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    はるもん🌸

    @bldaisukiya1

    BL小説だけを書く成人です。

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    江厭離がもっと早くに魏無羨の前に現れていたらif

    #忘羨
    WangXian
    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

    夷陵老祖、含光君と長生きする魏無羨が笛を吹こうとし、そして誰もが剣を引き抜いて攻撃をしかけたその時、女性の声が響いた。

    「阿羨!」

    魏無羨はパっと口笛を離し、驚く。江澄がすかさず立っているのもやっとな状態の姉、江厭離の肩を支えた。休息も取らず、長時間亡き夫の側に寄り添っていた彼女は足元がおぼつかず、目の下にはクマが出来ている。

    「師姉‥‥?!」

    攻撃的な顔の魏無羨はもうどこにもいない。ただただ、会いたかったその人を見ていた。

    「良かった‥‥あなたったら、すぐにどこかへ行ってしまうんだもの、元気にしてた?」

    涙が溢れ出すのが止まらず、拭う事も忘れ、魏無羨はその声に黙って耳を傾ける。
    周りの者達は突然夫人が現れ、どう動けばいいか固まっていた。今動いてはいけないと、誰もがそう感じたのだ。

    「師姉‥‥ご、ごめん‥‥‥!ごめん…‥‥殺すつもりなんか全然無かった!‥‥師姉のこと、悲しませるつもりなんて‥‥っ」

    敵前であろうと構わなかった。魏無羨は涙を流して謝る。

    「わかってるわ‥‥、わかってる‥‥何か、事情があったんでしょう‥‥?」

    江厭離は魏無羨の何も変わらない、素直な様子を見て涙する。

    「瘡百孔の呪いをかけただろうって適当なこと言われて…ッ金凌に渡す祝いの鈴も踏まれて…熱くなっていろんなものが見えなくなっちゃったんだ.......そしたら、いつのまにか!」

    「そう‥‥災難だったわね‥‥」

    自分の夫が殺されたというのに、江厭離は魏無羨に対して少しも敵意を見せない。それどころか、労りの言葉をかけた。こんなにも優しい人に、なんて惨い事をしてしまったのだろうと悔やむ。

    「う‥‥師姉、ごめん、ごめん‥‥‥ごめ‥‥っ‥‥うぅっ」

    魏無羨は溢れ出る涙を両腕の袖で拭き、謝り続けた。
    突如、魏無羨の肩に矢が刺さりかける。寸前のところで魏無羨は矢を手で止める。矢を放った者が言った。

    「お前のやったことは許されない事だ!死んで償え!」

    すると、他の者もうろたえながら矢を放つ準備を始めた。
    江澄は急いで江厭離をこの戦場から遠ざけなければと姉の肩を引く。

    「ここは危険だ!離れないと!」

    江厭離は叫んだ。

    「待って阿澄!阿羨!逃げて!あなたたち、止めて、阿羨がむやみに人を殺すはずなんか無いわ!何か事情があったのよ、矢を放つのを止めて!」

    魏無羨は何度拭いても涙がこぼれる。しかし涙で前がぼやけ、ふってくる矢を交わすのがやっとな状態だ。かろうじて目くらましの術で周りを黒い煙で包む。

    「師姉、ちゃんと、謝りに来るから!」

    魏無羨はそう言い残し、その場を乗り切る。しかし魏無羨は剣で飛ぶ事が出来ない。うまく隠れなければ、見つかり次第切り殺されてしまう。どうしたものかと走りながら考えていると、ザザザ、と青い光が魏無羨の前を横切る。

    「藍湛!」
    「魏嬰」
    「やっぱり、俺たちは戦う運命だったんだな。悪いが、手加減はしないぞ」

    魏無羨が藍忘機と戦おうとしたその時、一瞬目がくらんだ。針が頭に刺さった状態で数日間水も飲まずにいた。体が悲鳴を上げているのに全く気付かないまま、魏無羨は動き続けていたのだ。

