懲罰担当突然死んで、突然生き返った。
聶明玦の事件が終わり、藍忘機との恋が始まり、やっと自分と向き合うゆっくりとした時間が出来た。
満月の夜空を眺めていたら、師姉の死や殺めてしまった数千人の修士たちが頭をよぎる。突如涙が出て、自分の感情が思うように操れなくなる。
もう夷陵老祖は死んだのだ。今更考えたとしても何も変わらない。
自分の機嫌の浮き沈みを操るのは得意中の得意だったはずだ。なのにうまく感情が操れず、理由もわからないまま涙がこぼれていく。
藍忘機が隣にいるのに何故なんだと手の甲で涙を拭いた。
窓辺で空を見上げて目を何度もこする彼に気づき、
藍忘機は腕を広げて後ろから包み込む。魏無羨は彼の手を触り、震えた声で後悔を伝える。
「藍湛、どうして…俺、もっと大人しくできなかったんだろう?お前の言う通り、俺はお前に連れ帰ってもらって、雲深不知処で生を終えるべきだったんだ。そうしてれば‥‥‥金凌は父親と母親と、仲良く今も一緒に過ごしてたはずなんだ」
「過去を振り返っても仕方無いと君は言っていた。なぜ、そのような事を」
「深く考える時間が無かっただけだよ。こうして、時間ができて、初めて…過去を振り返った」
「罰を与える」
「‥‥は?」
この雲深不知処で酒を飲もうと肉を食おうと、はたまた走り回ったとしても藍忘機は一切罰を与えようとした事は無かった。
彼と道侶として過ごして数か月たつが、このような事を言われてのは初めてである。
「なんでだよ!どういう権限で俺に罰を与える気だ?それに、家訓に背くような事は‥‥今日のところはしてないぞ!」
「私は懲罰担当だ。君専用の」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事で、魏無羨はしばらく夫を見つめたあと、笑い出した。
「うん、うん‥‥お前が冗談を言えるようになった事は認めるよ。で?お前が懲罰担当なのはわかったけど、俺は一体どんな罪を犯した?今日一日だけで、藍兄ちゃんには数え切れないほどの悪戯をしてるから、どれが罰を受けるほどのものだったかわからないよ。ぜひ教えてくれないか?」
「考えても無駄な事を考えた罪」
「ほぉ?聞いたことないな。雲深不知処の四千条の家訓にそんな規則が増えてたのか?」
「いま私が考えた」
藍忘機の言葉に魏無羨はゲラゲラと笑う。
「そうか、なるほど‥‥そうだな。俺は罪を犯した。それで、俺は今からどんな罰を受ける?」
「このような罰だ」
藍忘機は魏無羨の頬を撫で、唇を寄せた。軽い口づけをした後、すぐに離れる。
「もっと」
「これだけ」
「ハハ、確かにこれは拷問だ。すごい罰を考えたな。けど、これはお前にとってもつらいんじゃ?」
「君が受けた罪は私も背負う。だからこれでいい」
魏無羨は胸の奥がすっぱくなるような感覚がした。嬉しくて、愛しくて、幸せな気持ちになれた。しかし、物足りない。
藍忘機の首に腕を巻き付け、ぐいと自分の体に引き寄せた。そのまま自分は床に転がる。
「ねぇ‥‥罰は今度受けるよ。だから今夜は……」
魏無羨が全て言い終わる前に、魏無羨は満足した表情を見せる。藍忘機の鋼のような自制心は魏無羨の前では豆腐のようにもろかったのだった。
fin.