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    しいか

    @OsBa0x0

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    HP(小説置き場):http://0xswalx0.soragoto.net/

    男女CPと男の子コンビ たまに百合
    女装とケチャップと下着に注意してください

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    しいか

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    息抜きに書いてたやつ まだ冒頭もいいところ(ゆり)

    ##Diamant_de_Lapin!

     小さな農村だった。
     木造の家々がぽつぽつと建っている。家は八軒、集会所兼学校兼診療所が一軒、それから食堂が一軒。朝日を遮るものはない。その家の内の一軒で、部屋に射し込む眩しさに目を擦りながら、ヴェラは目を覚ました。
    「……ふあ~~~ぁ」
     ヴェラはエリシュカが見たら顎が外れるんじゃないかと慌てるような大きな欠伸をしてから、睡眠の誘惑を布団ごと蹴飛ばして、立ち上がった。豪快に捲れ上がっていたネグリジェの裾がすとんと落ちる。ヴェラは頭を無造作に掻きながら、部屋の扉へと向かった。
     ヴェラの家は二階建てで、ヴェラの部屋もその二階にある。廊下に出たヴェラはまたも欠伸を漏らし、一階への階段を下った。
     リビングにはいつもいるはずの母がいなかった。なんとヴェラが一番乗りだ。どうしたことかと考えるまでもない。彼女が無意味な早起きをしてしまったというだけの話だ。そう考えてみると、寝惚けた頭では何も思わなかったが外が微妙に薄暗い気がする。なんとなく勿体ないような気持ちになって眉をひそめるヴェラだったが、二度寝をするために階段をまた上って部屋へ引っ込む程ではなく、渋い顔のまま洗面所へ向かった。
     鏡の前に立つと、とんでもない寝癖の少女と目が合う。ところがヴェラが手櫛で頭を整えると、寝癖はすぐに大人しくなり、鏡の少女はいつものストレートヘアーになっていた。このよくまとまる髪はヴェラの自慢――というわけでもない。非常に残念なことに、彼女は己の外見に関心が薄い。薄すぎた。
     ヴェラは顔を洗い、歯を磨いてから、着替えの前に朝食を摂ることにした。戸棚からチーズと燻製肉を――気持ち多めに取り出し、それらを雑に堅いパンに乗せる。そしてもごもごと口を頬袋さながらにいっぱいにして、そのまま家の外に出た。
     ドアの前に立ちながら、村、それを囲む山や朝日を眺めた。仁王立ちで。
    「おはようヴェラ。随分早起きだね」
     声に視線を遣れば、そこにやってきたのはデニサだった。
    「おあよ」
    「飲み込んでから喋りなよ。お行儀悪い」
     ふわりとした腰まで届く暗い赤毛はハーフアップ。白いブラウスに刺繍の入った緑のワンピース。そして、三角の耳に、細くて長い尻尾。いつものデニサだったが、その手には弓が握られていた。
     別に村一番の狩り名人・デニサが弓を持っているのだっていつものことだ。ヴェラは然したる感想も持たず、自分の話をした。
    「時間間違えて起きちまった。デニサこそ狩りか? ご苦労さん」
    「あたしはいっつもこのくらいには起きてるけどね……」
    「ご苦労なこった。猫の癖に」
    「猫ったって、四足歩行の毛むくじゃらと一緒にしないでよ」
     デニサは呆れたように肩を竦める。
    「ヴェラもたまにはしてみる? 狩り」
    「んあ……」
     ヴェラはパンを噛み千切ってから、少し考えた。
    「今日はいいわ。着替えしてねえし」
    「だろうね」
     デニサはまたも呆れたように、今度は笑って、
    「んじゃ、あたしは行ってくるよ。なんかリクエストとかある?」
    「……」ヴェラはほんの少し思案した。「猪」
    「おっけー。ま、いたらね」
     デニサは軽快に親指を立てて見せてから、意気揚々と山へ向かっていった。
     それを見送ってまた欠伸をして、ヴェラは家の中へ引っ込む。