    ――くそっなんだってこんな時に眩暈なんか‥‥‥!――

    相手は藍忘機だ。全力でやらなければ殺されてしまう。魏無羨は笛に口をつけようとしたが、陳情は剣で吹き飛ばされてしまった。

    宙に飛ばされた陳情を掴もうとしたその瞬間、ぐいと胸元を掴まれ、引っ張られる。恐ろしいほどの強い力だった。

    藍忘機の美しい双眸が見えた。その一瞬で、本来の魏無羨ならば呪符や口笛などでなんとか逃げおおせたはずだ。しかし月明かりに照らされた目の前の男が美しくて、戦意が喪失してしまったのだ。気づいた時はもう逃げられないと思った。

    ――師姉ごめん、やっぱり、もう謝りにいけないかも‥‥‥――

    魏無羨が諦めて目をぎゅっと瞑ったその時、口元に優しく何かが触れた。目を開けると近くに藍忘機の顔があった。口づけをされていたのだ。

    「な………」

    驚いて後ろに下がろうとしたが、腰に手を当てられ、そのまま抱きすくめられる。

    「らん、じゃん………?」
    「君を、好いている」
    「!!」

    もう一度口づけをされる。顔をそむけば逃れられるはずなのに、魏無羨は逃げなかった。それどころか、体に触れられる人のぬくもりが久しくて、じわりと涙が出るほど嬉しく感じて藍忘機の裾をきゅっと握り、口づけを感受してしまった。

    「ン……藍、湛……」

    突然、パン!と藍忘機に額を叩かれた。

    「痛!なに、…す…るん…」

    魏無羨は気が遠くなる中、藍忘機の優し気な声が聞こえた。「君を守る」と。

    * * *

    藍忘機は行く場所を決めていた。その前に、一つ気がかりがあった。殺された温氏の中に、魏無羨が「阿苑」と呼んでいた子どもがいなかったのだ。乱葬崗に一人残されているかもしれないと、藍忘機はまず乱葬崗に向かった。

    気絶している魏無羨を抱え、探してみるとやはりいた。幼い子どもが泣いている。藍忘機はその子どもを連れ、剣に乗った。

    * * *

    「お金持ちのお兄ちゃん、どこに行くの?」
    「新しい家に行く」
    「おいしいものはある?」

    藍忘機は阿苑に微笑む。

    「………作ってみよう」

    阿苑は安心し、気絶している魏無羨の手を握って眠った。

    * * *


    「ちょっ‥‥とマテ!こういう事は順序ってもんがあるだろ!それに、」

    魏無羨が順序なんてものを気にするとは思っていなかった。藍忘機は首をかしげる。

    「順序とは」

    言ったものの、魏無羨とて恋愛をした経験は無い。えーっと、と頭を巡らせる。

    魏無羨が目を覚ますと、そこはこじんまりとした木で出来た家だった。魏無羨が尋ねると、ここは奥深くの山で、さらには藍忘機が秘密裏に建てた家だという。魏無羨を隠すために時間をかけて一人で作ったと言われた時にやっと、冗談ではない事を確信した。

    「阿苑もいるし…、こんな、こんなこと……」

    魏無羨が目が覚めて早々、また藍忘機は口づけをしてきたのだ。

    「この部屋には私と君しかいない」

    寝台は二つ用意されていた。もう片方の部屋で阿苑は眠っている。
    ぐぐぐ、と藍忘機は魏無羨の両肩を押さえて押し倒す。

    「もう、待てったら!まずい木の根っことか草ばっか食べてるクセに、なんて馬鹿力してるんだよ!」
    「一度君は受け入れた」

    確かに魏無羨は一度受け入れた。しかしそれは心がズタボロに弱っていたからであって、もともと藍忘機を愛していたというわけではないのだ。

    何かにすがりたい時に抱きしめられれば、頼るに決まっている。しかし藍忘機はその時の魏無羨はお互いを恋仲として認めたも同然だと思い込んでしまったようなのだ。魏無羨は正直に言うべきだと決断した。

    「あのな、俺は女の子派なんだ。男に対してそういう目で見た事が一度も無い」
    「しかし君は私を一度受け入れている」

    また同じことを繰り返された。しかも自信満々に。藍忘機の中ではもうすっかり自分たちは恋仲という間柄になっているらしい。ゆるぎないその視線に、魏無羨は不覚にもドキドキしてしまった。あの時簡単に口づけを許すんじゃなかったと魏無羨は頭をがっくりと下げる。
    それからの藍忘機の尽くしっぷりは見事だった。まず料理がすごかった。一部自分が食べる皿以外のすべての皿は赤く染め上がるほど辛くされていたのだ。それだけではない。洗濯、掃除、風呂の用意も抜かりなくテキパキと全て一人で行っていた。

