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    えと。

    帝幻/おばみつおばのえろ小噺置き場。
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    夏の帝幻
    昨日画像であげたものの一気読みバージョン

    この国の春夏秋冬は美しいと思う。しかし、ここ数年の夏だけはいただけない。本日も蝉の声が早朝から大合唱をし、まだ店も開いてない時間だというのに既に室内温度計は30度を示す。シブヤはあまりにも暑すぎるからと取材も兼ねて喧騒を離れて少々田舎の方に身を寄せて数日、どこもたいして変わらないなと連日の最高気温のニュースを見て思う。1週間ほど季節を感じやすい場所で活動するつもりだったが、どうにも暑すぎて散策に出るのもままならない。結局はクーラーを効かせた部屋であーでもない、こーでもないと頭を働かせるだけなのだからどこにいても一緒だ。
    「帰ろっかな……」
    自分以外が開けることはない玄関を見て思わずぽろりとこぼれた言葉は帝統と乱数の顔をより鮮明に思い出させた。今帰ったところで乱数は南の方へ出張中だし、帝統には3日前から連絡が取れていない。少し弱気になってしまったが、今日こそはせっかく来たこの町を見て回ろうとようやくベッドから降りて着替えの準備をする。この町では夢野幻太郎は目立ち過ぎるので黒のスラックスと薄緑のシャツを羽織る。鏡の前に立つのはまぁ、どこにでもいる普通の男である。洋服を着ると少し幼く見えるなと表情を引き締める。乱数に貰った日焼け止めをきちんと塗って日傘を持って宿を出る。
    宿から少し歩いて駅前にくればそこそこ人は歩いているし、店もある。好みの雰囲気をまとう喫茶店を見つけて入店する。今日は無性にクリームソーダが飲みたかった。
    「いらっしゃいませー」
    店の佇まいからは想像していなかった明るくハリのある若い男の声で出迎えられた。どこか聞き覚えがあるなと少し外に出ただけでぼーっとする頭で考えるとすぐにその正体が判明した。
    「ゲンタローじゃん」
    「……帝統。貴方なんでこんな所にいるんですか」
    水を持ってきたのは店員もとい、フリングポッセのチームメンバーの帝統だった。ここはシブヤではないのに幻でも見ているのだろうか。確かにシブヤからさほど離れてはない場所だが、こんな偶然があるのだろうか。
    「ちょっと前に負けた時にさぁ、ここのオーナーのおっちゃんが助けてくれてさ。今日が夏祭りで人手がいるってから数日前から店も手伝ってんだよ」
    ほら、と指さされたのは壁に貼ってある花火大会のお知らせという楽しげなチラシ。地域の小さな祭りだが、これはいい時期に来たとネタ探しが捗る期待に胸が踊る。
    「てか、幻太郎顔赤いぞ。しっかり水飲んどけよ。あ、ご注文はどーされますか」
    「働いてる帝統に出会うなんて特異なこともあるものですねぇ。そうですね、コーヒーフロートをお願いします」
    「かしこまりました。俺だって働く時くらいあるって。あ、おっちゃんが作るカツサンドも最高だから食べてけよ」
    「勝手に注文を増やすのはいけない店員ですね」
    「売り上げ貢献ありがとーございます」
    カツサンドの他にもコレとコレとなんて注文票に書き加えられている。店内の客が小生だけだからと言って自分も食べるつもりでいるなと店員として失格の態度をする帝統に苦笑してしまう。
    「ご主人、帝統のことはとことんコキ使っていただいてかまいませんので。よろしくお願いいたします」
    人の良さそうなおじ様なのに帝統と知り合いということは彼もギャンブルをするのかと人は見かけによらないと身をもって実感する。
    帝統が勝手に注文したカツサンド、ナポリタン、プリンアラモードを次々に帝統が持ってくる。
    「このプリンアラモードとかは乱数も好きそうだよな」
    最後に小生の注文したコーヒーフロートを持ってきてちゃつかりと同席する帝統の厚かましさにはもう怒る気もおきない。店長からの許可は得ていると言われたら小生ひとりでは食べきれない料理は帝統の胃袋に納めるしかない。いつもの黒のシャツではなく清潔感のある白襟シャツは似合っているのだろうが、普段の行いを知る者として背伸びしてる感が拭えないなとおかしくなってしまう。大量の料理と普段見慣れない色をした帝統をカメラに収めて乱数に送信する。
    ここ数日の帝統の冒険譚を聞きながら、同じ場所にいたことに驚いた。そしてあまりにも小生が体験したかった夏を経験していて笑ってしまう。
    「てか、幻太郎今日は洋服着てんのな」
    「まぁ、片田舎では目立ち過ぎるので」
    「ふーん。あ、せっかくだから今日の夏祭り遊びに来いよ。どっかで店番抜けれる様におっちゃんに頼んどく」
