とか言って「パフェ美味しかったね」
希佐はにこりと微笑んで隣に話しかける。
「そうだな」
それを言葉少なに受ける鳳は、普段よりも柔和な雰囲気で表情を緩めている。
寒空の中、二人はデートの真っ最中。とある情報通から季節限定のパフェが美味しい喫茶店の情報を聞きつけ、彼を連れ出したのだった。
「だがナポリタンだって悪くなかった」
「あはは、鳳くんのお眼鏡に叶ったなら嬉しいよ」
パフェの前に食べたナポリタン。喫茶店の昔ながらのナポリタンは、彼の愛するそれと近しいものだったらしい。こっそりその存在もリサーチ済みであった希佐は顔を綻ばせた。
「外は冷えるな」
「うん、寒いね。……あ、そうだ。ここら辺に確かアレがあったはずなんだ」
「アレ?」
希佐はスマホで何かを調べ始める。鳳は覗き込むかどうしようか迷いつつ、その手元に目線だけを送っている。
「あ、これこれ! 足湯!」
「足湯……」
画面を突きつけられて鳳はようやくそれを正面から捉える。
「山の麓の……玉阪座のもっと奥か」
「そう。あんまり有名じゃない穴場スポットなんだって。無料だし行ってみない?」
地図を見ればここからそう遠くもない。
「……立花が行きたいなら」
「ふふっ、じゃあ行こっか」
すると希佐は物知り顔で微笑んで、マップの案内を開始した。
*
「うーん、意外と……」
「穴場スポットとは呼ばない方がいいだろうな」
到着した二人の目に飛び込んできたのは、閑散とは真逆、人で溢れた足湯だった。座面には隙間なく客が座っていて自然の静けさも薄れている。
「どうしようか」
「……ここに長居するのは得策ではないだろうな」
「やっぱりそうだよね……」
少なからず足を温めるこの湯を心待ちにしていた希佐は落胆した様子でいる。
「また出直せばいいだろう」
「うん……そうしよっか」
「……今日のところは、僕の部屋で我慢しろ」
「えっ」
「部屋の浴槽に湯を張れば足湯になるだろう」
鳳の提案に希佐は目を丸くする。
そしてふっと表情がほどける。
「ふふっ、鳳くんの部屋で足湯?」
「なっ、何だそんなに笑って。嫌なら別にいい」
「嫌じゃないよ。ここみたく開放感はないけど……でも面白そう」
「……じゃあ帰るぞ」
さっさと歩き出した鳳を追うように希佐も足湯に背を向けた。
「あと……」
「あと?」
不意に口を開いた鳳は、どこか躊躇った様子で口をつぐんでしまう。
「なぁに?」
「……足湯、お前の足が他の人に晒されるのは不快だ」
「えっ」
希佐の目は再度丸くなる。鳳は一向に希佐の方を見ようとはしない。
「でも、公演とか稽古で結構足出したりしてるけど……」
「それは別だ。必要があってやっていることだろう。でも足湯の場合、お前の綺麗な足が不用意に晒される。お湯に濡れれば一層艷めく。……お前は自分の武器を自覚した方がいい」
「……鳳くん、そんな風に思ってたんだ」
呆気に取られていた希佐がそう言えば、鳳はさらにそっぽを向いてまくしたてる。
「ぼ、僕がどう思おうが勝手だろうっ。お前と違って舞台的な見方をしているだけだ。僕らは商品でもある、立花ももっと自分を丁重に扱え」
「そんな大丈夫だよ、足湯くらい」
「……ふん。まぁ、他に誰もいない時にどうしてもと言うなら来てもいいが」
「そんなこと分かんないよ」
「……はぁ、じゃあ次ここに来たい時は僕を呼べ。人が少ない時間なら許す」
「そしたら鳳くんも来てくれるんだ」
「……色々言ったのは僕だからな」
「優しいね」
「うるさい」
陽が落ちかけて気温は益々冷え込んでいく。ユニヴェールへと続く階段を上る膝も寒さで震え出す。
でもその先に温まる場所がある。二人だけの秘密の約束が待っている。
隣で揺れる手を取りたい衝動を堪えながら、二人は寮の明かりへと足早に向かって行った。