    「藍湛、お前、花嫁修業にでも行ってきたのか?」
    「本で学んだ」

    ――本を読むだけでここまで完璧に再現ができてしまうなんて――

    天は二物を与えずとはよく言ったものだと魏無羨は舌を巻いた。
    日中だけではない。

    夜の藍忘機もそれはもう完璧だった。魏無羨が体を触られるのはイヤだと拒否をしてから、一切触れる様子を見せない。たまに抱きしめてもいいかと聞かれるぐらいだ。少しくらいなら構わないし、今は寒い時期だ。

    体を寄せて眠るのは魏無羨も大歓迎だった。そうやって過ごし始めて10日が過ぎた頃、魏無羨の心に変化がやってきた。

    藍忘機の顔がふっと柔らかくなる度、息が止まったり心臓がぐっと大きくなる感覚がし始めてたのだ。

    ――こんなの、好きにならない方がどうかしてる――

    魏無羨は心が固まり、藍忘機に伝える事にした。

    「藍湛、三拝しよっか」

    魏無羨を抱きしめていた藍忘機の指がぴく、と小さく動いた。

    「魏嬰、それは」
    「そうだよ、そういう意味」
    「魏嬰!」

    がば、と藍忘機が魏無羨に馬乗りになる。

    「お、おい、もしかして今ヤるつもりか?」
    「うん」
    「焦る気持ちはわかるけど、阿苑がいる部屋から俺たちが見えるようになっちゃってる。これをなんとかしないと、落ち着いて大人の遊びなんか永遠にできないよ?」

    藍忘機はしばし考え、魏無羨を見つめた。

    「ひ、ひ、ひぇぇぇぇぇん!」


    阿苑の泣き声に二人はビク、と肩を揺らす。

    「ふう。藍湛、こういう事は阿苑の夜泣きが治ってからしようか。しかし、夜泣きが多いな。やっぱり、寂しいんだろうな.......」

    魏無羨が阿苑を胸に抱き、よしよしとあやす。夫婦のような会話に、藍忘機の目元が優しく下がる。

    「もう少しすれば夜泣きも治る。部屋は‥‥なんとかしよう」
    「頼むよ、おとーさん」

    魏無羨は片目をパチリと瞬かせる。魏無羨の昔から持っていたいたずらっぽい気質が戻ってきた。藍忘機はすんすんと泣いている子どもと魏無羨をまとめて胸に寄せる。

    「君の言う通りにしよう」

    魏無羨はハハ!と笑った。しかしそんな幸せは長くは続かなかった。翌日、阿苑の夜泣きをマシにするため、子供向けの薬を買おうという話になった。住まいにしている山からなるべく遠い場所で薬を買い求めた。

    住居を特定されない為の策だったが、藍忘機の風貌はとても目立つ。笠などで顔を隠していたが、たまたま藍家の弟子と会ってしまい、藍忘機は阿苑を囮にされ、捕まってしまった。
    魏無羨は丸一日たっても戻って来ない藍忘機と阿苑を心配していた。夕方から夜にかけて、ずっと空を見上げて待っていた。

    やっと白い服を着た男性が御剣しているのが見えて、魏無羨はホっと安心して両手をふって「おかえり!はやくこいよ!抱きしめてやる!」と笑顔で言った。しかし魏無羨は手を止め、また再び顔を暗くする。

