ひともどき来る、来ない、来る。
繰り返す言葉と共に地面に花弁が落ちてゆく。
季節は秋分も近い九月半ば、夏の名残はもうどこかへ行ってしまっていた。
「芽吹ちゃん、そこは冷えるからもうお入んなさい」
芽吹ちゃん、と呼ばれた娘は声のした方も向かず、ふるふるとかぶりを振った。
彼女を呼んだのは彼女より少し歳のいった壮年の女性で、名を幹世という。幹世は傍らに控える少年に目配せをした。全て了解しているとばかりに頷いた少年が「芽吹ちゃん」と声をかけると、震える瞳が少年に縋り付いた。
「深ちゃんごめんね、もうすぐ、もうすぐ来るはずなの、本当よ」
「大丈夫だから、中で僕と待ちましょう」
「本当なの、だから私はここにいなくちゃ。家の中にいたら私は見えなくなっちゃう、私は目印なの」
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