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    fivena201

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    グミとゼリーとキスの忠愛。ほのぼの。

    #忠愛
    devotion

    匙加減 昨夜の夢は変だった、と愛之介は言うのだ。彼は菊池の方に顔を向けながら続きを言った。「僕は一番好みの味を探していて……」それから黙った。ゼリーを食べるためだった。
    「一番好みと言うのは、お菓子のことですか?」
     菊池も彼に倣ってゼリーを頬張りつつ、また愛之介の方にスプーンを差し向ける。二人で食べているとすぐに無くなってしまうのだ。愛之介にやる分は多く掬った。自分の分は、ほんの小さな、粒みたいな形でもいい。
     手を掴まれて、彼に向けたはずのスプーンが自分の方を振り返る。そのまま口元へと押し付けられるから素直に食べてしまった。果肉の入った旨いゼリーだ。
    「僕はもう要らない」と言いながら、愛之介はチェアの上で足を組んだ。テラスは、秋を(とは言っても、この土地らしい暑さの秋だ)を感じさせる風を屋内の方へと吹き込ませている。外と室内のちょうど中間にいるのだ。風の流れが気持ちよかった。

    「多分、グミだった」と愛之介は言った。「そう言う、甘くて、柔らかいものだった。口に入れたら本当にその通りの……」
    「お召し上がりになったんですか」
     うん、と愛之介は頷いていた。
    「変な夢だよ。僕はそれを懸命に探してた。一番好きな味があるはずだと思い込んでいたんだ」
    「思い込んで?」
    「本当に存在するかは分からないのに、あると信じてた。それで、色んな人に分けてもらおうとするんだ」
     そう言って彼は夢の中でしたと言う仕草を菊池にも見せてくれた。両の手のひらを上に返して、それを鳩尾の辺りでひっつける。その手振りは菊池にも覚えがあった。子供の時はよくやったものだ。自分の大事なものが与えられた時や、価値があると分かっているもの。それを掌で受け止めるのだ。菊池が一番覚えているものは、花の苗だった。これから庭に植えるべきものを、そうやって抱えていたのだ。その日は暑くて、日差しだけで花が枯れてしまう気がして子供心にひどく焦った。
    「僕は、どうしてだか懸命になってた。貰った菓子を1つ1つ食べながら、美味しいと夢見心地になるんだけど、何か違うとも思う」
     そう言いながら、愛之介はゼリーの残りをすべて寄越してきたので、菊池はそれを大人しく食べ続ける。
     彼は菊池を見たまま、話の続きを言った。夢の中にいる愛之介は、妙な気分に曝されていたらしい。それは今の彼の顔を見ても分かる。
    「全部「近い」とは思うんだ。不味いものなんて1つもなかった。でも違うんだ。何か、到達していないんだ」
     ふむ、と菊池も息を吐いた。ままならない夢と言うのはもどかしくて仕方ないだろう。そう言う、同情みたいな気持ちでもあったし、ようやく食べ終えたゼリーへの感嘆も少なからず含まれていた。
     これで彼と会話ができる。菊池はグラスの水を飲んで、それからようやく声を出した。
    「到達、と言うのは「理想」に対しての話でしょうか」
    「いいや」と愛之介は言った。「感覚だよ。ぼくの脳に、と言っても良いんじゃないかな」
     菊池が首を傾げると、愛之介はくすくすと笑って目を細めた。
    「お前には分からないか?」
    「……申し訳ありませんが、あまりピンとはきません」
     そうか、と言って愛之介は頬杖をついた。それからテラスの向こうに目をやり、そのために菊池の方へは横顔を静かに晒す。
     美しい顔、と思うのだ。菊池が見ていることくらい彼だって分かっている。だから愛之介の視線も時折菊池の方を向いた。少しだけ照れてしまう。互いにそうだった。まだ、慣れてないのだ。

