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    ajimon_bmb

    @ajimon_bmb モチェ中心にワンクッションおきたい文字置き場

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    ajimon_bmb

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    おじさんの幸福宣言(公式ツイッター)を心臓に受けてからずっと瀕死の状態でいるので、それに至るまでの小論文を書きました。あらすじをバババと書いているので言葉が足りない部分も多々あり、しかも途中ですが、これ以上内に秘めて化け物になっても困るので一度楽になります。※色々いっぱい捏造あります!推敲もしてないです!見苦しい!

    幸福論 コテージに戻った後、道中で買った荷物などを片付けながら他愛のない話をする。しかしモクマさんはどことなく上の空、というか何か気がかりがあるようで、会話にはなんとなく空虚さが漂った。座り込んだラタンのチェアがぎぃと音を鳴らした後、モクマさんは黙り込み、昼と夜の間の空気だけが揺れていた。
     
    「……すまんね」

     謝罪をされ、どう返すのが最善なのか。ただこの謝罪の後の沈黙が悪手だということは分かっていた。しかし、この一瞬で最適解を出すのも、私には難しかった。彼の謝罪がなにを指しているかなんて分かっているのに、気付かない振りをして「何がです」と返した。ちらりと向けられた視線に、愚かなことをしたと後悔した。
     
    「何が、って……。気を使わせちまったな、と。ね」
    「あァ……それは、まぁ。
     他でもない、あなたのご母堂ですので」

     それでも、気付かない振りを続ける。ただ単に、今生の約束をした唯一無二の相棒の、その母親。そんな他人とは言えぬ御仁への挨拶だ。緊張感を纏って、余所行きの態度で挑むものだろう。でも、彼の言う「気を使った」が、違うことを指しているのは、私は分かっている。
     
     
     4日前、私達はこの国へたどり着いた。
     その日は入国手続きや宿泊施設への移動、その他片付けなどで1日を終えた。
     2日目は私の体調を鑑みて、屋外へは出ず療養。
     3日目はコテージの周囲を簡単に見て回り、身体の調子を確認。普段の生活に支障はなかった。
     
     そして本日。
    ――チェズレイが大丈夫なら、実家に挨拶行ってもいいかい。

     朝のルーティンを終え、朝食代わりのコーヒーを淹れている最中、モクマさんは切り出した。
     そんなに意を決して切り出すことでもないだろうに、と思ったが、思い返せば入国した時から、えも言わぬ緊張感を纏っていたように思う。当たり前か。再会は20年以上振りなのだから。
     
     私は了承し、タブレットを取り出して、モクマさんの母の居場所を表示した。
     沿岸部にほど近い、一軒家だった。
     
    ***

     道中、モクマさんは家族のことを話してくれた。
     
    「俺、5人兄弟の末っ子でさ。上4人はみんな男。
     今思えば、母さん大変だったろうな。って、そんなこと、お前さんならもう知っとるか」
    「賑やかそうではありませんか。確かに、手はかかりそうではありますが」

     語るモクマさんの表情は穏やかだったように思う。親子間や兄弟間には何の確執もなさそうだった。それが故に、いつか船上で「絶縁状態」だと強い言葉で関係性を断じたことが気にかかった。もちろん、それはミカグラとマイカの対立によるもので、モクマさんと家族が対立したわけではない。しかし、恐らく。そこから彼と家族の関係性がねじれていったことは確かだろう。そしてその後は――であるが、結局二十数年、断絶状態が続いていたということになる。今朝の気まずそうに、そして決意をもって私に切り出した彼の緊張感は、理解できた。
     
    「ここですね」
    「……」

     1年中快適な温度を保つこの国は、沿岸部は美しい自然とビーチが観光資源となり、それらを求めてやってきた観光客向けのホテルや店が市街に軒を連ねている。
     そんな繁華街から少し離れ、喧騒から距離を置いた位置にモクマさんの母は住んでいた。周囲の住宅もこの地に定住する人々のものなのだろう。似たような大きさ、似たような造りの家々が並んでいる。どれも相応に年季が入っていることが見て取れた。
     
     一軒家を前に、モクマさんは沈黙する。何度かため息を吐き、表札を確認してからインターフォンを押した。
     
    「はい――、モク……マ?」
    「……母さん」

     インターフォンからの返事がない代わりに、玄関ドアが開いた。小柄な女性は顔をあげた途端瞠目し、弱弱しくモクマさんの名前を呼んだ。
     モクマさんは視線を泳がしながら、何か言い淀んでいた。モクマさんの母も動揺し、何となく居心地の悪い沈黙が流れる。何か助け舟でも出してやるべきかと口を開きかけたところで、奥からもう一人、男性が現れた。
     
