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    吸血鬼パロルツ
    設定はあるので気が向いたら続きます

    ##ルツSS

    スウィート・テンプテーション「類、ごめん……ごめんな……」

     目の前に立っているのは僕らのショーステージの座長。それは確かなはずなのだけど、どうも様子がおかしい。指先の傷が鼓動に合わせてジワジワと痛む。

    「司くん? どうしたんだい。この怪我のことならキミが謝る必要は……」

     閉園後。今日の練習を終え、もう少し機材の調整をしたいと申し出たら、司くんが一緒に残ってくれた。そうして作業をしている最中に、処理が甘かった内部のパーツに指を引っ掛けてしまい、そこそこの血が出てきてしまったのだ。

    「類……お前のこと、すっごく美味しそうって、思って……ッ!」
    「……っ」
    「すまない。喉が渇いて……本当にもう我慢できないんだ」

     そう言って司くんは恭しく僕の手を取ると、指先に溜まった血液のビーズを舌でゆっくりと舐めとった。息を荒くして口をはしたなく開き、赤い舌を僕の指の形に這わせては、水蜜桃にでもかじりついているかのように、恍惚とした表情を浮かべている。

    「ちょっと……司くん!」
    「ん……ふ、っ」

     僕の静止には耳を貸す様子がない。司くんはギラギラと獣のような目をして、夢中で僕の指に食らい付いていた。

    「るい、類っ」

     甘い声に頭を殴られた。止めなくては。

    「司くん」
    「ふ、ぇ……、あぅ」

     指先の感覚がそろそろなくなってきたところで、司くんの舌を指で挟んだ。びっくりした様子で、やっと僕と目を合わせてくれる。口内の異物感が気持ち悪いのだろう、あぐあぐと僕の指を軽く食んでいる。

    「ぁ……ぅ、い」
    「うん?」
    「……ごぇん、ぁ、はぃ」

     おそらく『るい、ごめんなさい』と言ってくれたのだろう。先ほどまで薔薇色に染まっていた頬はその色を失い、白く儚いものになっていた。

    「司くん、説明はできるかい?」

     僕に舌を持たれたままうなづいてくれる。その瞳はいつもの色を取り戻していたようだったので、僕は司くんの舌からゆっくりと指を離し、ステージに一番近い客席に座らせた。

    「で、どうしたんだい、急に。何かあるのならまず説明をしてくれないか」
    「すま、ぅ……すまない……」
    「謝罪はいいよ。司くん、もしかして君は吸血鬼にでもなったのかい?」

     この世界で吸血鬼といえばファンタジー……つまり空想の産物だ。もしかしたらどこかには本当にいるのかもしれないと皆思っているけれど、交わるべき種族ではないとも思っているはずだ。

    「実は、そうなんだ」

     それなのに何故か目の前の人物は、真っ直ぐに僕の目を見てあっさりと肯定した。

    「おかしいんだ。ご飯は冷まさないと熱くて食べられないどころか味がしないし、夏なのに汗ひとつかかない。日光も少し、得意じゃなくなって。おまけにお前からいい匂いがするし、血が……美味しかった」

     司くんは大きな瞳を潤ませて嘆く。一方の僕は開いた口が塞がらず、間抜け面を晒している。あまりにも急な展開すぎて脳がついていかなかった。

    「……それは、次の台本か何かかい?」
    「ッ! ち、違う! 嘘じゃないんだ……類……信じてくれ……」

     多分、というか絶対に言葉の選択を誤った。「そうだ!」という返事を期待したのだけれど、期待したいつもの堂々とした姿はそこにはなく、かと言って悩んでいるというのも違うほどに度を越して、悲壮な表情を僕に突きつけてくる。

    「疑う。というわけではないんだけど、その、あまりにも突拍子がなさすぎないかい」
    「それはお前に言われたくない」
    「おや」

     喋ったことで少しは余裕が出てきたのだろうか。それなら何よりなのだけれど、彼自身の動揺は未だ収まっておらず、そう簡単に片付きそうにない。

    「うーん……それじゃあ、少しずつ情報を整理していこう。その、身体の変化はいつ頃からあったんだい?」
    「2〜3日ほど前だろうか……おかずに味がないと思ったんだが、咲希や両親は普通に食べているし、一時的なものだと思って放っておいたんだ。けど、その次の日も今日も、ごはんに味がしなかった」
    「……」
    「あのな、あと……さっきも言ったんだが、お腹が空かなくて。その代わりに喉がすごく渇くんだ、水を飲んでも治まらない」

