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    satorinokifm

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    satorinokifm

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    捏造アンド妄想。
    このふたりバッドエンド確定だし、この時点のフミは継希さんのこと何もわからないままで、結局その後失うのだと思うと辛い。
    てか中の人が腐ってるせいでつきふみ感出ちゃった。ごめんなさい。謝りますから絶対許してください。

    #ツキフミ
    treeClethra

    ──走り去ろうとする相手を追いかけて、引き寄せてキス。
    ──キスで目元の涙をぬぐい、どちらともなく重なる唇。
     読んでいて恥ずかしくなるようなト書きを眺めながら、フミは思わず呟く。
    「ホントにあるんですね、キスシーン」
     クラス稽古を終え、ダンスルームで継希とペアダンスの練習をした後、フミと継希は連れ立って寮へと向かう。
     渡されたばかりの次の公演の台本。全編通して男女の情愛が描かれるこの演目は、これまでの公演とはひと味違うものだ。
    「まぁ恋愛物が多いからね、ユニヴェールは。ロードナイトは夏やってたよ。見てない?」
    「覚えてないです。……クォーツでもあったんすか?」
    「あったよ。僕がアルジャンヌの時も、ジャックエースになってからも」
     アッサリと継希が言うのを、フミは少々苦い気持ちで聞いた。
     些細なことでも継希との経験の差を感じるたび、ギリと心臓が音を立てるように疼く。
    「そうなんですね。映像見てみようかな」
     恋愛の色が濃いアプローチシーンでも、芝居として演じることに特に抵抗はない。日舞でも、男女の物語には多く触れてきた。
     継希とのシーンでも問題なく演じられているし、評価もされている。しかし、心の底から身を任せるとこまではいけていない、気がする。
    「見るよりやる方が早いよ」
    「……そりゃ、そうでしょうけど」
    「これ、どちらともなくって書いてあるけど、フミからみたいなもんだよね? 楽しみだな」
    「よく楽しみだと思えますね……」
     本当に変わった人だ、とフミは思う。
     ニコニコ穏やかに笑うその裏に、舞台のためならどんなことでも出来てしまうような狂気がある。──それを知った時の衝撃は一生忘れないだろう。それが「食えない」ところで、自分を預けきれない原因の一つなのかもしれない。認めたくはないけど、畏怖という言葉がしっくりくる。
    「楽しみだよ。フミとならホントにしても平気かも」
     そして、こういうところだ。重力を感じない言葉。ごく単純に、明確に言えば、──ムカつく。
    「……」
    「怒った?」
    「別に。気持ちわりーなって思っただけです」
    「ハハ、辛辣だね」



