お願い他所でやって!あのさぁ。丸聞こえなんだよお前ら。頼むから痴話喧嘩するなら自宅でしてくれよホントによ。
「お前を危険に巻き込みたくない」
「おいおいおい、忘れたのかよクリプト?シンジゲートのトップは親父だぜ!俺が何したって殺されるわけねえだろ!」
オクタン、お前の言い分はわかるけど、それはクリプトには禁句だぞ?ただでさえあのオッサンはお前がシンジゲートの仲間だと疑ってるのに。
いや待てよ、そもそもそんな疑いがあるヤツとなんか普通付き合わないよな?あれ?そうだよな?
「あの親父が何考えてるか分かんねえけど、俺が邪魔ならとっくに殺してるだろ『悲劇!シルバ製薬の御曹司の事故死』なぁんて簡単にでっち上げられるんだぜ?そしたら俺はもうとっくにお星様だ!」
洒落になってねえよ!
シルバ製薬の権力どうなってんの!?
いやもうオクタンの親父はシルバ製薬の社長ってだけじゃないんだもんな。Apexゲームの主催者・シンジゲートのトップになったんだよな。
いやでも普通に嫌な話だ。嫌だし何より怖い。
「まあでもどういうワケかは知らねえけど、親父は俺を死なせるつもりがない。俺をシルバ家から追放してきたくらいで、それでも殺さなかったんだから、間違いねえだろ」
え?追放?それは、あれか?勘当ってやつか?
いやいやマジかよ?確かにオクタンは会社の役員らしいことは何もしないで好き勝手に出歩いてるとは聞いてたけどよ。ええでもいきなり勘当するって、どうしてそうなるんだ?
「要はまだ俺にはシルバ家として有効な駒だと思われてるって証拠だろ。俺をどうしたいかは知らねえが、親父のことだらか上手いこと利用できる作戦でもあるんだろ?だから、少なくとも俺には価値があると思われてるんだ、たぶんな」
「…もういい、オクタビオ」
あ、クリプちゃんの声が優しくなった。
そりゃそうだよな。あんな話聞いたら俺だって言葉が喉に詰まっちまう。だってオクタンだぜ?元気いっぱいアドレナリンクレイジーの能天気で後先考えない男だぞ?
そんなどんよりした雰囲気が一番似合わない男なのに、ああやばい、ちょっと目頭が熱くなってきた。
「これ以上、お前に嫌な思いをして欲しくないし、抱えて欲しくなかった」
「……そんなの無理だぜアモール。あの家もあの男のことも、残念だが俺の血なんだ。否定したくても、出来るもんじゃねえ。どんなにおれがハイオクタン・オクトレインで居たって、オクタビオ・シルバって現実は変わらねえ」
「もういい、それ以上自分を卑下するな」
ああ、見えなくても分かってるぜ。
愛し合う2人が見つめあってどちらからともなく身体を寄せあって抱き合う。熱い眼差し出見つめあってる。
もうそれだけでご馳走様だ。
「俺が突っ走るのは、そんなクソから逃げたいからさ。でも、まだまだ速度が足りねえんだよ…」
「オクタビオ…」
「あんたとなら、もっと速く、走れそうなんだぜ」
こんな泣きそうなオクタンの声、聞いたことがない。クリプトの優しい声も初めて聞いたぞ。
「俺は走り続けたいんだ。どんなものだって飛び越えちまうくらい高く、速く、強く」
「…」
「だからな、あんたが必要なんだよ。オクトレインには特製のロケットエンジンが要るんだよ、クリプト」
「命の保証はないぞ?」
「ハハハ!そんなの毎度のことだぜ!俺の足が証拠さ!俺はいつだって命を掛けてんだ。俺の命がオクトレインの動力炉なんだぜ?」
「ほんとに死んだらどうするんだ?」
「そういうゴールでも、後悔しねえよ。いまある現実のレールを鈍行させられるよりずっと良い」
「そんなこと、俺が許すと思ったか?」
「まさか!アンタがみすみす俺を見捨てるなんて思わねえよ!」
「…」
「怒るなよアモール。本当はアンタと一緒がいい。アンタの傍で生きていたい。だからアンタの背負ってるもの、俺にも分けてくれよ。な?」
力尽きた_(:З」∠)_