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    かもめ

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    かもめ

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    過去作。
    ※上耳結婚&出産設定です。
    20191103

    #切爆
    cutOff
    ##ヒロアカ

    【hrak】切+爆が出産祝いを買う 男二人で赴いたデパートのベビー用品売り場は、今まで二十数年の切島鋭児郎の人生では関わることのなかった、フワフワしたパステルカラーに溢れていた。切島は思わず目を点にして、周囲をあれこれ見回した。心なしか、ミルクのような石鹸のような匂いまで漂ってくる気がする。
     隣に立つ爆豪勝己は相変わらずの仏頂面だが、眉間のシワが普段よりも二ミリほど深い。売り場を見て呆気に取られている切島をしばらく横目で睨んだあと、「おい」と一言だけ声をかけた。
    その言葉で我に返った切島は、「お、おう!」とどもりながらも返事をする。

    「行くぜ!」

     気合を入れる時の癖で、両手の拳を自らの胸の前で突き合わせた。ただし、仕事中ではないので“個性”の発動は無しだ。その行動がベビー用品売り場で奇妙な目立ち方をしていることを指摘する者は、その場にいなかった。



     事の発端は、仕事帰りに同級生の芦戸三奈から届いたメッセージだった。

    『切島、耳郎と上鳴への出産祝いってもう決めた? どうする?』

     派手な色遣いのスタンプ付きで投げかけられた命題に切島は頭を抱えた。すっかり忘れていたのだ。
     昨年結婚した同級生夫婦が子供を授かったという報せが入ったのは、気付けば半年以上前だ。付き合っているようで付き合っていない、中途半端な距離感が周りがヤキモキするくらい長かった(というのは芦戸の言葉だ。切島は全く2人の色恋沙汰に気付いていなかった)上鳴と耳郎だが、その分付き合い出すと結論が早かったようで、同級生達の中でも二番目か三番目に結婚式を挙げた。書類上は上鳴の姓に合わせたと聞いたが、クラスメイトの中では苗字での呼び方が定着しており、未だに“上鳴”と“耳郎”で通っている。響きが綺麗だから書類上は揃えてしまったけれど、旧姓も気に入っていたと耳郎本人が話していたことも大きい。
     ともあれ、つい最近耳郎の妊娠の報告を聞いたと思っていたのにもう出産祝いを気にする時期なのかと、切島は驚きと焦りを感じた。妊娠以降、ヒーロー業からは距離を置いて事務方に回ったとか、それももう産休に入ったとか、あれこれ便りや噂を聞いてはいるが、いつ聞いた話だったか思い出せない。

    『やべえ、何にも考えてねえ!』
    『だと思った! 私はもう選んじゃったけど、切島たぶん考えてないなーって思ったから連絡してみた』

     ここは金銭だけ出して、芦戸に選んでもらえば……と一瞬頭を掠めたが、芦戸の返信を見て手遅れだと悟った切島はその考えをすぐにしまい込んだ。どの道、こうして思い出させてもらった上に品物選びも任せるなどと言う姿勢は、切島が信条とする“漢らしい生き方”に反する気がした。

    ──とは言ってもなあ……。

     思わず溜息を吐きそうになって、切島は眉の間に力を入れてそれを飲み込んだ。出産祝いのプレゼントなんて、生まれてこの方贈ったこともない。

    ──あれか? ガラガラ鳴るオモチャとかにすりゃいいのか?

     難しい顔をしたまま歩いていると、帰り道を共にする爆豪がこちらを横目で見ている気配を感じる。直接言葉をかけてくるわけでもないが、切島が頭を悩ませている様子を気にしている。常に不機嫌そうな表情をしている爆豪の、その微かな変化に切島が気づけるようになったのは、ごく最近のことだ。
     そう言えば、爆豪こそ何か耳郎と上鳴への出産祝いを用意しているのだろうか。乳幼児向けの品物をあれこれ選ぶ“バクゴー”は想像できないとヒーローとしての彼しか知らない世間からは言われるだろう。しかし個人的な付き合いをしてみると意外と礼儀作法などはしっかりしているので (何度か会った強烈な母親に躾けられたのかもしれない)、今でもそれなりに親交のある友人夫婦の初産の祝いを贈っても何ら不思議ではない。

    ──もしまだ選んでないなら丁度いいし、もう決めてたとしてもどの道俺ひとりじゃ決められる気しねえし。

     後者の言い訳は我ながら随分情けないものだったが、専門から遥か遠く離れた分野なので仕方がない。切島は自分が出した結論に頷いて、「なあ爆豪」と隣を歩く男に声をかけた。

    「今から上鳴と耳郎に出産祝い見に行こうと思ってんだけど、一緒に行かねぇ?」



    切島でも名前だけは知っている大手ベビー用品チェーン店を探そうとしたところ、「人にやるモン買うのにお手頃量産品売っとるトコ行ってどうすンだ」と爆豪に却下された。じゃあどこで買うのかと問えば、黙ってついてこいとばかりにさっさと先を歩き始める。辿り着いたのは、主要駅から直結しているデパートだった。爆豪はフロア案内板を一瞥すると、不機嫌そうな表情のままエレベーターに乗り込んだ。
     この顔でベビー用品売り場に立っていて大丈夫か、という切島の心配をよそに、エレベーターの電子音声が目的のフロアへの到着を告げる。しかし扉が開いた瞬間、爆豪への心配など切島の脳みそから溶け出していった。

