スウィート・テンプテーション「類、ごめん……ごめんな……」
目の前に立っているのは僕らのショーステージの座長。それは確かなはずなのだけど、どうも様子がおかしい。指先の傷が鼓動に合わせてジワジワと痛む。
「司くん? どうしたんだい。この怪我のことならキミが謝る必要は……」
閉園後。今日の練習を終え、もう少し機材の調整をしたいと申し出たら、司くんが一緒に残ってくれた。そうして作業をしている最中に、処理が甘かった内部のパーツに指を引っ掛けてしまい、そこそこの血が出てきてしまったのだ。
「類……お前のこと、すっごく美味しそうって、思って……ッ!」
「……っ」
「すまない。喉が渇いて……本当にもう我慢できないんだ」
そう言って司くんは恭しく僕の手を取ると、指先に溜まった血液のビーズを舌でゆっくりと舐めとった。息を荒くして口をはしたなく開き、赤い舌を僕の指の形に這わせては、水蜜桃にでもかじりついているかのように、恍惚とした表情を浮かべている。
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