントでしょ」
「ああ、誕生日プレゼントだ!」
「だったらおれが買わなきゃ」
「いや、迅にはそれ買ってもらうから」
そう言って迅が持っている赤いスニーカーを指差す。……なんだか話が噛み合わないなと思い、互いに首を傾げる。
「えっと、嵐山の誕生日プレゼント、そっちの青い方がいいんじゃないの?」
「いや?俺はその赤い方を買ってもらうんだ。で、こっちの青いのは俺が迅に誕生日プレゼントで買うんだ」
「……待て待て。俺の誕生日はもう終わったし…そんな9ヶ月先のを今買うってこと?」
「……今年の分だよ」
「今年?おれ貰っているよ?学校帰りにチャーシュー麺の大盛り煮卵トッピング焼き餃子付きを奢ってもらったじゃん」
「あれは!……あの時はまだ付き合っていなかったから」
ふい、と目をそらして気まずげに嵐山は言う。
「……迅に、影響されたんだよ」
ほんのり頬を染めてそういう嵐山を見て、迅もつられるようにこそばゆい気持ちになってきて居た堪れなくなってくる。
二人並んで色違いのスニーカーを持ち頬を染めながらあさっての方向を見ている状態が、見かねた店員がお会計はどうしますか?と声をかけるまで続いていた。
お互いで選んで、お互いお揃いの色違いのスニーカー。
お揃いってどんなバカップルだよと太刀川あたりに揶揄われそうだが、二人はこの誕生日プレゼントに満足していた。
何なら来年以降もお揃いのスニーカーでもいいと思う。丁度来年の今頃になったらこのスニーカーだって大切に履いていてもくたびれてくるだろうから、新しいものを二人でまた選ぶのもいい。スニーカーに拘るわけではないが、スニーカー以外でも何か日常的に使うものを二人で選びたい。
誕生日までに選べなくてもいい。次の誕生日までは誕生日プレゼントは受け付けている。それまで一緒に考える時間すらもある意味プレゼントみたいだなと嵐山はそう言って笑っていた。
翌日より早速、嵐山は赤いスニーカーを愛用し始めるのだった。
***
「おーい!お待たせー!」
大学の待ち合わせ場所によく使われる広場の大きな時計の下に向かって生駒が手を振った。それに気づいた弓場が軽く手を上げる。
「弓場ちゃん、待った?」
「いや、今来た所だ」
「……なんでいこまっちと弓場ちゃん、カップルの待ち合わせみたいな会話してんの?」
弓場の後ろで迅が笑う。嵐山と生駒、柿崎の授業が終わった後に待ち合わせをしていた弓場に連絡をとった所、弓場も大学の入り口で迅に出逢ったらしくそれならばすぐに合流しようと言うことになっていた。
「迅が大学に来るの珍しいな。研究室とかに用事あったのか?」
迅は大学には通ってはいないが、大学にはトリオンの研究室があり時々協力したり用事があったりと大学に来ることがあった。てっきりその研究室の用事だと思って柿崎がそう尋ねると、迅は違うよと答えた。
「おれが用事あったのはこいつ」
そう言って柿崎の横にいた嵐山を指差す。
「こいつの忘れものを届けにきたのと、おれのを借りパクして行ったから取り戻しに来たの。で、弓場ちゃんに会ったってわけ」
「借りパク……いや、パクってはないぞ!」
「そうやそうや!俺のじゅんじゅんがパクるわけないやん!」
「嵐山はいこまっちのじゃないじゃん」
迅と嵐山、生駒が騒いでいるのを眺めながら柿崎は気づく。横にいた弓場も気づいたらしく、目が合った。
迅の履いてるスニーカーの色が赤色だ。
基本的にいつも会う時の迅は換装体、もしくは換装体と同じ隊服姿なので足元はブーツであることが多い。だが同級生同士で出掛ける時や集まる時に履いているスニーカーは、気に入っているのかいつも同じ色で印象に残っている。迅のお気に入りのスニーカーは嵐山と同じデザインで色違いの青色だ。
今日は嵐山が青いスニーカーで、迅が赤いスニーカー。
二時限目ギリギリに飛び込んできた嵐山と取り戻しに……いや、届けに来た迅。
それだけでこの友人二人の今朝、いやもしかしたら昨日かもしれないが……何があったのか知りたくない事情が想像出来てしまった。
「で、どうするー?取替える?」
ニヤつきながら迅は嵐山に自分の履いてるスニーカーを見せながら尋ねる。嵐山が言葉に詰まり、しばし考えた後に答えた。
「……いや、今日はもうこのままでいい」
「そ?迅りょうかーい」
何だろう、なぜかあの二人の間に甘ったるい何かが流れ始めた気がする。助けを求めるように柿崎は弓場を見た。弓場も眼鏡のフレームを上げつつ生駒を見る。生駒は二人の視線を受け、頷いた。……正直、生駒が柿崎と弓場の意向を汲んだのかは不明だが任せとき!と親指を上げて見てくる。
「なんや、嵐山!昨日迅の所に泊まったんか?」
違う、そうじゃねえ!柿崎と弓場の心の叫びがこだまする中、迅がますますニヤニヤ笑い嵐山が無駄に照れ始めた……。
そんな4人を前にして「仲がいいのは良いことやね」と生駒はやり切った感を出しながら頷き、腹減ったから飯に行こう!とマイペースを貫き通していたのだった。
生駒に促され四人は学食へ向かい歩き始める。
お揃いの青と赤のスニーカーが隣に並んで歩き始めた。