ウェドと星芒祭の思い出いつもの廃船の部屋で、テッドは全く慣れない相手を前に身体を強張らせていた。
部屋の明かりはテーブルの上のろうそくだけ。そのゆらめく光に、彫刻のように整ったエレゼンの男の顔が照らされている。
数分前のことだ。テッドは冷たい海風から逃げるようにこの廃船の隠れ家に駆け込んだ。
今夜はウェドとここで過ごすことになっている。二人で暮らす家を構えてからというもの、今ではほとんどこの隠れ家で眠ることも少なくなった。だがどんなに寂れてもこの場所はテッドにとって思い出深く、ウェドも同じなのだろう、最低限手入れを欠かさないためにいつ来てものんびりと過ごせる環境が整っている。
テッド自身、宿が遠かったり休憩したい時にはひとりここを使うこともある。元はまったく人の気配など感じられなかったが、二人で過ごした時間が積み重なるにつれ部屋の中に生活の様子が見えるようになり、今となっては過去の虚しい空気は見る影もなくなっていた。
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