ありがとう彼は血まみれになっていた。どれだけ手を伸ばしても届かない。
名前を呼んでも、聞こえないのか反応が無い。
虚ろだった目に一瞬の光が宿る彼は優し気な顔で藍忘機に告げる。
「藍湛、ありがとう」
―――――――――――
藍忘機はその場で目を覚ました。ドクドクと心臓が波打っている。すぐに腹の上で健やかに眠っている彼を即座に抱きしめた。
「んぐぇっ」
カエルが潰れたような鳴き声を出しながら、魏無羨は目覚める。すぐに藍忘機は腕の力を緩めた。
「ん~?」
ゴシゴシと目をこすり、藍忘機を見上げる。
「寝相が悪いぞ、藍湛、抱きしめるならもっと優しく…藍湛?」
藍忘機の口元が微かに震えている。そして魏無羨を抱きしめるその手も。
「怖い夢、見たんだな」
魏無羨はよしよしと藍忘機の頭を撫でた。
「君が、私に礼を言う夢だった」
「なんだ。ぜんぜん怖い夢なんかじゃないじゃないか」
「私にはとても恐ろしい夢だ」
再度魏無羨を強く抱きしめる。
「わかったわかった。お前に礼は言わない。言わないよ。だから安心
しろ?な、」
魏無羨はぽとりと藍忘機の腹から自ら落ちて、彼の隣にコロンと横になる。そして藍忘機の頭を自分の胸に引き寄せた。
「今日はこれで眠ろう。きっと良い夢を見る事ができるさ」
「うん」
魏無羨の言う通り、安らかな眠りにつく事ができた。
***翌日***
「藍湛、これなーんだ」
「それは…」
「毎晩これを焚いて寝るぞ」
「…使いたいのか?」
「変な夢ってのは続くもんだ。これでいい夢見させてやるよ」
魏無羨の宣言通り、三日三晩あの摩訶不思議な香炉によって魏無羨のとんでもない恥知らずを見せつけられる事になったのだった――――。