    「沢蕪君……?」

    魏無羨は防御態勢に入ったが、ぴたりと止まる。藍曦臣は腕を左右に降ろしたままだったからだ。

    「あの子は無事だよ」

    魏無羨はスウ、と息を吸った。沢蕪君に敵意は感じられなかったのだ。魏無羨は身を乗り出して聞いた。

    「阿苑と藍湛は今、どこに?」
    「雲深不知処だ。忘機は君が無事でいるかどうか案じている」
    「なぜ、ここを知っているんですか?」
    「この家は私達の母が住んでいた家だ。この場所は私と忘機しか知らない」
    だから沢蕪君も知っていたのか、と魏無羨は納得する。
    「沢蕪君は、俺たちの味方ですか‥‥‥?もし、味方なら藍湛と阿苑を返してください」
    返してほしい、という言葉に藍曦臣はぴくりとした。
    「子どもは藍家の弟子として引き取ることになったよ。忘機のことは…‥もう忘れなさい」
    「そんな…‥俺たち」
    「叔父は忘機が心変わりするまで、外へ出さないつもりでいる。すまないが、私は君の味方でもなければ敵でもない。弟と叔父の意見を最も重くおいている、ただの兄なんだ」
    「沢蕪君、俺たち‥‥‥三拝まで済ませた仲で…」

    藍曦臣は魏無羨の言葉を遮った。

    「この場所を明かすつもりはない。君の無事を忘機は一番に考えている。君は忘機の大切な人だからね。生きなさい。私に言えることはそれだけだ」

    藍曦臣はそれだけ言って、去っていった。
    魏無羨はきゅ、と口を引き結ぶ。小さな家を見上げ、鼻をすすった。この場所は、藍忘機と、小さな子どもと共にひっそりと過ごすはずだったのだ。
    ふら、と魏無羨は家の中へ入り、寝台へ座る。
    部屋の中で、藍忘機が用意してくれた家の空間をぼう、と見渡す。決して広くはないが、三人で住まうには十分だった。隣には優しい夫がいて、膝には愛くるしい子どもがいた。とても、幸せな時間だった。
    魏無羨の手の甲にぽたぽたと涙が落ちる。また、大事なものが手から離れてしまった。

    「藍湛、阿苑‥‥‥‥‥‥っ」

    守りたいと思っただけだった。一緒に幸せになりたいと願っただけだったのだ。なぜ、いつもうまくいかないのだろうと、そればかり考える。
    魏無羨は決めた。いつか藍忘機が戻ってくるまで、この家で待っていようと。

    それから一年が過ぎた。魏無羨が鶏の卵を拾おうと、鳥小屋へ向かっていた時だ。足音が聞こえ、魏無羨はサッと隠れる。魏無羨はギョっとした。目から血を流す男を抱えた青年が血相を変えて、山を登ってきたのだ。青年は涙を流しながら、目に傷を追っている男性に向かって「がんばってくれ」と言い続けている。
    魏無羨は助けたいと思った。顔を隠して薬の調達をしている。何か役に立てるかもしれないと思ったのだ。念のため、笠で顔を隠して二人に近づく。

    「大丈夫か?」

    青年はビクりと顔を強張らせ、剣で魏無羨がかぶっていた笠を切った。魏無羨は避けたが、笠は魏無羨の動きについて行けず地面に落ちてしまった。

    「すみません、人違い、でした………薛洋かと……」

    曉星塵が謝り、笠を魏無羨に返す。

    「急いでいるんです。退いて頂けませんか」

    魏無羨は黙って道を譲り、山を登り続ける青年を見届ける。

    「なぁ、あんた、仙師だろう?山を登りたいならなぜ御剣しない?」

    剣、そして身のこなしから仙師であることはすぐにわかった。魏無羨は不思議に思って聞いた。

    「あまり目立ちたくないのです…では」

    会釈をして去っていく青年を、なんとなくつけてみた。ただの興味本位と、少しばかりのおせっかいからそのような行動をした。

    魏無羨は目の痛み止めと、水を乾坤袋に詰めてコソコソと二人の後を追う。
    曉星塵が印を組み、何かを唱える。すると、ぐにゃりと視界が違う景色へと変わる。
    魏無羨は目をぱちくりとさせた。

    一年以上も一人でこの山に住んでいたが、まったく気づかなかった。

    * * *

    藍忘機は魏無羨を探した。母が住んでいたあの家に、魏無羨はもう居なかった。部屋の中には藍忘機と阿苑に似た大人と子どもの絵が何枚もあった。
    藍忘機はぐ、と悔し気に眉を寄せる。

    魏無羨の元へ戻るのに一年以上もかかってしまった。もしも魏無羨の元へ戻るつもりなら、阿苑を蘭陵金氏に引き渡すと言われたのだ。また、どこへ行こうとも藍家の兄弟子の誰かが藍忘機の後を追跡し、うかつにこの場所へ来る事が出来なかった。