    「母さん、大丈夫――、モクマ、か?」

     顔を出した男性も、ひどく動揺していた。心音が乱れている、と思い、悪い癖だとその音を脳内から排除した。状況的に、モクマさんの兄だろう。男性はモクマさんと母を交互に見た後、私をじっと見つめ、とにかく中に入るよう、私達を客間に通した。
     
    ***

    「そうじゃなくってさ。あんまりいい雰囲気じゃなかったろ」
    「それは、仕方ありません。何せ二十数年ぶりの再会です。
     お互い、いい大人ですから、そうそう感情を露わにするものでもありませんしね」
     
     はぁ、と一段と大きなため息をついたモクマさんが、いよいよ確信をついた。私は観念して、気付かない振りをやめる。
     
     確かに、実家への挨拶は“成功”とは言い難かった。
     客間に通された後、居心地の悪い緊張感を湛えたまま、お互いに何かを探るような上辺だけの会話が続いた。
     一応、モクマさんの現状や私との関係性(仕事仲間である、という点についてだが)、この国へ滞在している理由、ここを訪れた訳、と話すには話したが、友好的な関係を築けたという手ごたえはない。
     特に、兄。話によれば長兄は、父が亡くなりいよいよ後継ぎとして、後継の準備が佳境を迎えようとしていた時期であり、今日も今後の同居についての調整を詰めに来ていたらしい。長兄からすれば、親元を離れ里を選び、以降音信不通となった末弟が、父の死後いきなり現れたのだから、何か訳があると疑っても仕方がないだろう。それに加え、自分で言うのも何だが、得体の知れない人物まで引き連れて来たとなれば尚更だ。下手を打つ心配はしていなかったが、初手として同行するのは些か失敗だったかもしれないと、少しだけ後悔した。
     
    「まあ、俺はいいんだ。気まずいのも全部自業自得だからね。
     ただ、療養に来たっちゅうのに、負担をかけちまったのがね。すまん」
    「負担になど感じていません。モクマさんのご家族に挨拶ができたのですから」

     これは本心。体調も怪我の具合も良好だ。彼の母や家族への挨拶が、何の負担になろうか。
     モクマさんは困ったような顔で私を見、あー……と情けない声を出しながら頭を掻いた。
     
    「いや、そうだな。お前にかっこ悪いところを見せた。それが、恥ずかしい」
    「ふ、何を今更……」
    「もー、笑いなさんな! これでも年上の矜持っちゅうもんがね!?」
    「そんなもの、どこぞの獣に食わせておけばよろしい」

     殊勝な顔して告げるモクマさんに、思わず笑いが零れた。親兄弟とスマートに応接できなかったことを恥ずかしいなどと、かさついた頬を染めるその顔は、情けなさよりも人間味のあるらしさのほうがよっぽど際立っている。
     二人の間に張られていた緊張の糸は切れ、どっと溢れる様にして笑う。この国に来て、ようやく互いに荷が降りたような気がした。
     
    □□□

     翌日。
     南国とはいえ、早朝の空気はやや冷たい。もうほとんど気にならなくはなったが、ヴィンウェイで負った傷がその冷たさに引き攣れて、若干の不快感と共に目が覚めた。
     枕元にあるデジタル時計は05:03を表示していた。二度寝の習慣などなかったが、まだ、もう少し微睡んでも良い時間だろう。きっと彼もまだ、たっぷりとした白いベッドの中に沈んでいるはずだ。と閉じかかる瞼で横を見やれば、上体を起こし背を丸めるモクマさんがいた。
     
    「どう……されました?」
    「ありゃ、起こしちまったかい」
    「いえ、そういうわけでは」

     気だるい身体を持ち上げて覗き込む。モクマさんの顔には液晶特有の青い光が反射していた。こんな早朝にタブレットとは珍しい。というのが顔に出ていたのか、モクマさんは画面を見せながら説明した。
     
    「兄さんから連絡があってね。
     母さんの調子が悪いから、墓参りはまた後日連絡するってさ」

     画面にはメール画面が光っていた。丁寧な文面ではあるが、用件のみの短い文章に、昨日の別れ際、モクマさんと長兄が連絡先を交換していたのを思い出す。そのままぼんやりとモクマさんが画面を見つめ、自動消灯した後、深く息を吐いた。
     恐らく、昨日自分が訪ねたことがストレスとなったのではないかと考えているのだろう。彷徨う目線、弱弱しく乱れた心音、丸まった背中。すべてが物語っている。私は、ため息と共に開口しようとするモクマさんを遮るように言った。