    ◆   ◆

    「あら、今日は早いのねヴェラ。おはよう」
     ヴェラの母が起きてきたのは、ヴェラの起床から一時間程後だった。
     母親は背が高く、赤みがかった金髪を横に垂らしている。晴れた日の空色をした澄んだ瞳。――ヴェラの髪と瞳は、すっかり母親譲りだ。ただ、角に関しては色だけで、母の角が頭の天辺から後頭部に向かってカーブを描いているのに対し、ヴェラのそれはやや側頭部寄りで、羊のようにくるんと丸まっている。
    「おはよう。おやヴェラちゃん。今日は早起きなんだねえ」
     父親が、十分後くらいに部屋を出てきた。
     ヴェラ母より僅かに背が低く、やや癖のついた銀髪から、兎の耳を垂らしている。ヴェラは母親にそっくりで、あまり父からは外見的特徴を受け継がなかったが、垂れたチョコレート色の長い耳は、確かに父親からの贈り物だった。
    「どいつもこいつも一言目にはそれかよ。あたしだって起きようと思って起きたんじゃねえ」
    「威張らないの、まったく」
     母親はふたり分の朝食を用意しながら、ヴェラを窘めた。その様子を見ながら、ヴェラが眉根を寄せる。
    「あたしの朝飯は?」
    「もう食べたんでしょ」
    「む……」
     食べたは食べたが、別に母の用意する朝食を食べることも吝かではなかったのだが。すっかりそのつもりでいたヴェラは仕方なしと、パン棚へ近づいた。
    「ちょっと、何してるの」
    「パン一個じゃ足りねえから、もう一個」
    「食いしん坊ねえ! じゃあ卵焼いてあげるから、いいでしょ?」
     それならばと、ヴェラは大人しくテーブルについた。向かいの父親が、
    「そういえばヴェラ、今日は伯父さんが帰ってくる日だったよね」
    「あ……?」
     伯父。ヴェラにとってその続柄に当たる人物は、ひとりしかいない。
    「ああ。おじきね。そうだっけか」
     ヴェラの母方の伯父は村を出て冒険し、度々帰ってきては余所の村の話をし、また旅に出る――そういった類いの自由人である。ヴェラの家と手紙でのやり取りも行っており、前回の手紙(二週間前のものだ)に書かれていた帰省の予定が、今日の日付だった。
     ヴェラはすっかり忘れていた。
    「そうそう。ヴェラ、迎えに行ってあげなよ」
    「はん?」
     父の提案に、ヴェラは柄悪く返した。
    「なんであたしが」
     そこに、フライパンにベーコンエッグを乗せた母が混ざってくる。
    「いいじゃない、今日はすることないでしょ? 伯父さんも喜ぶわよ」
    「あんなおっさん喜ばせてどうすんだよ。小遣いもくれねえのに」
    「まあ。損得ばかり考えてたら、ろくな大人にならないわよ」
    「おじきみたいな?」
    「そう」
     母親の返事に肩を竦め、ヴェラは伯父の出迎えを検討し始めた。
    「迎えって、どこに行きゃいいんだよ。おじき適当だから、今日の何時かなんて分かんねえじゃん」
    「馬車の停留所でいいんじゃないかな。あれくらいの距離なら、暇潰しにもいいし……あ」父親がいいことを閃いたと、手を打った。「そうだ。あの本の最終巻、あったら買ってきていいよ」
    「えっ! 『プロックス冒険記』!?」
    「そうそう、それ」
    「そんな甘やかして」
     母親が苦言を呈するものの、もうヴェラの心は『プロックス冒険記』の最終巻に奪われてしまった。
    『プロックス冒険記』はヴェラが一等好きな冒険小説で、つい一週間前、最終巻である十巻が発売されたばかりだった。ヴェラの住まうこの村は、とても、かなり、相当、滅茶苦茶、べらぼうに、著しく――田舎なので、いくら好きであっても発売日に買うなどという芸当は不可能だった。村から徒歩一時間程の距離にある乗合馬車の停留所に、申し訳程度に備えつけられた本屋では、正直まだ並んでいるか怪しい。何せ知る人ぞ知る名作という位置づけで、悲しいかな超人気作というような作品ではないのである。八巻を手に入れたのは、奥付より半年遅れてのことだった。三巻で打ち切られなかったのが奇跡と言っても過言ではない。それでももしあれば買っていいというのなら、いざ店頭に出た際には父親の財布で購入できるということだ。ヴェラは喜び勇んで母親からベーコンエッグの乗ったトーストを奪い取り、半ば食べている途中で階段へ向かった。
    「いくらなんでもお行儀が悪いわよヴェラ!」
    「ふぁはいほろひうあっへ!」
     ヴェラは共通語でない言語を叫んで、さっさと自分の部屋に飛び込んだ。勢いよくクローゼットを開けて、身支度を済ませる。
     赤いパフスリーブのワンピースに、白いエプロン。ドロワーズ。黒いネクタイ。白いタイツ、ストラップシューズ。とどめに、赤いリボンで飾ったお下げ。
     驚くなかれ、これがヴェラの基本スタイルである。
