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    fivena201

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    ほのぼの幼少期忠→←愛

    (かんきょーしょーの熱中症環境保健マニュアルを参考にしつつ)

    境界線 真昼だった。帽子をつけていても太陽の日差しは厳しい。ずっと外で遊んでいるなんて不可能だった。
     影に座ろうと菊池が手を差し出すと、愛之介は笑って手を重ねた。帽子の鍔で見えづらいらしい。菊池を見上げるときは、いつもよりも顔もずっと上にそらして。

     本当ならこのいつものプールで遊んでしまいたかった。だけど、目下、プールサイドにある庇の中で過ごす方がいいのだ。地べたに腰を下ろし、ペットボトルに入った水を飲んだりして。
     少しすると、愛之介が這うように移動して片手だけを庇の外に出した。半袖の、幼い手が、そこだけ日差しに曝される。
    「暑いね」と愛之介は言っていた。それから菊池の傍に帰ってきて、隣にくっついて座ると「ずっと暑いのかな」と聞いた。
    「もう少ししたら、気温もちょっとだけ和らぐかもしれません」
     そう答えたものの、今日のことについては答えられなかった。ずっと暑いままかもしれない。このまま夕方が近づいて、それで二人の時間は終わりだ。
     愛之介がため息を吐いたらしい。ふう、と微かな声が聞こえて振り返った。そうすると愛之介は驚いて、それから少し不安そうな顔をした。
    「どうしたんですか?」と聞くと愛之介は「えっ」と言って俯く。無言になってしまった。
     けれど愛之介の気持ちは菊池にも分かるものだ。
    「スケートが滑れなかったら、いやですね……」
     そう言うと愛之介も「うん」と小さな声で相槌を打った。
     愛之介はちらちらと菊池の方を見ていた。彼と目が合うと、どうしてだか手を伸ばしたくなる。肩に手を触れて、ぽんぽんと優しい力で叩いてみる。
     彼はその手を掴んで離してくれなかった。菊池はその手を払うこともせず、側で座っているだけだ。
    「忠」と聞かれたから「はい」と返事をする。「忠はどんなお菓子が好き?」今度はそう聞くので返答に困った。「種類をあまり知らないので」と返すと「フォンダン・ショコラは?」と聞かれた。首を横に振ると彼は「すごく美味しいんだよ」と満面の笑みで教えてくれる。そうやって笑いあっている内に彼が掌を指先でこちょこちょと擽ってきた。仕返しに菊池も愛之介の耳元に息を吹きかける。彼の可愛い声が大きく響いた。それを聞くと、菊池はいつも別のものを思い出す。水飴の甘さや、黄色のパンジー、素敵なケーキを売る店のドアベル。

     笑い合っていると辺りが暗くなった。
    「あっ」と菊池は声を出した。地面の色もうっすらと陰りを帯びている。空の雲が太陽を隠してしまったのだろう。
     愛之介の手を引いて庇の外へ出た。先程よりも陽射しは強くない。
     空は決して見上げなかった。太陽を見てはいけないと教わったからだった。
     二人で地面の暗さを見つめて、それから一緒にプールの方へと走っていった。勿論、自分のスケートボードを持って。
     滑ったのはほんの数秒だった。雲は流れていくのだ。カーテンが開かれていくように、向こうにある薔薇園から明るくなって行く。その時は急いで庇の方へと戻っていった。それが妙に楽しかった。
     当然のように次の機会を待つ。地面を見ていればすぐに分かった。二人でじっと耐えながら、雲が期待に応えてくれるのを待つ。
     一瞬だけ周りが影になった。でも小さな雲だった。すぐに太陽は出る。
     けれど再び影が来た。愛之介は、一歩だけ外に出ている。「愛之介様」と声をかけると彼は振り向いた。差し出された手を菊池は握った。二人でまた駆け出す。ワクワクしていた。
     今度はもう少し長く滑れた。でも太陽が出始めたら、またプールを上がって影の方へ。
     庇の中へ引っ込んだ時は、二人ともくすくすと笑って、それが止まりそうにもなかった。抱き合うみたいに引っ付き合って、手は握っていた。彼の手が熱いと思う。それを可愛いと思った。二人とも帽子を被っている。だから愛之介は普段よりも上を向いて、一生懸命、菊池の顔を見ようとしているのだ。
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    fivena201

    DOODLE忠愛ワンドロワンライのために書いていたんですが、あまりにも時間がかかったのでお題だけ借りると言う形式で上げることにしました。(すみません)
    お題「眼鏡」
    ※デザインワークスのネタバレを含みます
    僕犬したばかりのほのぼの忠愛
    無題 この数週間で様々なことが変化した。変わるのは一瞬だ。でも、本当は少しずつ変わっていたのだろう。ある時ふと、全てが同じ方向に傾いて収まる。そう言うものかもしれなかった。

     菊池の顔が見たくなったから、愛之介は先に電話をかけていた。同じ屋敷の中で暮らしていても、相手が何をしているのかちっとも分からないくらい、部屋は離れていた。仕事でもないのに突然出かけて行っても迷惑だろうし、それにも増して、愛之介の気持ちは以前よりも殊勝なものに変わっていたのだ。好かれていたい、と思うのだ。菊池は愛之介のことを一生好きでいてくれる。きっとそうなのだろうけど、昔の気分が蘇って、「彼は明日も傍にいてくれるかな」と言う気分になるのだった。もう二十年近くも前の感情だ。自分の年齢と不釣り合いな気持ちに思えたが、それでも、確かにかつて自分が抱えていた感情なのだと認めてもいる。だから素直に電話をかけていたのだ。
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