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    Ydnasxdew

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    Ydnasxdew

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    ウェドの役割・完結編

    #WT

    Glowテッドはウェドに駆け寄り、急いで身体を抱き起こした。口元に耳を近づける。呼吸はない。わずかに開いたままの瞼から覗く青い瞳は、光を失って虚空を見つめている。
    「嘘だ…やだ!やだよ‼︎ウェド!目を覚まして…!」
    テッドは力任せに開いた魔道書に手をかざし、早口に詠唱を始める。自身のエーテルの全てに替えても、目の前に横たわる男を救いたかった。しかし淡い翠色の光はウェドに注がれることなく、すぐに自身の中へ還ってしまう。
    「なんで…!どうして⁉リザレク…!リザレク‼何で発動しないんだよ!ねえ、起きて…起きてよウェド…やだよ、死んじゃやだよ、ウェド‼」
    力一杯身体を揺さぶる。反応はない。長い前髪が、生気を失った顔の前にサラサラと落ちていく。
    あれだけ必死に勉強したのだ。もう理解していた。今だけは理解したくなかった。蘇生魔法はあくまでも『致死寸前の人間を復活させる』魔法だ。
    …抱きしめた自分より一回り大きな身体から、ゆっくりと体温が失われていくのがわかるようだった。
    「なんで勝手に決着つけたんだよ……俺のこと置いていかないって、言ってたじゃんか…一緒に生きるって、約束したじゃんかぁ…!ウェド……う、うぅ…ンぐ…ううう……!」
    堪えようとしても、嗚咽が止まらない。愛しいその名を呼ぶたび、涙が溢れ出す。こぼれ落ちた涙は冷たくなっていくウェドの目元を濡らし、まるでウェド自身が泣いているかのように頬を伝っていく。テッドはウェドの頭をかき抱き、静かに声を上げて泣き出した。

    ──ウェドの胸を貫いたクリスタルがほのかに優しく光り出す。
    あたたかな青い光は徐々に強さを増し、ふとそれに気が付いたテッドが驚いて顔を上げた。あの霧の中で見た輝きのように、光の波紋が一定間隔に輪を描いて広がっていく。
    「な…な、に……?」
    突如として見ていられないほどの強い光が放たれ、テッドは思わず腕で顔を庇い、クリスタルから顔を逸らした。静寂があたりに広がる。こわごわと目を開くと、テッドの目の前に美しい青に光り輝く少女の幻影があらわれた。
    「っ⁉」
    驚いてウェドの身体を抱きながら背後へ逃げようとしたテッドに、青い光の少女は穏やかな笑みを浮かべて静寂を促す。少女はゆっくりと足音もなく二人に近付き、ウェドの傍へ跪いた。
    慈しみに溢れた視線。小さな手のひらが、優しくウェドの頬を撫でる。少女は両手をウェドの顔に添え、自身の額をウェドの額へ寄せ合わせた。
    途端、テッドの周りを風がふわりと通り抜けた。水の中にいるような不思議な感覚に包まれ、輪郭を照らし出す光がとくり、とくりと胸の鼓動のように輝き始める。少女がゆっくりと額を離し、そこへそっと吐息を吹きかけたのが見えた。
    テッドの感じていた浮遊感が徐々に消え、光の輝きも元の明るさを取り戻していく。少女は静かに立ち上がると、遠く暗闇の中へ足を踏み出した。
    「待って!」
    テッドは慌てて少女へ手を伸ばす。振り向いた少女は人差し指を立てて再びテッドに静寂を促すと、ウェドに似た屈託のない朗らかな笑みを浮かべた。
    『ありがとう。この祈りは、私たちが引き受けるわ』
    「!」
    『今度こそ本当に…さようなら、おにいちゃん』
    次の瞬間、少女の幻影はあっという間に輝く鳥の姿となって、崩れた天井の上に見える夜空へ消えていった。
    するとそれを追って大地から溢れるようにいくつも光の玉が出現し、それぞれが鳥になって群れをなして遥か空へと飛んでいく。羽ばたきからこぼれた光の粒がキラキラと輝いて、涙に濡れたテッドの姿を照らし出した。
    呆然と小さな空を見上げたテッドの腕の中で、ウェドの身体がわずかに動いた。
    「…!…ウェド…?」
    ウェドの胸元に刺さっていたクリスタルはいつのまにか姿を消し、そこにあるはずの傷も跡形もなくなっている。長いまつ毛が瞬きを繰り返し、青く輝く瞳がテッドを捉え、弱々しく唇から言葉が溢れた。
    「テッド…泣かないでくれ…君には、いつも、笑っていてほしいのに…」
    「〜っ‼ウェドぉっ‼」
    「…あれ…なんで…俺、生きて…?」
    「ばか!ウェドのばか‼よかった…よかったぁ、ウェド…っ!」
    暗い洞窟に、雲間から顔を出した月の光が差し込む。お互いを強く抱きしめあう二人を、その光は優しく照らしていた。

