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    七篠(Nanashino)

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    七篠(Nanashino)

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    「BG字書きお題シャッフルポストカードラリー企画」のお題(JASSと味噌汁の具)をいただき、最初に書いてみた長いヴァージョン(約1700字)です。
    企画規定の字数制限を考えずにざっと書いたらこんなことになってしまったのでした;

    せっかくなのでこちらのヴァージョンもwebに載せておきます。
    (提出した文章とは少しだけ展開が違ってます。お楽しみください)

    「ふるさとの味」(ロングver.)<テーマ:JASSと味噌汁の具>


    「もう落ちついた……かな」
     古く狭いワンルームアパートの自室、染みがちらほら浮かんだ天井をボーッと眺めながら、ベッドの上で沢辺雪祈はふう、と息をついた。
     故郷の松本とは違い、蒸し暑い東京の夏に身体が慣れなくて。寝不足に加えて夏バテで食欲がなく朝食を抜いた結果、雪祈は軽いめまいを起こして具合を悪くしてしまった。なのでテイクツーでの練習を早退してベッドで休んでいたのだった。
     しばしそのままウトウトまどろんでいると、ドンドン、と部屋のドアを叩く音がした。インターホンなんてこの家には無いので、雪祈はまだ怠さが残る身体を起こして玄関の方に向かった。

    「雪祈、いるかー? オレだよ、オレ」
    「イルカ? あいにく、オレオレ詐欺は間に合ってますので」
    「そんなこと言わず、開けてくれっちゃ〜」
     面倒くさそうに雪祈がドアを開けると、そこには我がバンドのサックス吹き・大が立っていた。
    「よッ。おまえ、具合悪そうだったからさ。コレ、オレと玉田から愛の差し入れだべ♡」
     大は近所のスーパーのビニール袋を雪祈の前に突き出して、それから勝手知ったる部屋のベッドの上にドサリと置くと、シンクの前に立ってヤカンを火にかけ、ビニール袋の中をゴソゴソ探って中身を机上にずらりと並べた。
    「ほい、味噌汁。もし朝喰えなくてもこれだけでも腹に入れておくといいんだ。お湯を注いでかき混ぜるだけだから、子どもでも、料理できない雪祈にも簡単に作れるべ」
     子どもでも。って何だよ、嫌味か。少しカチンとしつつ、雪祈は机上に並んだインスタント商品の行列をざっと眺めた。
    長ネギ。揚げなす。しじみ。なめこ。赤だし。などなど。数種類の味噌汁がパッケージの帯の色で区別されていた。
    (味噌汁の種類って結構色々あるんだな)
    フム。と雪祈は鼻をならした。
    「これは、フリーズドライのお高いヤツで……」
     大は紫色のパッケージを破き、かさかさした四角い塊をマグカップにポイと入れて湯を注いだ。ふわりと湯気が上がる。
    「この揚げなす味がオレは一番好きだべ。玉田のやつは『なめこの方が好きだ』って言ってるけどオレは絶対に揚げなす派!」
     続いて、一本のボトルをビニールから出してドン、と机に置いた。ラベルには「液体みそ」と書いてある。
    「こいつには具が入ってないから、別売の乾燥した具を放り込んでやるんだべ」
     大は袋からまた取り出した四角いビニールパッケージを軽く振った。そちらのパッケージには乾燥したわかめやネギが入っているようだ。
    「これは味噌汁だけじゃなくて、ラーメンやうどんにも使える便利なヤツで……」
     大が使い方を説明していると、玉田が遅れて玄関に現れた。
    「ほらよ、忘れ物。これもあると嬉しいよな!」
     大のほうに向かって玉田は袋をブン投げる。大がパシッと手に受けたパッケージには、小さな短冊状に切られた味付きお揚げがたくさん入っていた。
    「これもうどんとかに入れるとウマいよな。腹が減った時にはこのままつまみ喰いしてもOKだし」
     ニヒヒと笑う玉田に、
    「近頃やたらと量が減ってると思ったら、犯人はおまえだったのかー!!」
     大は犯人に軽い腹パンをキメた。玉田の口から ぐぬぬ……とうめき声が漏れる。



     ……そんなささいなやり取りを思い出していたら。ピーッ、とお湯が沸いた音が聞こえた。
     東京でバンドを組んでいた頃から数年経った今。ボストンのフラットでも、雪祈はわざわざ実家から取り寄せてあの時ふたりに教わったインスタント味噌汁を飲んでいる。なにかと高くつく留学中の生活費を浮かすため、いまでは雪祈は簡単な自炊もするようになった。最初のうちはよく失敗もしたが、ネットで人気の料理動画を参考にして最近はレパートリーも徐々に増えてきた。
    「この味噌汁、忙しいときにも簡単で美味しくていいんだよな」
     作曲作業中の夜更け。小腹が空いたところに湯気のたつ味噌汁をズズ……と吸い込む。
    (東京で覚えたこれも、ふるさとの味、JASSの味。ってやつなのかな)
     喉に染みる旨味と懐かしい思い出で、異国で生活している心もほかほかと温まった。

    【終】

    *****

    以上が、「おふくろの味」の当初書いた長いヴァージョン(約1700字)となります。
    ポスカの字数制限を考えずにざっと書いたらこんなことになってしまったのだった;
    ここから泣く泣く削りましたが、そのぶん密度が上がって良かったと思います。
    とはいえ、せっかくなのでこちらのヴァージョンもwebに載せました。


    【おまけという名の余談:七篠と味噌汁】 読まなくてもいいよ!

