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    fivena201

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    fivena201

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    忠愛ワンドロワンライのために書いていたんですが、あまりにも時間がかかったのでお題だけ借りると言う形式で上げることにしました。(すみません)
    お題「眼鏡」
    ※デザインワークスのネタバレを含みます
    僕犬したばかりのほのぼの忠愛

    無題 この数週間で様々なことが変化した。変わるのは一瞬だ。でも、本当は少しずつ変わっていたのだろう。ある時ふと、全てが同じ方向に傾いて収まる。そう言うものかもしれなかった。

     菊池の顔が見たくなったから、愛之介は先に電話をかけていた。同じ屋敷の中で暮らしていても、相手が何をしているのかちっとも分からないくらい、部屋は離れていた。仕事でもないのに突然出かけて行っても迷惑だろうし、それにも増して、愛之介の気持ちは以前よりも殊勝なものに変わっていたのだ。好かれていたい、と思うのだ。菊池は愛之介のことを一生好きでいてくれる。きっとそうなのだろうけど、昔の気分が蘇って、「彼は明日も傍にいてくれるかな」と言う気分になるのだった。もう二十年近くも前の感情だ。自分の年齢と不釣り合いな気持ちに思えたが、それでも、確かにかつて自分が抱えていた感情なのだと認めてもいる。だから素直に電話をかけていたのだ。

     菊池は愛之介を優しく出迎えてくれた。意外だっただろうとは思う。でも彼はそんな素振りを見せずに、淡々と自分の部屋の中へ入れてくれた。愛之介が廊下で突っ立っていることの方が気にかかるのだろう。そんな気がした。部屋の中では温かい茶が用意されていて、それは珈琲や紅茶とも違う匂いを発していた。夜中に丁度いいハーブティーの匂いだった。愛之介が電話をかけた後に準備をしたのかもしれない。
     菊池にダイニングの椅子を勧められた後、愛之介はそこに腰かけながら彼の行動を眺めている。意外なことが沢山あった。部屋の中は昔と変わっていない。でも大学の教科書はどこにも見当たらないし、彼は眼鏡をかけてダイニングの中を歩いていた。そうしてティーポットを手に取り、お揃いのカップに中身を注いでいた。きっと予備のカップなのだ。彼はほんの少しだけ申し訳なさそうな顔をしてからそっと目を反らした。それがひどく静かで、彼らしい仕草にも思える。成長し身体も大きくなった彼に、なぜか合うような気がした。愛之介が慣れてしまっただけかもしれない。
     彼は仕事用の椅子を引っ張って来て隣に収まる。彼のカップにも温かいお茶が注がれて、支度は整っていた。
     そのまま口をつけたら眼鏡が曇るぞ、なんて思っていたら、彼は入れ物を持つ前に眼鏡を外して机の上に置いている。流石の彼も油断をしていたのだ。置き方がいかにも雑で、普段もこうやって置いています、と愛之介にも分かるくらいだった。
     ハーブティーは良い味をしている。それが美味しいのと、菊池を見ているのが面白くて、思わず笑みを浮かべていた。
    「眼鏡は新鮮だな」と言ったら彼ははにかむように笑っていた。「本を読んでいたので……」と返事をする。そうして自分の置いた眼鏡を見て、さっと手を伸ばすのだ。眼鏡は菊池の膝の上に移動して、そこで恐縮する様に縮こまっていた。菊池がそうするから、眼鏡まで同じように見えてくる。

     この部屋に来た理由なんて特にはなかった。彼がここにいるから、愛之介もやって来ただけなのだ。
     でも、彼が本を読んでいたと言うから、申し訳ないとは思った。邪魔して悪かったと言ったら、彼はそれを客人の決まり文句か何かだと思って「いいえ」とひな型みたいな返事をしている。
    「お前の部屋なんだから自由にすればいい」そう言ったら、彼はきょとんとした顔でこちらを見ていた。愛之介は菊池の膝にチラリと目をやる。「床に落とすんじゃないかって、不安になる」
     少し大げさに言ってみたものの、気になっているのは確かだから言うだけの意味はあった。菊池も自分の脚に目をやって、眼鏡をそっと拾い上げている。「ありがとうございます」なんて言いながら彼は机の上にそれを戻していた。変な感じだ。この部屋の持ち主は菊池だと言うのに。また同じ台詞を言いそうになった。自由にすればいいのだ。
     そうしたら、たぶん菊池も同じ台詞を返す。

     茶の匂いはどちらかと言うと大人らしい感じがした。子供の時にはあまり馴染みがなかったのだ。時間はあっという間に過ぎるのだと思った。この八年間、自分は遣り切れない思いで生きて来たんじゃないのか。心の内が気持ち良く透いていって、それに驚きを隠せなかった。でも、「そうか」と見つめている自分もいる。
     菊池にはぼうっとしているように見えたらしい。「愛之介様」と彼の呼ぶ声が聞こえた。
     振り向くと彼は手を差し伸べて、こちらをそっと窺っているのである。彼の手は肩に触れていた。たったそれだけで、彼の年月にも思いが向くのである。愛之介は菊池の顔を見ていた。彼の顔にはまだ面影が残っている。そうして愛之介は、昔の自分はよく泣く子供だったと思い出している。
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    fivena201

    DOODLE忠愛ワンドロワンライのために書いていたんですが、あまりにも時間がかかったのでお題だけ借りると言う形式で上げることにしました。(すみません)
    お題「眼鏡」
    ※デザインワークスのネタバレを含みます
    僕犬したばかりのほのぼの忠愛
    無題 この数週間で様々なことが変化した。変わるのは一瞬だ。でも、本当は少しずつ変わっていたのだろう。ある時ふと、全てが同じ方向に傾いて収まる。そう言うものかもしれなかった。

     菊池の顔が見たくなったから、愛之介は先に電話をかけていた。同じ屋敷の中で暮らしていても、相手が何をしているのかちっとも分からないくらい、部屋は離れていた。仕事でもないのに突然出かけて行っても迷惑だろうし、それにも増して、愛之介の気持ちは以前よりも殊勝なものに変わっていたのだ。好かれていたい、と思うのだ。菊池は愛之介のことを一生好きでいてくれる。きっとそうなのだろうけど、昔の気分が蘇って、「彼は明日も傍にいてくれるかな」と言う気分になるのだった。もう二十年近くも前の感情だ。自分の年齢と不釣り合いな気持ちに思えたが、それでも、確かにかつて自分が抱えていた感情なのだと認めてもいる。だから素直に電話をかけていたのだ。
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