    *****

    身体が思うように動くようになるまで時間を要したウェドは、少しの間島へ留まることを余儀なくされた。
    島のいたるところに潜んでいた海賊崩れの男達は魅了されていた魂を取り戻したが、遅れてやってきた黒渦団によって一網打尽にされ、麻薬製造と密売の容疑でお縄に着くこととなった。ヤコブとムーは、黒渦団が引き上げるのと同時に一足先にエオルゼアへ帰っていった。もちろん、妖異を退けて男達を捕縛した報酬もしっかりと受け取って。
    「これでよし。もう二、三日安静にしていれば、体内のエーテルも安定していつも通りに動けるはずだよ」
    カナが医療鞄をぱたんと閉じて立ち上がる。
    自我を失った間にアルダシアと交戦していたウェドは、身体のいたるところに軽くはない傷を負っていた。エーテルが増幅されて乱れていた影響か、痛みに気が付かず、洞窟から外へ脱出するなり浜辺で倒れてテッドが大慌てで応急処置を施したほどだ。
    テッドも度重なる戦闘で受けた傷は浅くはなく、ウェドと同じくカナに安静を言い渡されていた。簡易テントの中にある粗末な寝台の上で、包帯だらけのウェドとテッドは顔を見合わせる。
    「散歩くらいなら出てもいいかい?」
    「またすぐ動きたがる!気持ちが元気でも酷い怪我なんだからまだ…うーん…ま、今までちゃんと大人しくしてたしね。いいよ」
    カナが苦笑いでウェドの跳ねた髪を撫でる。
    「ほんと、生きててくれてよかった」
    ウェドがカナの腕を引き寄せ、力強く抱きしめた。カナも背中へ手を回し、腕に力を込める。
    「すまない。心配かけた」
    「もう、やめてよね…君の死体を綺麗にするのが君に施す最後の術とか、僕絶対嫌だよ」
    カナはゆっくりとウェドから身体を離すと、思い立ったようにテッドに声をかけた。
    「あ、そうだ。昨日の晩のことなんだけど…テントの入り口にこんなものが置いてあったんだ」
    懐から取り出したものをテッドに手渡す。それはギルの入った小さな硬貨袋と手紙だった。

    『頭、強く殴っちゃってごめんなさい。助けてくれてありがとう。』

    「これ…!もしかしてサリアが?」
    「多分。少なくともきっと、サリアさんは無事だよ」
    「サリアが無事なら、当然あの男も一緒だろうさ」
    ウェドが肩をすくめる。テッドは安堵感に思わずほっと息を吐いた。
    「…君のそういうところが俺は大好きだよ」
    「えっ、な、なんだよいきなり…」
    「別に。言えるうちに言えることは言っておこうと思ってな」 
    ニヤリと口の端を上げたウェドに、テッドはぷくりと膨れて見せる。控えめなパンチがウェドの脇腹をたたき、テントの中に明るい笑い声が響いた。