    「いま、キスがしたいと言ったら脈絡がないか?」そう愛之介が言った。
    「いえ、」と菊池は反射的に言っていた。
    「キスがさっきの夢と関係していると言っても、お前は分からないか」
     いいえ、と菊池は言いかけたが、口にすることはできなかった。正直に喋るなら、どうして、と言ってしまいそうだった。
     愛之介は笑っている。分からなくていいさ、と言った。でも不服に思っているのは明らかだった。
    「感覚、と言うのはどういうことでしょうか」
     菊池はそう食い下がっていた。「その、「脳に」と言うのは……」
     愛之介は一瞬だけ驚きの表情を見せていたけれど、また笑いだして「くらくらする、って意味だよ」と言った。
    「くらくら……」
    「そう。僕はその感覚を求めていた。それが僕の求めるものだった」
    「夢の中で、貴方はそれを得られたのですか?」
    「ああ」
    「どんな風に……」
     そう聞くと愛之介は可笑しくてしょうがない、と言うような含み笑いを見せた。
    「従順な奴がいたんだ。黒髪で、物静かな男だったな。右目の下にはほくろがあって、僕にねだられると「他の所へ行けば、もっと良いものがありますよ」なんて言う男だった。僕はなんて言ったと思う?」
    「……分かりません」
    「僕が欲しいと言っているのに、何故くれないんだと言った」
    「……その人は、」
    「その人? 変な言い方だなあ」
    「わ、私は、」
    「うん」
    「貴方に与えたのですか」
    「ああ。もちろん。くらくらしたよ。キスしたいと言ったら今度は素直に口づけてくれた」
     結局、口づけの方が素晴らしかったんだがな、と愛之介が言うから菊池の頬は真っ赤になっていた。愛之介が手を伸ばして、その熱さを確かめようとしてくる。拒否はできなかった。ただ恥ずかしいだけなのだ。
     それで、と愛之介が言った。
    「キスは、脈絡がないのか」
     いいえ、と菊池は言った。
     近づく前に、彼の手が、もう菊池の腕を掴んでいる。頬はまだ熱かった。
     一度だけ触れるキスをすると、甘いゼリーの匂いが濃く香った。同じものを食べていたのだから、もう新鮮味はなかった。愛之介の手が離してくれないから、もう一度キスをする。満足してもらえるのはもう少し先だと分かっている。彼の顔も瞬く間に熱くなる。目を合わせた時、彼は普段よりもちょっと幼い顔をして、嬉しそうに笑うのだ。

     夢の中で、貴方は私になんと声をかけてくれたのですか。思わずそんなことを聞いていた。愛之介は照れたように笑いながら、「忠、って言っただけだ」と答えた。それから彼は夢の終わりも話してくれた。夢の中の彼は、菊池に向かって「大好き」と言ってしまったらしい。
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    Replies from the creator

    fivena201

    DOODLE忠愛ワンドロワンライのために書いていたんですが、あまりにも時間がかかったのでお題だけ借りると言う形式で上げることにしました。(すみません)
    お題「眼鏡」
    ※デザインワークスのネタバレを含みます
    僕犬したばかりのほのぼの忠愛
    無題 この数週間で様々なことが変化した。変わるのは一瞬だ。でも、本当は少しずつ変わっていたのだろう。ある時ふと、全てが同じ方向に傾いて収まる。そう言うものかもしれなかった。

     菊池の顔が見たくなったから、愛之介は先に電話をかけていた。同じ屋敷の中で暮らしていても、相手が何をしているのかちっとも分からないくらい、部屋は離れていた。仕事でもないのに突然出かけて行っても迷惑だろうし、それにも増して、愛之介の気持ちは以前よりも殊勝なものに変わっていたのだ。好かれていたい、と思うのだ。菊池は愛之介のことを一生好きでいてくれる。きっとそうなのだろうけど、昔の気分が蘇って、「彼は明日も傍にいてくれるかな」と言う気分になるのだった。もう二十年近くも前の感情だ。自分の年齢と不釣り合いな気持ちに思えたが、それでも、確かにかつて自分が抱えていた感情なのだと認めてもいる。だから素直に電話をかけていたのだ。
    1926

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