    「ッツ」

    背中の戒鞭で受けた傷がまだ藍忘機を苦しめる。それでも藍忘機は魏無羨を探すのを止めなった。

    「魏嬰…………!」





    * * *





    「宋嵐を!彼を助けてやってください!」

    抱山散人に向かって曉星塵は頭を下げる。師と呼ばれた女性は「ハァァァ」と大きなため息をついて言った。

    「ついてきなさい。あと、そこのネズミも」

    魏無羨に気づいていたようで、女性は魏無羨の事も呼んだ。魏無羨は会釈してついていった。
    曉星塵は驚いて声を上げる。

    「貴方はさっきの!す、すみません、彼がいるとは知らず、結界を………」
    「かまわない。その男は私の…まぁ、のちほど説明しよう」

    魏無羨はなんとなく、手負いの男を背負った青年と、師匠らしき女性の前では力を抜く事ができた。全く殺気を感じなかったからだ。ある部屋で魏無羨は一人で待たされ、一時辰後に抱山散人が戻ってきた。

    「お前、一年前からこの場所に住みついているようだが、何か目的があるのか?」

    抱山散人の問いに、魏無羨はふるりと首を振る。

    「いーや。身を隠してひっそり過ごしてるだけだよ」
    「…なぜ、金丹を持っていない?あいつの息子だろう?顔がソックリだ」

    魏無羨は抱山散人から、母親の事を聞いた。
    驚きだった。まさか自分が身を潜めていた場所が、昔母親が修練していた山で、さらに抱山散人の住まう山だったのだ。

    魏無羨が正直に弟弟子に金丹を譲った事を話すと、抱山散人は腹を抱えて笑った。

    「くはは!おもしろい。譲ったとはな!来い、面白いものを見せてやる」

    魏無羨は目を見張る。喉から手がでるほど欲しい金丹がいくつもその場にはあったのだ。

    「金丹の開発」

    びくりと魏無羨は抱山散人を見る。

    「実験台になるか?」と聞かれ、魏無羨は迷うことなく首を縦に振った。

    「成功した場合、報酬をいただく」
    「俺、見ての通りお金もってないんだけど」
    「お前から強い力を感じる。その武器を渡せ」
    「ああ、陰虎符?いいよ。危ないからもう壊そうと思ってたし」


    =======


    それから12年の時が過ぎた。


    「なぜ!魏無羨は死んだんじゃなかったのか!」

    莫玄羽は献舎の術をやってみた。しかしうまくいかなかった。
    聶懐桑が「魏無羨は死んでいる、彼なら君の無念を晴らしてくれるかもしれない」と言いに来た。もう我慢ならなかった。家畜同然のこの扱いに。

    陣は問題ないはずだ。盗み見た時に全て暗記できた。その通りにしたはずだったのに、魏無羨の魂をよみがえらせることはできなかった。


    「うっ、うう、うぅう………っ」

    ガン!とドアが蹴破られる。

    「もう、魏公子!穏便にしましょうって言ったじゃないですかっ」
    「だって、泣き声が聞こえたからさ」

    莫玄羽はポカンと顔を上げる。

    「あっ、彼です、彼が莫玄羽です。うわ、臭い、カビのにおいですか?ひどいな……」

    聶懐桑がパタパタと扇子をあおぐ。


    「ほら、来い逃げるぞ!」

    魏無羨が出したその手を、莫玄羽は迷わず掴んだ。


    * * *

    十年以上かけて、魏無羨は新しく体に宿った金丹を自分のものにした。魏無羨は抱山散人の占い通り、夜中にある場所に向かった。そこには怪しげな左腕を抱えた聶懐桑がいた。

    泣きわめきながら許しを乞う聶懐桑をなだめながら、話を聞くと、全ての根源がどこにあったのかを知ることになった。

    金光瑤。あの男が諸悪の根源だったのだ。

    聶懐桑は魏無羨が死んだと信じていた。その流れで莫玄羽の存在を知った。あまりに哀れだと感じた魏無羨はまずは彼を豚小屋から助け出す事にしたのだ。

    しかし聶懐桑は失敗を犯してしまった。莫玄羽を適当なロバに乗せて逃している間に、聶明玦の左腕を誤って放ってしまったのだ。

    「おい聶懐桑!何してるんだ!」
    「すみません!すみません!」

    藍家の弟子達が使う呪符がどんなものなのか、聶懐桑は事前に調べていた。しかし聶懐桑は知らなかったのだ。魏無羨が夷陵老祖として発明していた呪符がこんなにも強いとは。左腕はその強い力に引き寄せられ、封から出ていってしまったのだ。

