ベッドタイム 体が軋む。
独り寝で今まで窮屈さを感じることなどなかったが、最近狭くなったシングルベッドは快適とは程遠い。それもこれも、隣で両手を大きく広げて無防備に寝息を立てている青年が原因だ。
「…………」
欲を発散し、すっきりしたが疲れを溜め込んだままの体が痛い。枕も毛布も奪われ寝返りを打つスペースも無く、ギリギリまで端に寄り縮こまって眠っていた俺は上体を起こし凝った首裏を摩り肩を揉んだ。
誰かと夜を共にし、同じベッドで朝を迎えるなんて考えてもみなかった。それも一夜限りではなく習慣になりつつある。相手はあのオクタンで、予想外の連続だった。
「ん、……クリプト」
目を覚ました彼が目を開けて仰向けのまま俺を見上げた。
「今日も起きんの早えな」
「……ああ」
人懐っこい青年がまだ眠そうに目を擦り、昨夜の情事を微塵も感じさせない無垢な表情で俺にふにゃりと笑いかける。
俺とオクタンの関係に名前はない。その日の気分で互いの性欲を解消する仲だ。殺し合いをしたその日に抱き合う事も珍しくないが、この火遊びにもいつか彼は飽きるだろう。
きっとオクタンにとってはゲームの延長に過ぎないスリルと興奮、快感に性欲解消。その相手に俺を選んだのに特に理由はなく、
──ただ手頃だった。
──彼がそういう気分の時にたまたま俺が目に入った。
それくらい適当でいい。勘違いしないよう自分に言い聞かせている。とてもじゃないが、オクタンとのセックスに処理以上の意味など持たせることはできなかった。そこまで自惚れていない。この体の痛みも一時的なものになるだろう。
「なあ……ベッド買いに行こうぜ。デカいやつ」
「必要ない」
「なんでだよ、狭いだろ?」
「お前がもう少し端に寄って寝てくれればいい」
冗談じゃない。唆されて大きなベッドなんて買ってみろ。お前が俺から去った時、どれだけ空いたスペースが虚しいと思う?
「……じゃあ、もっと俺に引っ付いて眠れば?」
抱きしめて眠って体温に慣れた体が、どんなにお前に焦がれると思う?
「遠慮する」
「なんでだよ」
痛む体。気怠さと疲労感。好きだとは言えず、突き放す物言いは崩せない。好意はあるが、恋を悟られたくない謎の意地。
付き合ってもいないのに、捨てられた時の事を考える。傷は浅い方がいい。
「……アンタのこと好きだぜ?」
「『今は』、……だろう?」
臆病で狡い俺はまともに取り合わず鼻で笑ってみせた。彼に言った言葉で自分を戒める。
「素直に受け取れよ」
「気まぐれに振り回されるつもりはない」
「今更だろ?」
「……」
「で、ベッドのサイズどうする?」
悪戯っぽくオクタンが笑った。伸ばした手で彼の頭をくしゃくしゃと撫で回し、ライムグリーンの髪を乱す。余裕ぶって微笑んで、彼の求めているであろう大人の男を演じる。
「買わないと言ったはずだ」
窮屈なシングルベッド。手足を広げて眠れずとも、悪くない。
「わかった。……クイーンサイズにしようぜ、ヒヨン!枕もいるな!」
「俺の話聞いてたか?」
覚めた目で夢を見る。どうかこの愛おしい肩こりと腰痛に悩まされる日々が、少しでも長く続けばいいと。