跡部くんと所謂セックスフレンドの関係になって、その関係は何年も続いた。女性関係を気軽に作るにはしがらみの多い彼には、僕はちょうどよかったのではないかと、僕は睨んでいる。
いつかは破綻する関係だと分かっていながら、いつまでもずるずると、ずるずると続けていたのはただただ僕が臆病で、そして彼にあまりにも深く恋焦がれてしまったからだった。
「……奏多」
「んー……?」
跡部くんに穏やかに呼ばれたときには、まさか崩壊がすぐそこまで来ているとは気づいていなかった。
「結婚したい相手がいる」
跡部くんの言葉が耳に入る。ひとつ、ふたつ、瞬きをして、それから。
「だから、この関係をやめたい」
跡部くんの口から、ぽつり、と決定的な言葉が溢れた。
「……」
ゆっくりと跡部くんの言葉が染み込んでいき、静かに状況を理解していく。終わるのだ。儚い夢のような関係が、ついに。
そう理解すると、急激な胸の痛みと共に、涙が溢れた。
「……か、なた、さん」
「……あ……ちが、うの、ちが……っひ、う、うぅ……っ!」
驚いた表情の跡部くんに見つめられている。ぼたぼたと落ちる涙は止まらない。胸が苦しい。締め付けられるように、痛い。苦しい。嫌だ。こんな姿、彼にだけは見せたくないのに。
跡部くんが僕を抱きしめる。温かな身体は、この先、もう僕に触れることはないのだろう。そう思うとより一層涙が止まらなくて、声を上げて泣いてしまう。
涙が止まるまでにはしばらくかかった。泣き止むまで跡部くんは何も言わずにずっと背中を撫でてくれていた。優しくて、それにまた泣きそうになる。
「……ごめんね、急に」
「……驚いた。素面のアンタが泣くところは初めて見た」
跡部くんに身を委ねたまま、ぼうっと虚空を見つめていた。跡部くんは僕に手を重ねて、ゆっくりと僕の指を撫でている。少しだけくすぐったいこの感触を、いつかは忘れてしまうのだろうか。
「奏多さん」
跡部くんに呼ばれて、視線を彼に向けた。跡部くんはどこか緊張した面持ちで僕をじっと見つめている。今更もう、何を言われてもこれ以上苦しみはしないだろうと、気の抜けたままに彼の言葉を待っていた。
「……俺と、付き合ってください」
「……、えっ」
「結婚を前提にして」
「へ、……え?」