     そう言われて練習中にスポーツドリンクを渡した時、少し表情が曇って様子がおかしかった事を思い出した。冷たさに驚いただけだと思っていたが、味がしないことと喉の渇きが満たされない事を懸念していたのかもしれない。

    「そうだったんだね。ううん……その、2~3日前に何か変わったことは無かったかい?」
    「特に思い当たらないな……」
    「それこそなにか触ったとか、噛まれたとか」

     何かの病気や細菌だと仮定して、感染経路としてありそうな物を挙げてみる。忘れっぽい司くんの事だ、それで原因が簡単に見つかるとは思えないけれど。

    「あ! そう言えば、数日前に助けたコウモリに噛まれたんだった」

     司くんはあっさり答えた。逆にどうしてそんな物語の王道の答えに自身で思い当たらなかったのか問い詰めたい。

    「……コウモリ?」
    「道に落ちてたんだが、類のドローンみたいだと思ってな。助けようと拾いあげてやったら噛まれた上に逃げられたんだ。ほら」

     傷が薄くはなっていたが、司くんの左手首には確かに何かの動物に噛まれたらしき痕があった。

    「あのコウモリは吸血鬼だったのか……?」

     普段だったら笑って次の舞台に取り込もうと演出を考えるところだけれど、それどころではなさそうだ。事実として先程の司くんの取り乱し様は異常であった。まだ指先が痺れる感覚があるけれど、それは気にしない。
     僕がサポートしなければ。

    「はぁーーっ……」

     力を抜こうと深呼吸をしたら、ありえないほど大きなため息をついてしまった。驚いた司くんが、横で肩を震わせたのが分かった。ごめんねと背中を撫でるが、力が抜けていないのが手のひら越しに伝わる。

    「……すまない」
    「謝っても仕方がないだろう。そもそも司くんのせいじゃあないのだし」
    「でも……このままでは、オレはステージに立てなくなってしまう……」
    「でも普通に学校へは来ていただろう?」
    「さっき言ったように、日光が少し得意じゃなくなってきたんだ。このワンダーステージは屋外……フェニックスステージのようにシアター形式であったら良かったのに……いや、この言い方はステージに失礼だったな」

     司くんは悲しそうな目でステージを見つめている。スターを目指している彼が、今後ステージに立てないかもしれないのだ。同じステージの仲間としても、それ以上の感情でも、彼が夢を諦めなければならない事態は見過ごせない。

    「司くん、僕も協力するよ。それまでは僕の血で我慢できるかい?」
    「類……! 本当にいいのか?」
    「もちろん。吸われすぎて死んでしまっては困るから、制限は付けさせて貰うけどね」
    「っ! ありがとう! 類!」

     司くんは今日一番の明るい表情を見せてくれた。この数日間、誰にも相談できずどれだけ不安だったのだろうか。

    「というか本当に僕でいいのかい?」
    「もちろん咲希や両親には頼めないし、えむや寧々に牙を立てるのは少々気が引ける……」
    「僕は傷付けても構わないということかな」
    「何っ!? そんなことを思うわけがないだろう! ……それは、その。先程既にやらかしてしまったわけで」

     わざとらしく泣き真似をする。いつもの司くんならドン引きして冷めた目で見てくるところだけれど、今日は珍しく動揺していた。

    「フフ、冗談だよ。ところでさっきは途中で止めてしまっただろう? もう少し必要かい?」

     司くんは一瞬躊躇ったが、余程飢えていたようで、素直に頭を縦に振った。

    「やりすぎるようなら、途中で止めさせるからね」
    「わ、分かった。善処する」

     先程と同じ指を差し出す。そんなに深くもない傷だが、まだ乾ききって居らず、司くんが舌で濡らし歯を沿わせると簡単に血小板のダムは決壊した。
     
    「類……ありがとう……類がいなければ、オレはどうなっていたことか……」

    ──あぁ、僕の血をこんなにも美味しそうに啜る君は、一体どんな味がするんだろう。なんてね。
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