分かりやすい奴だと思った。初めの頃に抱いた印象とは、いつのまにか逆転していた。
俺を視界に入れれば嬉しげに笑い、手を振り、こちらに寄ってくるような奴が、分かりやすい奴でなくて何だというのだろう。
初めは鬱陶しいと思っていたはずの気持ちも、コイツの不屈の精神の前に白旗を振っていた。そうだ、気づいた時には、無意識のうちにコイツを受け入れてしまっていたのだ。
だから、こちらは腹を括ってやったというのに。
「……えっ、と……? 僕が、君を?」
ポカン、と目の前の男が口を開けていた。その間抜け面はこれまでに拝んだことのないものだった。
「勘違いじゃないかな……。僕はキミのこと、好きじゃないよ」
「何言ってやがる。アンタは俺のこと、好きだろ」
困った様な顔をした入江さんとしばらく押し問答をしながら、ようやく気がついた。この野郎、すっとぼけてやがるのかと思ったら、本当に自覚がないらしい。
「キミは確かに可愛い後輩だけどね」
だが、コイツは別に頭が悪いわけでも鈍いわけでもないはずだ。コイツが自覚がないということは……気づきたくないと思っているのだろう。
ならば、いくら言っても無駄だ。自覚するわけがない。それに気がつくと、どっと虚しさが押し寄せてくる。
「だが」
悔しさと、悲しさもゆっくりと追いついてきた。入江に認める心づもりがないのなら、何を言っても届かない。じんわりと広がる悔しさから、思わず、絞り出すような声が出た。
「少なくとも、俺はアンタが好きだ」
「……え」
入江が固まった。硬直した体が、呆然と俺を見つめている。ふと、入江の鼓動の音が聞こえた気がした。
……もしかすると。入江に想いを認めさせるより、俺の想いを伝えてやった方が、コイツには効くのかもしれない。
「あ……跡部くん、は、僕のことが嫌いなのかと思ってたな」
「最初はな。アンタが鬱陶しかった」
「あはは……キミも何か、勘違いしちゃってるんじゃない?」
「アーン? 他人の気持ちまで否定できるとは、随分自信のある理解者様だな?」
「……」
「アンタのしつこさには負けたぜ。すっかりアンタに心奪われちまった」
合っていた視線が不意に外れる。少し俯いた入江の耳は、うっすらと赤くなっていた。
今ならいける。そう確信する。
「アンタは俺のことが好きなはずだ」
「……だから……それはキミの勘違いだよ……」
「あんなに俺様に構ってきたくせに、か?」
「それは、……キミの成長が見たかった、から」
「へぇ」
軽く流せば、少しムッとした表情の入江が睨んでくる。だが赤らんだ顔ではただ可愛らしいだけだ。
「信じてないね」
「あぁ、信じてねぇ。それだけじゃないだろ?」
「……
↓残されていたメモ(怪文書)
後輩を恋愛対象と思ってない入江、跡部に結構露骨なアプローチされてても流していて、好きだと直接的に言われた瞬間無意識に押さえ込んでいた恋心が溢れ出して、自分でも大混乱するが、跡部はそれを見て今ならいけると踏みグイグイ告白してくるから顔真っ赤心臓バクバク半泣き奏多ちゃんになる