     夕食を終え、また稽古場へと向かったフミは、そこに明かりがついていることに気付く。
     少し遅い時間だから誰もいないかと思ったが、同時に、いるならあの人だろうとも思った。
     稽古場の入り口で、立ち止まる。
     継希が台本を手に、セリフを読んでいる。
     響くのは、穏やかで澄んだ声。
     クォーツの稽古場が、ユニヴェールの至宝、その人が紡ぐ煌びやかな夢の世界へと姿を変える。
    (──気に食わねぇな)
     一人で何もかも作り上げてしまえるような力が彼にはあって、自分にはいまだにそこまでの力は無い。残された時間で、そこまでいけるだろうか?
     フミは次にくる自分のセリフを確認する。ちょうど、一度目のキスシーンのすぐ前だ。
     継希がフミの気配を察知して、そのまま迎え入れるような空気を作ったが、フミはセリフを言うことはせず、不躾に稽古場へと足を踏み入れた。
    「……」
    「次、フミだよ」
    「動きつけてやりたいんすけど、ここ。……俺、初めて、だから」
     フミが初めて、と強調すると、継希が「そっか」とクスクス笑う。
    「じゃあ、腕掴んで引き寄せるとこからね。フミは背を向けて……」
     継希がフミの手首を掴む。フミは驚いて振り返る。そういう演技だ。
    「ここで、俺が手を振り払おうとする」
    『僕が怖い?』
    「ちょっと強引に引き寄せて……」
    『行かないで、話がしたいんだ』
     継希がフミの手首を引っ張り、バランスを崩すフミを、受け止める。一連の流れを見やすく、より分かりやすくするために、動きは少し大袈裟に。
    「客席がこっちの角度だから、僕の顔で隠れるようにして──」
     継希がフミの顎に手を添えて、その手にキスを落とした。急な出来事だから、フミは目を閉じずに、大きく開いたままにする。
    「……」
     フミはかつてない至近距離で、継希の姿を見た。閉じた瞼を縁取る睫毛が意外と長い、と思ったところで継希が身体を離す。
    「こんな感じかな。どこから見ても、ちゃんとしてるように見えると思うよ」
    「……そーすか」
    「クラス稽古でやったら、みんなドキッとするかな」
     継希は笑って、台本に目を落とし、何やら書き込みを始めた。
    「最後のシーンは、フミが僕の頭を抱いて……目元にキスしてから……」
     継希の頭の中には、客席や周りから見た二人の姿が具体的にイメージされているんだろう。自分、パートナー、他の演者、アンサンブル、そして観客。全てを包み込むように俯瞰で視ている。 
     フミも幼い頃から舞台に立ってきた人間だ。似たような目線は持っているし、イメージも出来る。それでも継希ほど広く大きい目線ではない。
     この人は、どうしてそこまで出来るのだろう。
     努力して研磨すればするほど、フミには自分と継希の距離がハッキリと見えるようになっていく。
     離れていくその背を追いかけるのを辞められないのは、我が儘で負けず嫌いな自分の性分だが、どこかで踏み止まる自分がいるのも感じる。
     自分が捨てきれないような心の奥底の部分を、この人はいとも簡単に捨てられる。曝け出すように、取り憑かれたように。それなのに見えない。立花継希という人の本質は、見えてこない。そのせいで、身を任せきれないところがある。
    「どうしたの? フミ。あ、もしかしてドキッとしちゃった?」
     押し黙ったフミに、継希が冗談めかして言う。急に現実に引き戻されて、フミは特に考えず返事をした。
    「いえ。演技のこと考えてました」
    「そっか。ちょっと固かったもんね」
    「え?」
     固かった、との言葉にフミは驚く。自然に出来ていたつもりだったからだ。
    「少しだけどね」
    「……気をつけます」
     フミは、継希の顔をじっと見てしまったからかな、と思い返す。何度かやれば、慣れるだろう。
    「……ねぇ、フミ」
     からからと軽やかないつもの声色とは違う声で、継希が真っ直ぐフミを見た。
    「何ですか?」
    「フミは、僕のこと、信頼してる?」
    「……はい?」
     突然の問いかけに、フミは眉根を寄せた。──信頼、とは?
    「さっきのもそうだけど。フミは僕に、任せない、よね」
     継希について考えていたことをそのまま言われて、フミは思わず言葉を詰まらせた。
    「……っ」
    「別にそれでいいし、だからこそ僕らのパートナー関係は面白いものになってるとも思うんだよね。皆が夢中になるのも、フミが僕の『お人形』じゃないからだ」
    「人形……」