    *****

    「…懐かしい光景だ。この島は、昔と何も変わってない」
    穏やかな陽の注ぐ浜辺を、ウェドとテッドはのんびりと歩いていた。聴こえるのは砂を踏む自分達の足音と、寄せては返す波の音だけ。テッドは隣を歩くウェドの指先を弄び、自身の指を絡めて手を繋いだ。
    「昔もこんなふうに静かだった?」
    「大人たちが沖合の漁から帰ってきた時は賑やかだったけどな。俺は素潜りで小さな魚を獲ったり…ほら、そこにいるみたいな蟹を妹と捕まえたりしてた」
    足元の波打ち際で、小さな蟹が波にさらわれていく。
    「あの時、ウェドを助けてくれた女の子…最後に笑ってたよ。ウェドは前に『妹は俺の中にいない』って言ってたけど、そんなことなかった。ずっとずっと、彼女はウェドと一緒に居てくれてたんだ」
    「俺の行き場のない祈りを、妹が…みんなが、引き受けていってくれたんだな。君の見た光の鳥が、妹や、父さんや母さんや…村人の魂であればいいと思うよ。理不尽に役割を奪われ、ずっとこの地に縛り付けられていた彼らが無事に精霊の元へ還れたならどんなに嬉しいか…」
    ゆっくり、ゆっくり歩を進めていた足が、海の祠の前で止まった。おもむろに膝をついたウェドの口許から、いつか耳にした歌が溢れだす。穏やかな低い歌声は風に乗って海へと消えていく。ウェドが立ち上がるのを待って、テッドが声をかけた。
    「…それ、魂を送る歌だったよね」
    「ああ…自分の信じる道は捨てられなかった。どうか、ここで果てたいくつもの魂が、無事に精霊の御許へ還ることができますように…そしていつかまた、我らの元へ還ってきますように」
    ウェドの静かな祈りを、テッドは胸に焼き付ける。この男は、これからもずっとこうして祈り続けるのだろう。優しく、穏やかに、その温かな胸の奥にいくつもの命を思いながら。
    「テッド、指輪をこっちへ貸してくれないか」
    テッドの指から抜き取られた指輪は、石が割れ落ち台座だけが残されている。ウェドはポーチから何か小さな道具を取り出すと、手元で器用に動かした。
    テッドがウェドの手のひらを覗き込む。寂しい銀のかけらだった指輪はその台座に深い青色をした石を輝かせ、あるべき姿を取り戻していた。
    「よかった、ぴったりだ」
    「え!これ…!」
    「カナが良い鷹目石を見つけてきてくれてね、君の指輪の大きさに合うように加工してみた」
    テッドの細い指に、するりと指輪が嵌められる。
    「今度こそ誓うよ。君と一緒に生きていく。いつか海へ還るその時まで、君の隣にいたい」
    「ウェド…大好き!」
    テッドは感極まってウェドに勢いよく抱きついた。ウェドがその背に手を回し、優しく抱き返す。
    「もう俺のこと置いていかないで。絶対、約束だよ」
    「ああ、約束する」
    「ね、俺もウェドに同じ石で贈り物したい」
    「それは嬉しいね。何をくれるんだい?」
    「ペンダント…前みたいに、またいつでも故郷を思い出せるように」
    「君は優しいな」
    「…っていうのと、お揃いのもの付けてたいから!」
    「ははっ!可愛いこと言ってくれるじゃないか。帰ったら彫金師ギルドに弟子入りかな」
    「ウェドに教えてもらうからへーき!」
    「俺は厳しいぞ」
    「嘘だね」
    笑いあい、視線が重なる。最後にキスをしたのは、もうどれほど前のことだったろう。次の瞬間には、お互いに手を差し伸べて口付けていた。
    解けるような笑顔が広がり、心地よく温かい感情が胸の奥を満たしていく。
    絡み合う指が、しっかりとお互いの存在を確かめる。
    ふたたび浜辺を歩き出した二人の背を、新しい海風がそっと押していった。


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