    拙宅ではほぼ毎日自炊してますが、家族が少ないので味噌汁はお鍋で作らず主にインスタント派です。
    ぶっちゃけると、自炊でイチから作るときには肝心の具には全くこだわりがない(ネギとワカメくらい)ので、今回のテーマを頂いたとき、最初は「どうしよう……」と少々悩みましたが、時々飲むフリーズドライの味噌汁をネタにすればイケるなと気づいてからは筆が進みました。

    フリーズドライの味噌汁はどれも美味しいですよね。私も揚げなす推し♡ アマノフーズは偉大だー。
    でも普段使いしてるのは100円で8個入ってるお安いインスタント液体みそ個包装パックです。本文にあるように乾燥具ときざみあげを入れて飲んでる。減塩しじみが好き。名古屋出身なので 赤だし も買い置きしてあります。
    「おだしがしみたあぶらあげ」(相模屋)は常温で保存できて便利。何にでもホイホイ入れちゃいます。捗るぞ!!オススメ
    https://sagamiya-kk.co.jp/odashi/
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    ☺👏👏❤
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    Replies from the creator

    七篠(Nanashino)

    DONEBG/雪大
    ボストン再会後、遠距離恋愛中のふたり。
    二次BLですが、作中に具体的なセクシャル描写はありません。全年齢。
    既刊同人誌『アルカディア』の中のセリフがちょっとだけ出てきます(未読でもOK)

    クリスマス合わせに書いていたものです。
    遅刻すみません。
    ハッピーホリデイズハッピー ホリディズ

     ――新しい年が、あと数日でやってくる。
    「今年も、もう終わりか……」
     雪景色のボストンの夜のよく冷えた大気の中で、沢辺雪祈は白い呼吸をした。東京でバイト中に事故に遭ったのち、ある程度回復してから渡米したバークリー音楽大学で作曲の勉強をして、それから大と再会して。この土地に来てから既に三年すこし経った。
    (なんだか、あっという間のことだったな)
    と雪景色の中で彼はしばし感慨にふけた。来年は作曲科の卒業試験を受けて、更に勉学を深めるために大学院に進むか、それとも職業作曲家の道に行くのか、それとも……。少し先のことを雪祈はまだ決めかねていた。
     年の瀬でキラキラと華やかさを増す街に、今宵は雪がしんしんと降っている。ボストンにも強い寒波が来ているらしい。あたり一面に白い化粧を施された街中で転ばないよう、雪があまり積もっていない辺りの道を選びながら雪祈はてくてく歩いた。
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    七篠(Nanashino)

    DONE「2回目のアニバーサリー」
    2回目の同棲記念日に、雪祈にプロポーズしようと頑張る大の話(全年齢向)

    同人誌『アルカディア』収録「Drifter」からさらに数年後のイメージで書いてます。(未読でも読めます)
    中途半端な完成度になってしまったので、加筆して未来の新刊に入れるかも。

    (※イベント時パスワード制にしてましたが、パス外しました。ご自由にお読みください)
    二回目のアニバーサリー 三十路手前のオレたちがNYのフラットで同棲しはじめてから二年目の季節がやってきて、記念日の今日はレストランで食事することになった。
     一年目の記念日の時はオレ、宮本大は演奏旅行のツアー中、沢辺雪祈は依頼を受けた作曲の締切前で忙しかったので、今日が実質はじめてのアニバーサリーデイみたいなものだった。

    「えーっと、今日の店はキングダムホテルの3F【ブルー・サファイア】か」
     店の選択と予約は雪祈のやつに丸投げだったので、オレは今日の店については名前しか知らない。でもホテル3Fの、低層フロアにあるレストランならそこまでかしこまるような場所では無さそうだ。
     本日のオレの装いはコットンのパリッとした白いシャツに、おろしたてでまだ真っ黒のデニム。それにカジュアルめの蝶ネクタイを合わせて、髪もワックスでアップに整えた。いつもと違う格好だったから練習中にバンドメンバーから「おッ。リーダー、今日は愛するユキチャンとおデートですか?」と散々いじられたけど気にしないで演奏に励んでいたオレです。
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