***
キッズスペースで人探し中、不意に声をかけられた。
「ブラッドさん、好きな人は誰?」
長いブロンドの髪をゆらめかせながら見上げてくる瞳は真っ直ぐでその奥の深さは測りようがない。
幼い彼女のそのキラキラと澄んだそれに深い意味はなさそうだが。
「好きな人?」
どういう意図かを問うために繰り返す。
「オスカーさんに聞いたらブラッドさまだって言ってたの!」
ひらりと舞った薄いスカートの生地。その後ろにいる少女もまた俺を見上げてくる。
「ブラッドさんもそうだったら、そうしそうあいね!」
嬉しそうに言う彼女達に微笑ましい気持ちになる。
「難しい言葉を知っているのだな」
「お姉ちゃんの本に書いてあったから」
「そうか」
知っていることを披露したいのだろう。
「そうしそうあいは難しいのよね」
「そうかもしれないな」
本当に難しいことを言う。
「でも素敵なことだって書いてあったわ!」
くるくると視線が変わりながら再度俺を捉えて。
「オスカーさんのこと好き?」
と言う。
「好き、か」
「うん!」
「・・・そうだな」
彼女達の想定している言葉は単純だ。単純だが、だからこそある程度誠実な答えが必要だろうか。
意味を。
「・・・」
沈黙は肯定と取られたのだろう。
「オスカーさんに言ってあげてね!」
そう言って彼女達は手を繋いで。
「またね」
と去っていく。
おそらくは次に会った時には忘れているだろう話題だ。
「好き、か」
オスカーが問われて深い意味も考えず答えた様子が目に浮かぶ。
笑い事ではない。
笑い事ではないが、そうだろうな、などと思う自分も面映い。
思いながら、そわり、と心のどこかが擦れるのがわかる。
少しずつ、少しずつ刻み込むという鋭さではなく、擦られてそこから染み込んでくるような、染み出してくるような。
それ、に手を当てて向き合わねばならないのではないかという感情を。
そろそろ無視できないのかもしれないな、と思う。
オスカーのそれと自分のそれの擦り合わせのような答え合わせのような。
答えは、まだわからないのだ。
それはあのキラキラとした瞳と向き合ったまま認識することは難しい。
後ろめたいのだろうか。
そしてそれは誰に対しての後ろめたさなのか。
視線の先に子供に囲まれた探し人がいた。
この後ろめたさを抱えたまま対峙したならば妙に勘のいい同期には見透かされそうだと思う程度には自分は動揺しているのかもしれないと思う。
「ああ、ブラッド、探させてごめん」
色々捕まっちゃって、と言いながら子供達に手を振るディノは。
「ブラッドも聞かれた?好きな人」
にこりと裏も表も無い顔で言う。
「ああ」
何と答えたのかを問われる前に仕事の話を切り出した。
ディノの目の奥に、彼女達と同じ、というよりは少し似た色が見えたからかもしれなかった。