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    27gaya

    字書きのオタク

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    27gaya

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    現パロ/導入だけとりあえず。

    ダル・セーニョ「やっと会えたね、先生。ちょっと遅かったんじゃない?」
     屈託のない笑顔を浮かべ、橙色の髪をした青年が鞄ひとつを背に背負いそう告げる。衣服の裾からちらりと見える腕や足には痛々しい痣や傷が幾つも覗いており、彼がどんな扱いを受けていたのかを『先生』と呼ばれた黒髪の男はすぐに察する。
    「あぁ、随分探したぞ。……帰ろうか、公子殿」
     先生がそう微笑み青年の手を取る。嬉しそうにその手を取る彼の後ろには、化け物でも見るかのような形相をした彼の母親が腰を抜かしへたり込んでいる。
    「だ、誰だあんた! そいつはうちの子だ、誰とも知れん奴のところになんか、」
    「ごめんね、もうあんたのところに居る理由はないんだ。あぁ、ちゃんとあんたのやった事は全部おまわりさんに教えてあるから当分食うに困る事はないと思うよ?」
     まぁ、監獄の飯が美味しいかは分からないけど。そうあっけらかんと母親であった女へそう言い放ち、じゃあ行こうかと橙色が男の手を固く握り、そのまま二人は玄関先に寄せていた車へと乗り込みその場を――橙色が生まれ育った家と、彼を暴力で支配し続けていた母親を捨てて去って行った。


    「さて、今生はどうだった?」
    「うーん、はずれ寄りの当たりかなぁ」
     助手席に座り用意されていた水のボトルを傾けながら彼――公子と呼ばれた青年がぼやく。
    「先生とそう離れてないところに生まれたのは大当たりだったけど、鍾離先生が思い出させてくれなかったらあのままあいつを殺して刑務所に行ってたかも……ってところは間違いなくはずれだ。」
    「はは、今はもう武力に頼れる時代ではないからな」
     からからと笑いながら鍾離先生、と呼ばれた男はハンドルを操り夜の街を走っていく。その横顔は何十年経ったところで何一つ変わらず、青年を安堵させる。
    「家に着いたら傷の手当から、だな。必要なものがあれば都度手配しよう。」
    「ん、ありがと。……先生はあれから相変わらず?」
     窓の外を流れる景色は以前見た時とは随分様変わりしたものの、それでも地形や景色自体はそう変わらないのかどことなく見覚えがある。確かこの坂を上った先の大きい屋敷が今の鍾離の住処だったはずだ。
    「そうだな、いつの時代になっても鑑定や知識といったものは重用される。七星の後継に当たる面々ともよくさせて貰っているしな」
    「わぁ、相変わらずだぁ……」
     前にこうして共に過ごしていた時もそうだったように、彼は璃月で凡人へと降りたあの頃からずっと変わらぬ営みを続けている。とうに世界は大きく様変わりしたが――それでもかつて璃月を治めていた七星、それの血統に連なる権力者や各国の重要人物の間には鍾離の存在はしっかりと言い伝えられ、表立つ事はなくとも相応の仕事と待遇を受け続けているようだ。
     青年――かつて鍾離と共に生き、凡人の生を全うし死に別れた青年タルタリヤは、この世に生を受ける度、鍾離のもとへと帰っている。彼がタルタリヤとして生きていた頃に結んだ契約のせい、あるいはおかげと言えるだろう。
     鍾離が魂へ結んだよすがを頼りに彼の居場所を突き止め夢枕に立ち続け、程よく育った頃合いを見計らい迎えに行き、そうして永劫共に生きようというさながら呪いじみた契約を履行し続けている。とはいえ彼自身、鍾離と生きるこの奇妙な人生を何より面白がり楽しんでいるのだが。
    「公子殿こそ、今日まで随分苦労したことだろう。これからは思う存分、好きなように生きるといい」
     鍾離はタルタリヤがどんな人生を歩んできたのかをよく知っている。何せそれらは全て、彼自身が夢枕に立つ彼と言葉を交わす中で愚痴でもこぼすように教えてきたのだから。
     今日はこんな目に遭った、学校で学ぶ勉強は簡単すぎて退屈だ、今はどこに住んでいていつ頃に落ち合うのが良さそうか。そんな話を夜毎、万民堂で料理をつつきながら雑談をしていた頃と同じように彼と話していたのだ。
     そうして今日漸く迎えに行く手筈が整い、車へと乗せ数十年前と同じように家へと連れ帰っているのだ。
    「あは、ありがとう先生。……とりあえず美味しいご飯でも食べたいなぁ」
    「勿論用意してある、帰ったら風呂と傷の手当てをしてから食事にしよう」
     そう言葉を交わしながら屋敷の扉を開け、タルタリヤを招き入れる。玄関の中はやはり以前共に暮らしていた時と変わらず、骨董やよく分からない岩なんかで飾られている。
     そのまま玄関を抜け、勝手知ったるようにリビングへと向かうと背負っていた鞄を傍らに置きぼふん、とふかふかのソファに腰掛ける。その隣へ当然のように鍾離も腰掛け、そっとタルタリヤの柔らかな橙色を撫でながらその髪へと口付ける。
    「おかえり、公子殿……いや、アヤックス」
    「……っはは、ただいま、先生」
     こうして幾度目かの二人の日々が、また始まった。 
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