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    mokaeren_p

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    mokaeren_p

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    絶対に何かが違うBF成り代わり(かきかけ)タイトルは未定。。。良かったら感想くらさい

    #BANANAFISH
    #A英

    エイジに成り代わってアッシュを助ける大作戦 どうしてこうなった。
     僕は瞬間、生まれたままの姿で頭を抱えた。生まれたままの姿、はちなみに素っ裸の比喩表現ではない。本当にこの世に生まれ落ちた直後、つまり赤ちゃんである。


    エイジに成り代わってアッシュを助ける大作戦


    『命名 奥村英二』

     厳かな字で書かれたその紙切れが、まだぼんやりとしか世界を映さない目の前に呈された。母親が幸せな笑顔で、そして父親が嬉しそうな笑顔で「お前の名前だよ、英二」と呼びかける。
     僕はその名前を知っている。

     奥村英二という人物は、とある漫画で読んだ。日本人の男の子で、ひょんなことで出会ったアメリカ人の少年とともにマフィアと戦う話。少女漫画ではあったものの、男女問わず楽しめるような作品だったので、昔読んでたんだっけ。
     そんなことを、機能したばかりの脳みそで、思い出す。
     すっかりハマった後、全巻買って続編も買って、それからトラックに轢かれて死んだ。我ながら哀れな人生だった。
     ・・・と思っていたのも束の間、まさか自分が奥村英二として生まれ変わることになるとは思わなかった。
     だが、この世界はもう西暦2000年を目前に控えている。確か奥村英二は1966年生まれだ。原作軸からだいぶ時が過ぎ、文明も発展している。父親の手に持っている小型の電子機器は携帯電話だろうか。僕の前世ではぱかぱかはしていなかったが、時が進んで折りたたみ式になっている。
     とか、絶対生まれたばかりの赤ん坊が考えることではない。無論目の前の両親も、アガペー的に無償の愛情を注ぐ目の前の子供が、そんなことを考えているなど想像つかないだろう。
     1994年4月号、確かにその時その時間、僕は存在していた。この世界線かどうかは別として、この馴染みある日本で、ある物語の結末を見届けたのである。

     __しかし。

     僕はどうしても、その結末を思い出せない。


    ___


     なぜ。
     どうして。

     その疑問が次から次へと頭の中を逡巡する。まるで混み合っている病院の待合室のように、疑問が絶え間ない。ちなみにその時の僕は窓口の事務だ。

     なんで。
     なんで。

    「ネー!!!ネーーーー!!!」
     腹が減った!なぜ、食べたい時に食べれない!?
    「あぁ、英二。どうして泣いているの・・・」
     母親がオロオロしながら英二のベッドの周りを歩き回る。なんでわかってくれないんだ。僕は腹が減ったと言っている。いや、だが泣き声しかあげられないのならば。
     あ・・・待ってなにこの感触。え、と・・・・これは多分、大きい方。あぁ、不可抗力。
    「へぇぇぇぇ〜〜〜!!!」
     ごめん母さん。でもまさか、自分もこれほどまでの辱めを受けることになるとは思わなんだ。お互い様に妥協しましょう。と、赤ちゃんながらにそう思う。


     ともかく、自分の置かれている状況に精一杯で、他のことなんて考えられなかった0〜1歳期。そんな怒涛の時代の荒波を乗り越え、現代版奥村英二、いよいよ2歳を迎える。
     2歳の英二に立ちはだかったのは、『いやいや期』である。なにをやっても、なにをされても脳内の思考は『いや』に転換される。しかし中身にはちゃんとした”前世の自分”が宿っている。それなのに、このジレンマはきっと、他のベイビーより辛いものであるに違いない。どうして、こんなに何もかもが嫌になってしまうのだろう。優しい両親の手を煩わせ、なにをしたいんだろう。だいぶ精神を病みそうになる。
     そうして2歳になっても、あの男の名すら思い出せない。


    「おくむらえいじ、5さい!」
     この体験は貴重である。幼稚園という義務教育目前の学びの場。小学生になったら、幼稚園に戻りたくなることを英二は知っている。朝はゆっくり起床して、遊具で遊んで、折り紙をして、とにかく遊ぶ。まさかこの体験を再び過ごせるなんて!
     えいじは馬鹿みたいに鼻水を垂らし、膝に傷を作りながら思い切り走り回った。えいじといえばやんちゃ、という代名詞までついてきた。アホみたいにブランコを乗り回し、縄跳びも永遠に飛んでいた。

     
     そんな幼稚園時代が功を奏したのか、奥村英二・小学生は人よりも運動神経がよかった。
     持久走大会でも一位常連。体育の授業ではみんなの見本とされるようになった。
     高学年になってくれば、もう自分・”奥村英二”が何者であるか、そしてこれからなにが起こるのか、それが起こった時の覚悟も決めていた。
     僕は19になったらアメリカに渡って、『誰か』に会って、戦う。漠然と、僕の体に絡む記憶。
     時代は違うけど、きっとそうなるに違いない。それは、『あの男』と僕は、魂がともにあるから。
     そう考えるたびに、なぜか、英二の大きな黒い瞳から涙が溢れるのであった。