    「あんな腕放ったら間違いなく死人が出るぞ!」
    「ひ、ひぃ、どうしたら!!魏公子、助けてください……ッッ」

    魏無羨が莫家に到着してすぐ、パンと信号弾が放たれたのが見えた。どうやらもうすでに死人が出たらしく、あたりは血の匂いがした。

    「あなたは…………?!」

    藍思追が突然現れた魏無羨に驚く。
    左腕を笛で抑えこもうとしたが、すでに莫夫人の左腕になったあの腕が近くにいた人間に攻撃を始めた。魏無羨は接近戦で左腕と対峙せざるを得なくなった。連続で呪符を左腕に貼り付け、霊力で抑え込む。そして最後に笛の音で左腕を落ち着かせる。

    琴の音が聞こえた。

    その琴の音は魏無羨の心に甘く響く。見上げた視線の先には、ずっと会いたかった人がいた。
    「含光君だ!」と藍家の校服を着た弟子達が彼に駆け寄る中、魏無羨は立ち尽くす。

    駆け寄って、抱き着きたかった。けれどもそれは許されない。魏無羨との関係を他の者に知られてはならないのだ。

    魏無羨は物陰へ隠れようとした。

    「含光君、どちらへ………え?!」

    藍家の弟子たちが呆然とした。なぜなら彼らの憧れの含光君は弟子達に構いもせず、まっさきに突如現れた男を抱きしめ、口づけたからだ。

    ぱ、と唇を解放される。

    「ら、藍湛、いいのか…藍家の弟子があんなにいるのに」
    「かまわない。会いたかった、とても」

    強く抱きしめられる。魏無羨は心臓ごと抱かれてしまっているような気分になった。藍忘機の広い背中に腕を回す。

    「俺もだよ、藍湛」


    その後、二人は聶懐桑から真相を詳しく聞き、修真界の常識をひっくり返す騒動を起こした。

    そのうち、修真界には新しい噂が流れるようになった。

    逢乱必出の含光君にはどうやら道侶ができたらしい。
    大変強いそうだ。
    ああ知ってるよ、あの仲の良い二人組だろう。あの二人がいる限り、この世は安泰だ――――。













    fin.

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    MOURNING弟子達をつれて読狩りの指導に出ていた魏無羨。やっと姑蘇へ戻ってきた彼を藍忘機は見つめていた。
    すぐにでも話したかったが、魏無羨は何やら弟子達に何かを指導しているようだった。
    魏無羨を見ていると、喜怒哀楽がふつふつ湧き出てくる。これまで自分が嘘のように溶けていくのを感じた。
    しばらく眺めていると、藍忘機にの視線に気づいたのか急いで彼は来てくれた。
    喜怒哀楽はない方が生きやすい楽しい事があればその分落ち込んだ時の落差が激しい。
    常に心を静かに保つには、無駄な事は考えず、むやみに物事を口にしない事が原則。

    これが、含光君が生きてきた中で学んだ教訓である。

    回廊で藍忘機は足を止めた。
    遠目から、一点を見つめる。夜狩から帰ったばかりなのか、多少汚れた衣服の弟子達と魏無羨がいた。先頭にいた魏無羨は後ろを振り向き、子ども達に先に着替えて身を綺麗にしてから指定した部屋に来るようにと指示をする。

    皆が去ったのを確認した彼はくるりと身を翻し、藍忘機の所へ向かって走り、飛んだ。スタッ、と華麗にちょうど藍忘機の目の前に着地した彼は、ツイと人差し指で含光君のあごをなぞる。

    「そんなに熱い視線を投げられると、いたずらしたくなるな」
    1193