    「助けていただいたご恩があるのだから心身滅却して御奉公しなさいな」
    「えー、でもせっかくだし?花火くらい一緒に見よーぜ」
    ときたま帝統が発する少し甘えた響きを持つ言葉に小生が弱いことをよく知っている。
    「ご主人の許可が得られるなら、まぁ……少しくらいは」
    「おっちゃん、俺めちゃくちゃ仕事頑張るからよ。よろしくなぁ‼︎」
    にかりと笑う帝統にご主人は帝統の言葉に朗らかに笑い返してくれた。
    今年の夏は暑すぎる。きっと今日もこのまま気温は上がり続けるし、夕方になっても暑いままだろう。それでも帝統がいるとわかっただけで気持ちは軽やかだ。どこにいるかより誰といるかが大切なんてわかっていたけれど。
    「ふふっ、貴方といると本当退屈しませんね」

    祭りは18時から開始で21時に花火が上がるスケジュールらしい。帝統は喫茶店のマスターの店で焼きそばを売ると言っていた。喫茶店の料理はどれも優しい味がして美味しかった。頼んだ料理を食べ終わる頃にはちらほら客も入りだし帝統は忙しそうに店内を駆け回っていた。落ち着いた雰囲気の喫茶店の中で帝統だけやけに明るく鮮明に見えるのは惚れた欲目だろうな。あまり長居してもご迷惑かと、ある程度で席を立った。会計の際、帝統がこの店の手伝いを始めて客がぐんと増えたとご主人は嬉しそうに話してくれた。
    日中は街中を散策した。徒歩圏内に24時間スーパーやドラッグストア、和菓子屋を発見してシブヤのような華やかさはないが生活に苦労はしない住みやすそうな町という印象を受けた。ただ、シブヤの雑踏に慣れている自分には人がまばら過ぎた。すれ違う人全て知り合いなのではないかと思うほど道端で会話をしているご婦人を見かけることが多かった。祭り会場で色々食べるだろうと昼食はスーパーで冷やし中華を買って宿で食べた。
    あまり早く行っても暑いだけだろうと19時過ぎにのんびり宿を出て会場となっている駅前へ向かう。昼間は閑散としていた道には浴衣を着た小中学生くらいの子供が沢山いた。こんな片田舎にも子供が沢山いるのだなぁと少し嬉しくなる。生憎浴衣は持ってきていなかったので昼間と同じ黒のスラックスに薄緑色のシャツという格好は夏祭りには少し場違いな気もするが仕方ない。駅前は大変人で賑わっていてどこもかしこも笑い声が弾けている。まだ陽もあり明るい会場は人間観察にうってつけだ。きっと初デートなのだろう初々しい高校生くらいのカップル、中学生くらいの男女グループ、偶然出会ったのかはしゃいでいる女子グループ。全体的に若者が多い。地域の祭りなので必然的に知り合いに会う確率も高いのだろう、和気藹々とした雰囲気が強い。全くの部外者で1人で祭にきている若い男など怪しまれやしないだろうかと内心ひやひやしながら帝統がいる屋台を探す。屋台の数も想像よりずっと少なく簡単に目当ての屋台は見つかった。屋台の数に対して人の数は多いからそれなりの行列になっている。知り合いだからと横入りするのも気が引けるので列に並べば思ったより早く列は捌けていく。
    「いらっしゃいっ……幻太郎‼︎来てくれたんだな」
    嬉しそうな満面の笑みを浮かべる帝統はいつみても可愛いくてきゅんとしてしまう。じゅうじゅうと熱い鉄板の上から香ばしくていい匂いが食欲をそそる。昼も麺類を食べたとここに来てメニューの被りを思い出すもここで買わないという選択肢はない。
    「やきそばを……貴方も食べますよね?2つお願いします」
    「あんがとな。花火の前には上がるからもうちょい待っててくれ。あ、もし時間あるならフランクフルトと豚バラ串、焼きとうもろこしだろそれからえーっと」
    「はいはい、買えそうな分買っといてあげますよ。お代は借金に上乗せしときますけど」
    「げ、奢りじゃねーのかよ。野菜増し増しでサービスすっからそこをなんとか〜」
    「嘘ですよ。しっかり時間まで労働頑張ってくださいね」
    取材旅行に来てから人と喋る機会がとんと減ってしまったので軽口の応酬が嬉しい。この男に限って食べきれないということはないから気になるものは片っ端から買っていっていいだろう。大きめのビニールにみちみちに詰まった焼きそばパックを2つ入れてくれた。これだけで十分腹に溜まるだろうと思いつつも仕事を頑張る帝統に御褒美も兼ねて屋台グルメを買うため、また雑踏へと足を向ける。
    もう直ぐ終わるからと連絡を貰って焼きそばの屋台まで戻ってくればまだ真剣に働いている帝統がいた。労働する帝統なんてにわかには信じ難い光景だなと面白くなってちょっと遠くから動画を回して乱数に送信する。
    「幻太郎、もう終わっから、裏で待っててくれ」