     中学生になると、真っ先に陸上部の体験入部に足を向けた。
     そこからが僕の陸上生活の始まりだった。今のうちに英語の勉強をしておこうと、中学生が到底読むものではない、分厚い英語の本を読み漁った。
     文武両道、そんな言葉が似合う日本男児に成長していった。


     片田舎の出雲、その中でこの高校は地元1、2位を争う強豪校である。英二はそこで戦う多くの精鋭たちに魅入られ、早速入部した。
     初めの方は小さな衝突やいざこざがあった気がするが、”奥村英二”の人柄の良さ、いい意味での諦めの悪さ、などなど。そうして仲間達と打ち解け合い、高校最後の夏、キャプテンの奥村英二、その日、彼は大空を飛んだ。
    「おお・・・!」
     宙に浮かんでいる間、思わず喉から声が出るもの、固唾を飲む音、期待に満ちた顔、悔しがる顔、いろんな音と表情が見えたのを覚えている。いつもより長く、高く空を飛んでいる気がした。まるで大きな鳥になったかのようだ。
     この景色は、きっと誰かが憧れる、そんな景色だ。たった今この瞬間、他の誰かが見上げている空は必ずしもこんな綺麗な青空ではないことは知っている。僕は、その暗くて狭い空から、この綺麗な大空に、連れ出したかった。自由を、『彼』に与えたかった。


    ___


     かしゃり。
     小気味いい音が、英二の何気ない日常の一時を飾った。奥村英二はお世辞にもイケメンではない気がするが、彼の撮る奥村英二は息を呑むほど美しい。外見ではなく、生き様、というのだろうか。写真の中の英二は、何かを求めて、走る。飛ぶ。その瞳に引き込まれる。自由、を描く。静止画なのに動いてるように見える。
     陸上選手として駆け出しの英二に、これまた駆け出しのカメラマン__伊部俊一がカメラを向けるのは偶然か、それとも必然か。僕は今すぐ彼に言ってやりたい。あなたはこれで成功を収めると。そして感謝の気持ちを。あなたが僕の運命を変えてくれるのだ。
     僕がシャッター音の方向を振り向くと、伊部さんはそれに答えるように親指をとれた。バッチグウ。いい写真が撮れたよ、ありがとう。


     もう飛べない。そう思った時、僕の心にあったのは”絶望”ではなく、間違いなく『希望』だった。

    ___


    「アメリカだ・・・!」
     果たして、神様から約束されていたかのようにきっちり19に渡米を果たした奥村英二は、記憶でしか見たことのないアメリカの景色に興奮していた。
     ここが、『彼』の存在していた場所__
    「英ちゃん、あんまりはしゃいで知らない人についていっちゃダメだからね」
     恩人としか言いようのない伊部さんに子供扱いされるのは癪だが、仕方ない奥村英二なのだ。逆にご愛嬌に。それにこれからこの人には反抗しないといけないので、今のうちに心の中で謝っておこう。アイムソーリー、イベサン。
     僕は今のうちにこの平和な自由の国を堪能しておこうと思った。
     車窓に映る、日本の都会とは類の違ったNYの街並み。大きなビル群が立ち並び、その中でも一層大きく見えたのが、自由の女神像だ。街全体が彼女を囲み込んで生きている。行き交う人々、混雑する車。空には絶え間なく雲が流れ、大きな路地から小さな路地まで様々な物語がある。心のフォルダに仕舞い込んで、英二は改めて、『彼の生きた街』としてのNYを見つめる。
     いや、僕にはまだわからない。この街が、彼にどのような影響を与え、そして、どのように生かしているのか。僕が忘れている記憶の中のその男のフィルタは、そう簡単に見えるものではないのだろう。


     ”いつか会える”のだと信じてはいたが、まさかそんなすぐだとは思わなかった。だが確かに、伊部さんは僕に言った。
    「ストリートギャングの取材に行くんだよ。名前はアッシュ・リンクス。大丈夫、何かあったら友人の警察官が駆けつけてくれるさ」
     英二が作ったその表情を、伊部さんは不安がっているものと思ったらしいのだが、実際はそうじゃない。アッシュ__僕はその意味を知っている。意味は、『灰』である。そう、彼には似合わない___そう思った、記憶がある。
    「アッシュ・・・」
     そうだ、彼の名前はアッシュ。奥村英二にとって特別以外の何者でもない人だ。僕は奥村英二ではないけれど、きっとこれから運命を共にするアッシュ。そんな特別な存在を、たった今思い出す。
     成り行きとはいえこうなることを知っていた僕は、漠然と考えていただけのその存在にひどく困惑することになった。だって僕は奥村英二じゃない。奥村英二の体を持った、作品に触れただけの一読者である。そんな僕になにができるのだろう。僕は奥村英二にはなりきれないし、アッシュが運命を感じた奥村英二はここにいる僕じゃない。アッシュのことを思い出せば思い出すほど、19年ほど『彼と会って戦って、自由を与えたい』と自信満々に思っていた自分に自信がなくなる。忘れていた時の方が、自分が奥村英二として生きていくことを断然マシだと思えた。
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