     実際のところ、驚くようなことは何もなく、この普段着はヴェラの趣味でもなんでもない。お隣さんに選んでもらって、彼女が是非にと言うから仕方なく着ているだけだ。
     着替えを済ませたヴェラは、そのお隣さん――エリシュカの家に向かった。
     お隣とは言っても、歩いて二、三分はかかる。まあ、田舎にしては近い方だ。こじんまりした家の、可愛らしく赤いペンキで塗られた、人形の家みたいなドアをノックした。程なく、柔らかなブロンドに七色に輝く宝石みたいな角を持った、美少女が出てきた。
    「はいはーい……ヴェラ! おはよう!」
     その女の子はヴェラの顔を認めた途端、嬉しそうに翠の瞳を輝かせた。
     彼女こそ、ヴェラのお隣さんにして幼馴染み、エリシュカである。
     ふわふわの長い巻き毛の両サイドを、赤い――ヴェラのそれと同じ色の――リボンで飾っている。服は、緑のワンピース。いつものように、金細工のペンダントを忘れていない。成る程、用事ができてやっと着替えを済ませたヴェラと違って、エリシュカは真面目に、誰にせっつかれるでもなく朝の身支度を済ませていた様子である。
     歳はヴェラと同じ十二。背はほぼ同じだが、ヴェラの方が二センチくらい高い。胸はエリシュカの方が、発育がよかった。
    「おはよ」
    「こんな朝からどうしたの?」
     エリシュカはもじもじと顔を赤らめつつ、ヴェラの顔を窺ってくる。
    「おう。今日さ、おじきが帰ってくる日だろ?」
    「ええ、もう帰ってきたの?」
    「……お前すげえな、あたしは忘れてたよ」
    「ヴェラの伯父さんでしょ? もう」
     口では呆れたような台詞を吐くものの、エリシュカはにこにことしていた。彼女はいつもこんな調子なので、気にも止めず、ヴェラは続ける。
    「んでよ、母さんと親父が迎えに行ってこいっつうから、今から馬車乗り場まで行くんだ」
    「ひとりで大丈夫っ?」
    「心配事はねえけど、ひとりじゃどうせ暇である意味大丈夫じゃねえから、お前と一緒に行こうと思って」
     一緒にどうかと思って、ではない辺り、かなり自分勝手な誘い方だったが、エリシュカは見るからに喜んだ。
    「! 分かったわ! ちょっと支度するから待ってて!」
    「もうできてるだろ」
    「お外に出かけるなら持ってくものがあるでしょー!」
     大きな声で返しながら、ばたばたと自分の部屋へ走っていくエリシュカに肩を竦めながら、ヴェラは勝手に家の中に入り、勝手に食卓の椅子に腰かけた。そんな彼女は、手ぶらである。父親から預かった本代といざというときの少額の銀貨を詰めた財布は、ポケットの中だった。
     そしてヴェラがテーブルに飾ってある花瓶を眺めつつ、最早待ちくたびれたとばかりに頬杖をついていると、
    「ヴェラ姉、おはよう!」
    「ん。おう、トビー。おはよう」
     話しかけてきたのはエリシュカの三つ年下の弟、トビーであった。彼の金髪はエリシュカより癖が強い。やはり宝石のような角を生やしていた。
    「今日も姉ちゃんと遊びにきたの?」
    「半分そうだが、半分は違う。れっきとした任務だ」
    「任務?」
    「『プロックス冒険記』の最終巻を手に入れるっていう、重大な仕事だぜ」
    「えー!」
     トビーは興奮のあまり、何故か跳び跳ねた。
    「マジで!? ねえねえ、おれにも貸してね!」
    「……お前、前回挿し絵の、よりによって主人公の顔にヒゲ描きやがったこともう忘れたのか?」
    「もうしないってば! ねーえー!!」
    「ああもううるせえな。分かったよ、あたしが三回読んだらな」
    「えー!」
    「文句抜かすなら貸してやらねえぞクソガキ!」
    「ひゃー!」
     まあまたトビーの悪戯によって本がおじゃんにされても、きっとエリシュカとトビーの母親が買って返してくれるだろう。前回はそうだった。
    「でも忘れんなよトビー、てめえはツーアウトついてんだ。もう一回やらかしたら二度と何の本も貸さねえし、あたしの感想だけは夜通し聞かせにきてやるからな」
    「ひでー! ヴェラ姉それでもおれよりおねえちゃんなわけ!?」
    「覚えとけトビー、若さに甘えててめえの悪さをなあなあにしてっとな、ろくでもねえ大人になるもんだぜ。――おじきみてえに」
    「うひゃあ」
     トビーは至極嫌そうな顔をして、それきり黙った。とはいえその沈黙が長く続くわけでもない。手提げ鞄を持ったエリシュカが、やっと現れたからだ。
    「お、お待たせ、ヴェラ。行ける、わよ」
     それでも相当急いだのだろう、肩で息をしている。
    「おう。別にそんな急いでねえから、水でも飲んだ方がよくねえか?」
    「ヴェラ、優しい……っ」
    「おう」
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