    花火直前で最後の掻き入れどきなのではないかとご主人に尋ねるも、予想以上の大繁盛でもう材料が最後なのだと言われる。後は片付けだけだから花火を楽しんできてほしいと地元民ならではの穴場スポットを耳打ちしてもらった。
    「貴方の一声で買ったんですから、持ってください。重たかったんですけど」
    会場を回って帝統が好みそうなもの、自分が食べてみたいものなどをほいほいと買っていたらそれなりの重量になった袋を両手に持つはめになったのだ。あと冷凍みかんが食べたいと思っているので荷物を帝統に持たせて購入するつもりだ。
    「なぁ、幻太郎も一個持ってくれよぉ」
    「お金を出させた挙句荷物持ちはしないと?」
    「いや、そーじゃなくてさ……人も多いし手、繋ぎたいじゃん」
    唇を少し尖らせて知り合いもいねーしさ、祭りだしともごもごと続ける帝統になんて可愛いんだろうと頭を抱える。脳みそを9割くらいギャンブルに割いているくせに年下の恋人は割と一般的なお付き合いというものをしたがっているとは思っていたが、こういうところが彼がまだ二十歳だったなとついつい忘れてしまいがちな感覚を思い出させてくれる。
    「仕方ないですね。……冷凍みかんを買ってからならいいですよ」
    いくら自分達を知らない人達ばかりだからといって人前で恋人らしく振る舞うのは未だ慣れないが彼の希望があるなら年上としてなるべく叶えてやりたいと思うもの。
    時刻は20時50分。花火開始まで残り10分という所で教えて貰った穴場へと辿り着く。穴場と言えど地元の知る人は知る場所なのか祭り会場の喧騒は遠くなったが全く人がいないわけではない。少し開けた場所になっている田んぼ道。ガードレールにもたれて最後のみかんを口に入れる。
    「帝統、拗ねないでくださいよ」
    明らかに不機嫌な目をした帝統の両手は買った食べ物達の袋で埋まっている。冷凍みかんを買ったら手を繋ごうと言ってはいたが、いざ冷凍みかんを買ったらすぐさま食べ始めないと儚い氷はどんどん溶けていく。結果帝統に先程買った食べ物の袋を両手に持ってもらい、自分はみかんを食べながら歩くしかなかったのだ。
    「帰りは手を繋ぎましょう。どうせ小生が泊まっている宿にくるのでしょう?」
    「いいのか」
    ぱっとわかりやすく表情が明るくなる。感情表現がストレートでわかりやすいところが彼の魅力のひとつだと思う。
    「えぇ、だからほら、機嫌を直して。貴方が作ってくれた焼きそば食べましょう」
    「おう。おっちゃんに作り方のコツとかも教えてもらったからシブヤに帰ったらまた作ってやるよ」
    屋台飯を食べながら喋っていればあっという間に花火が上がりだす。一瞬2人とも黙るが花火中もたわいないお喋りは止まらない。片田舎の花火だとたいして期待もしていなかったが、思いの外豪勢で楽しませてもらえる。キラキラと金色に落ちる花火が特段好きだった。
    触れそうで触れない距離がもどかしい。買った食べ物達はどんどん帝統の口の中に消えていく。口端を舐めとる舌が艶かしい。花火はフィナーレが近いのか轟音を響かせる。
    「……久しぶりだから、俺も触りたいし触られたい」
    触れてしまった箇所はあっという間に熱を持ち、このままひとつに溶け合ってしまいたい。
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    えと。

    DONE夏の帝幻
    昨日画像であげたものの一気読みバージョン
    この国の春夏秋冬は美しいと思う。しかし、ここ数年の夏だけはいただけない。本日も蝉の声が早朝から大合唱をし、まだ店も開いてない時間だというのに既に室内温度計は30度を示す。シブヤはあまりにも暑すぎるからと取材も兼ねて喧騒を離れて少々田舎の方に身を寄せて数日、どこもたいして変わらないなと連日の最高気温のニュースを見て思う。1週間ほど季節を感じやすい場所で活動するつもりだったが、どうにも暑すぎて散策に出るのもままならない。結局はクーラーを効かせた部屋であーでもない、こーでもないと頭を働かせるだけなのだからどこにいても一緒だ。
    「帰ろっかな……」
    自分以外が開けることはない玄関を見て思わずぽろりとこぼれた言葉は帝統と乱数の顔をより鮮明に思い出させた。今帰ったところで乱数は南の方へ出張中だし、帝統には3日前から連絡が取れていない。少し弱気になってしまったが、今日こそはせっかく来たこの町を見て回ろうとようやくベッドから降りて着替えの準備をする。この町では夢野幻太郎は目立ち過ぎるので黒のスラックスと薄緑のシャツを羽織る。鏡の前に立つのはまぁ、どこにでもいる普通の男である。洋服を着ると少し幼く見えるなと表情を引き締める。乱数に貰った日焼け止めをきちんと塗って日傘を持って宿を出る。
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