     目に飛び込んでくる薄いピンクやブルー、ほのかに漂う甘く清潔な香り、本当にこんなサイズの衣服を纏える人間が存在するのかと思ってしまうほどに小さい洋服や靴や靴下。切島は目の前に突然広がった異世界に呆気に取られた。目立つ場所にディスプレイされた乳幼児用のオーバーオールに思わず手を触れると、ずっと触っていたくなるような上品で柔らかな肌触りだった。感嘆の息が漏れる。
     ディスプレイされた商品以外にも、色も手触りもフワフワと覚束なくなりそうなものばかりで、見回していると頭がくらくらした。バスタオル、よだれかけ、何に使うのか想像もつかない形状の布製品もある。どれを手に取ればいいのか全く検討がつかずに切島が固まっていると、隣の爆豪から「おい」と声をかけられた。

    「お、おう!」

     我に返って発した声は少し上擦った。まずい。雰囲気に呑まれていた。通常運転に意識を戻すために両手の拳をぐっと握り、「行くぜ!」と声を上げて胸の前で合わせる。気合いを入れる時のルーティンだ。

     少し冷静にものを考えられるようになった頭で、改めて売り場を見回してみた。目の前には衣類やブランケットなどの布製品。別のコーナーにはカラフルな積み木をはじめとしたオモチャが並んでいて、プラスチックの食器やストロー付きのマグが並んだ棚もある。周囲に比べてシックな色遣いが目立つ一角は、母親向けの衣服や鞄などが売られていた。

    「何買うか決めてンのか」
    「んーと……、スタイ……? がいいんじゃないかって、芦戸が」

     デパートに向かう道中「今から買いに行くから何がいいかアドバイスくれ!」と芦戸に連絡したところ、「変に凝ったの選ぶよりも定番モノでいくつあっても困らないヤツがいいよー」と、言外に切島のセンスを否定するコメントと共にスタイを提案された。「カワイイの選んであげなよ!」とのプレッシャー付きで。
     切島の答えを聞いた爆豪は、「じゃああのヘンだろ」と売り場の入り口近くを顎で示す。エレベーターを降りた直後、切島が固まっていた布製品のコーナーだ。
    そもそもスタイってなんだよ、よだれかけでいいじゃねえか、と内心“漢らしくない”文句を垂れながら、切島は売り場の間の通路を戻った。

    「カワイイの…… カワイイのってなんだ……」

     言葉としての「カワイイ」は知っていても、いざ自分で選ぼうとなるとハードルが高い。そもそもベビー用品売り場の商品は何もかもが淡い色遣いでフワフワモコモコしていて小さくて、切島の知る「カワイイ」の基準には全て一発合格だ。「何かお探しですか?」と声をかけてくれた店員に友人の出産祝いだと告げてあれこれ勧めてもらうが、「こちらはクマさんの耳が立体的になっているところが可愛らしくて人気ですよ」等と紹介されても、イマイチ違いがわからないためか全く頭に入ってこない。

    「もう何買ってもカワイイなら何買っても一緒か……?」

     流石にそれでは味気がない。店員が「ごゆっくりどうぞ」と引き下がった後もああでもないこうでもないと頭を悩ませていたところ、売り場の一番端で虹色の音符マークが踊っているデザインのスタイを見つけた。色違いで二枚組だ。手に取ってみると、ビニールの包装越しでも柔らかい肌触りだということがわかる。母親の耳郎は筋金入りの音楽好きだし、父親の上鳴もその影響でロックバンドのライブに時々脚を運んでいたからという、安直な理由である。

    「これ! これください!」

    一度決めたら即行動だ。近くにいた店員に声をかけて、音符柄のスタイを示した。ラッピングの有無を聞かれて、お願いします! と頭を下げる。自分で包むなんて到底無理な話だ。レジまで行かずにその場で会計できる百貨店のシステムにドギマギしながらお金を払って、商品を包んで貰えるのを待った。

    「終わったかよ」

     声をかけられて、爆豪がずっと黙って待ってくれていたことに気がついた。買い物がひと段落して落ち着いた気持ちでベビー用品売り場にいる爆豪をみると、そのミスマッチさが少し可笑しい。

    「おう。爆豪はいいのか?」
    「てめェ待ってる間に済ませた」

     その手にはこれまたミスマッチな可愛らしいショップバッグが握られている。

    「ええ!? 悪い待たせて!」

     爆豪を待たせてしまったことや、連れの買い物にも気付かすに必死に悩んでいたことに気がついてしまってバツが悪い。

    「わざわざこんなとこまで来てんだから、終わったら地下行ってメシ買って帰んぞ」

     爆豪の言葉で百貨店の地下によくあるデリカテッセンを想起した切島の腹がグゥと鳴く。可愛らしいながらも上品なデパートのベビー用品売り場にそぐわないその音を聞いて、爆豪はフンと鼻で笑った。

    fin.
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