     静かに微笑みながら話す継希の姿が、消え入りそうな儚い夢のようで、フミは思わず手を伸ばしかけた。
     ──が、その手は継希に届く前に、継希によって掬い上げられる。触れた手は異様に冷たい。
    「僕にとって、フミは一緒に舞台に立っててすごく楽しい存在ってこと。フミがどんなことをするかな、どんな風に踊るのかなって考えてると、楽しいんだ。それが見てる人にも伝わるから、クォーツの舞台は観客を楽しませることが出来るんだよ」
    「……そう、ですか。何よりじゃないですか」
    「うん」
     握ったままの手を、継希がじっと見つめている。
    「でもたまに、……寂しい」
    「は……?」
    「フミは僕のパートナーだから。舞台の板を降りても、もっと信頼されたいってつい思っちゃうんだよね」
     ──信頼とは?
     フミは同じ問いを頭の中で繰り返した。
     継希がいれば、舞台はいつだって面白いものになる。口には出さないけど、そう思っている。それは、舞台上だけのことじゃない。
     ──理解、してほしいのか? 
    (させないのは──、アンタ自身なのに?)
    「僕が怖い? フミ」
     ぎくりとフミの肩が揺れる。思わず引っ込めそうになる手を、継希が強く握った。
    「……継希さ」
    「『話がしたいんだ』」
    「え、……っ?!」
     引っ張られてバランスを崩しかけたフミを、継希が受け止めた。稽古していた、あのシーンと同じように。
    「ちょ、継希さん!」
     顔が近付いて唇が触れるか触れないか、ギリギリのところで、フミは漸く強く肩を押して距離を取った。
    「って、ほんとにしたら、芝居になんないよね」
    「……芝、居?」
     ごめんね、と自嘲気味に笑う継希を責める気にもなれず、フミは押し黙るしかなかった。
     芝居? ──何が?
    「……」
    「何か言ってよ。バカ野郎、とか」
     この人のことが、わからない。見えない。
     夜の稽古場で一人、狂気を滲ませて取り憑かれたように稽古をする姿を見たあの日から、ずっと、ずっと、見てるのに。
    「……継希さん、は」
    「うん」
    「何も話してくれないじゃないですか」
     あぁ、ダメだ。
     フミは溢れ出る言葉をせき止めたくて、身体に力を込めるが、どうしても止まらなかった。
     ずっと子供みたいに不平不満や理不尽を押しつけて来たけど、継希はいつだって笑って受け止めてくれた。
    「うん」
     今もそうだ。ただただ剥き出しの感情をぶつけようとしてる俺を、穏やかに笑って見てる。だから、止められなくなる。
    「寂しいって、こっちのセリフですよ! 信頼? してるに決まってる! 俺がどれだけアンタのこと見てるかわかってるクセに、なんでアンタがそれを言うんだよ!」
     フミは零れた涙を拭うこともせずに叫んだ。ずっと隣にいるはずなのに、この人はいつも一人だ。孤高のジャックエース。信頼されてないのは俺で、誰にも頼らない、頼れないのが、継希だ。
    「怖いですよ……アンタはいつも一人で……どっか行っちゃいそうで、怖いんですよ! でも俺は……っ!」
    「ごめんね、フミ。……泣かないで」
     ふわりと抱き締められて、息が止まる。継希が優しくフミの頭を撫で、目元に唇を寄せた。
    「……っ! 泣いて、な、何、これも稽古、ですか?」
     もらった台本のラストシーンにそっくりな状況だと思い出して、ぴたりと涙も止まる。しかし継希の表情が、そうじゃないと物語っている。
    (泣けば、いいのに──)
    「……やっぱり、何も、……言わないんですね」
    「ごめん、ごめんね……」


     結局、継希には継希の問題があって、俺にはまだそれをどうにかする力がないのだ。見えない、見せてくれないと思っていたけど、そもそも見る力がないのだ。フミはそう思うと、先ほどの継希の言葉を思い出した。──信頼されたい。
     期待にこたえられるのかも、継希のことも結局わからないままだ。それでも、考え続けなきゃいけないのだろう。答えに辿り着けるのがいつになるのかも、わからないけど。
    「いいです、別に。俺は俺で、勝手にアンタについてくから」
    「……フミ」
    「隣に並んで、追い抜けたら、最高だけど」
    「そうだね。そうなったら……、僕も最高だよ」
     その言葉に、フミの負けず嫌いな性分が頭をもたげる。
    「そういうところ、すげームカつきます」
     泣き笑いのような表情で、継希が言う。
    「ハハ、辛辣だね」
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