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    かもめ

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    かもめ

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    過去作。20200830

    #尾葉
    leavesOfOnesTail
    ##ヒロアカ

    【hrak】尾葉が花を植える 尾白くんもおいでよ、と葉隠に連れてこられた中庭の片隅には、赤茶色の煉瓦で囲った花壇が作られていた。花壇の中は黒々と湿った土で埋め尽くされ、小さいポットに入った苗が煉瓦の脇で綺麗に整列している。端の方はまだ「建設中」のようで、麗日と蛙水が楽しそうに雑談しながら煉瓦のブロックを積み上げていた。
    「へえ。ここに花、植えるの?」
    「うん! ここなら寮の談話スペースからも見えるし、お花が咲いてると嬉しくなるでしょ?」
     葉隠は透明な手で窓越しに屋内のソファを示す。確かに、よく大勢で集まってテレビを見たり雑談をしたりする共有スペースから見えやすい位置だった。
    「ねえ、もうこっちの方植えちゃっていい?」
     彼女が「花壇建設隊」の二人に尋ねると、「大丈夫だよー」「あんまり苗と苗を近づけて植えると、大きくならないから気をつけてね」と返ってくる。葉隠はスコップを握り、気合を入れるかのように「よし!」とガッツポーズをした。尾白も彼女に倣って、慌ててスコップを握った。

    「苗の根元よりも、ちょっと大きめに掘ってね」
     素手で土に触れるなんて、いつ以来だろうか。いや、ヒーロー科の訓練では、転倒してしまったり、地べたに伏せて相手の攻撃をやり過ごしたりするのは日常茶飯事だ。しかし今触れている土は、訓練中に倒れ込む地面とはなにもかもが違っている。色も、匂いも、手触りも。
     葉隠の指示のもと、尾白は作りたての花壇の土を掘り返して穴を作った。随分大きく掘るんだな、と思ったあたりで、「そう! それくらい!」とストップがかかる。
    「そんな感じの穴を、ちょっと間隔開けて掘っていってほしいな」
    「わかった。次はこの辺でいい?」
    「うーん、もうちょっと右でもいいかも」
     手指に触れる花壇の土は、ひんやりと湿っていて、柔らかい。肥料とか入っているんだろうか、と尾白は考える。普段踏み締めて歩く地面の土とも、訓練で地べたに叩きつけられたときに頬に触れる土とも違う。きっと葉隠や友人たちが、花を植えるために耕して、空気と水を含ませて、この花壇を作ったんだろう。
     彼女らの献身を想像した尾白は、掘っていた穴からそっと目線を上げて葉隠の姿を盗み見た。ちょうど尾白が最初に掘った穴に、小さな蕾をつけた苗を植え付けるところだった。
     黒いポットから苗を取り出し、両手で根元を支えながら花壇の穴に下ろす。見えないはずの彼女の両手が土で汚れて、包み込むように苗を持つ指の輪郭がうっすらと見えた。
    「こうやってね、根っこを傷つけないように植えてあげるんだよー」
     尾白が見ていることに気づくと、葉隠は優しい声で自分の動作に解説をつけた。苗の周りの空間を、柔らかい土で埋めていく。葉隠が透明な両手で土を掬い上げ、そっと花の根元に流し込む度に、彼女の手指の輪郭が見えたり消えたりする。不思議で心惹かれる光景だった。
    「ちょっと尾白くん! 手が止まってる!」
     ぼんやりとその様子を見ていたところ、葉隠に指摘されて目の前の穴が半分ほどしか掘れていないことを思い出した。
    「わあごめん!」
     慌ててスコップを握り直し、二つ目の穴を突貫工事で掘り進めていく。気づけば他のクラスメイトも中庭に集まりつつあった。花壇の建設を手伝う者と尾白や葉隠の隣で苗の植え付けをする者に自然に分かれ、休日の中庭が騒々しくなっていく。「明日から、水やり当番決めなきゃね!」と誰かが楽しそうに言っている。尾白はこっそり、彼女と同じ日だと良いな、と植えたばかりの花の蕾に願った。

    fin.
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