本性を現し始めた魏 無羨雲深不知処にて。
「らーんじゃんっ」
「どうした」
「あれ、やりたい」
「あれ?」
「昨日やってくれたやつ」
藍湛は何のことだか考えるも、特に心当たりは無い。
思い出さない様子を見かねて、魏嬰は藍湛を椅子に座らせた。
「昨日頭が痛いって言ったら撫でてくれただろ。あれ、またやってほしい」
そう言って、チョコンと頭を藍湛のヒザに乗せた。
「・・・わかった」
魏嬰が甘え上手なのは昔からだが、猫のようにここまで甘えてくるのは最近になってからだ。
人前では頼りになる男ではあるのだが、どうにも最近、二人きりの時だけ、様子が違う。たまにこの気持ちをどう抑えればいいのかわからないほど、魏嬰への気持ちが強くなる。
「こうしてると・・・師姉を・・・思い出す」
「いつもこうして・・・姉に?」
「いつもってわけじゃない・・・たまに、本当にたまにだけだ。あんまりお願いすると・・・嫌われちゃうだろ」
藍湛は理解した。もう一緒に暮らし始めて二年は経つ。お互いの境遇を話し合うには十分な期間だった。
魏嬰は心から甘えられる相手は今は亡き義父と義姉だけだった。
この様子を見ると、魏嬰は幼少期から人に甘えるのが大好きだったのが見て取れる。幼少期から甘える機会が少なかったのはお互い様だ。そして藍湛は特に甘える相手が兄だけだったとしても、さほどツライとは思わなかった。しかし無羨は違う。いつも甘えたかったが、血がつながらない相手に幾分か遠慮をしていたのだろうと藍湛は察した。
藍湛は魏嬰の頭を撫で、言った。
「好きな時に甘えるといい。生涯、私にだけ」
「藍湛・・・へへ」
魏嬰はスリ、と藍湛の手の甲に頬をすり寄せた。
「らんじゃーん」
「・・・泣いてるのか?」
「泣くもんか・・・こんなに幸せなのに」
「そうか・・・」
藍湛は無羨の目元をぬぐった。
---まさかこんなにも可愛いとは・・・--
数年一緒にいてもバクバクと心臓の鼓動が忙しない。藍湛は愛しい恋人を撫で、一生大切にしていこうと誓った。
fin.