虎杖悠仁はチョコを渡したい教室に、いない。
一緒に帰るから待ってて、と告げたはずの伏黒の姿が見当たらない。
勢いよく開けた扉に手を掛けたまま、虎杖は呆然と入り口に立ち尽くしていた。
「アイツなら帰ったわよ」
鞄を肩に掛け、帰り支度を整えた野薔薇の姿だけがそこにあった。
「うそだぁ……」
「はぁ?人に伝言押し付けといて嘘つき呼ばわりする?」
失礼極まりないといった表情で凄まれれば、「伝言って?」と訊き返したいのをごくりと唾と共に飲み込んだ。
推測するに、伏黒から預かった、もとい押し付けられた言伝の為に虎杖を待っていたのだろう。それならば感謝を先に伝えるべきだったと虎杖は反省する。
伏黒は帰っちゃったし、釘崎は怒らせちゃうし。
しゅんと肩を落とした虎杖を見て、野薔薇はあからさまなため息をついた。しかしその表情に先程までの不機嫌は残っていない。
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