    「であれば、今日はどうしましょうか。
     ゆっくり微睡んでも、このまま早朝のランデヴーでも構いませんよ」
    「……じゃあまずは、コーヒーでも淹れようか」
    「肌寒いので、ミルクを多めに」
     
     注文をつければ、いつものように情けなく眉を下げた笑顔になる。私は引き攣る皮膚をさすりながら、安堵と共に思案する。
     果たしてこの地に留まることは、モクマさんにも、家族にも良いことなのだろうか。人に云えた義理ではないが、だからこそ、過去と、家族と向き合う事には時間を要する。モクマさんが再び身をやつすことはないだろうが、早急に解決すべき問題でもないだろう。それは相手も同じことだ。こちらだけのペースで運ぶものではない。一番の目的は達成し、私の身体だってほとんど回復している。あと少し、この国の空気を楽しんで、それで、楽しい思い出だけを胸にこの地を発てばいいのではないか。
     
    「はい、どうぞ」
    「ああ、起きますよ。机でいただきます」

     目の前に差し出されたカフェオレに、思考が現実に戻る。すっかり覚醒してしまい、ベッドから降りてダイニングについた。
     机上に置かれたカフェオレは、ゆるく渦を巻き、甘く優しい香りを立ち昇らせている。

    「モクマさん、身体の調子も良いですし、二三日でこちらを発ちましょうか」
    「え? まだ療養した方がいいでしょ。そんなに急ぐことあるかい?」
    「世界は我々を待ってはくれませんよ?」
    「そりゃあ壮大な……」

     明言を避けたいのか、力なく笑ったモクマさんは自身のカフェオレを啜った。
     私も強制するほどのことではないとそれ以上の追及はせず、本日の予定について話題をシフトさせた。

    □□□

     この国へ来て6日目。もう1週間も経とうとしているのか。
     4日目に挨拶へ行った以外、特にこれといった出来事は起きていない。
     好きな時間に起き、好きな時間に食べる。一応、その日の予定みたいなものを立てるが、ふらっと街へ出たり、ビーチへ出たりと予定はあってないようなものだった。そうして好きな時間に寝る。時間や日付の感覚がなくなりそうな、そんな生活を送っていた。

    「調子はどうだい」

     ゆったりとした朝。既に陽は昇り、日光に暖められた柔らかな空気が肌を撫でる。傷の引き攣りはなかった。
     ベッドから上体を起こすと、いつものように声がかかる。モクマさんは先に起きて、ストレッチを行った後のようだった。
     
    「ええ、もう十全ですよ」

     少し伸びをして答える。モクマさんが常温の水を手渡すので、一口含み嚥下してからベッドを降りた。
     
    「そうか……じゃあ、そろそろこれからのことも考えないとね」

     私に背を向け言う。昨日うやむやにしたことを、考えたのだろうか。彼の気持ちにどのような変遷があったのか、私には分からない。今すぐにでも逃げてしまいたいなら、私にはその準備がある。しかし本当にそれで後悔はないのだろうか。いいや、いくら考えても詮無いことだ。彼の心は、彼だけのものなのだから。私は、彼の心を否定したくない。
     
    「そうですね。当初の予定通り、また西へ向かいましょう。
     動向の気になる組織もあります」
    「了解。でも準備やらなんやらあるでしょ。
     構成員くんたちにお土産も買ってやらにゃ」
    「では本日はその辺りの買い出しにでも行きましょうか」

     会話が終わる頃には、私もすっかり普段着に着替え終わる。時刻は午前9時、少し前。観光地が賑わうのは、もう少し後の時刻だった。

    ***

     なんだかんだと、コテージを出たのは11時を少し過ぎた頃だった。
     混む前に食事にしようと提案するモクマさんに、ブランチ時ですしねと返すと、ブ、ブランコ? なんて間抜けな顔をされた。それが何故だか気に入ってしまって、レストランまでに何度も思い出しては笑ってしまった。
     
    「こりゃまた……今時のクレープってこんなにおしゃれなのね」
    「ガレットです」

     ハムと玉子が包まれた、オーソドックスなガレットを見てモクマさんが呟く。クレープだと宣うことは予想していたが、こうも外さず言うものかと笑いが漏れそうになってしまう。今日は何故だかツボが浅い――いや、安心しているのかもしれない、と未だガレットを凝視して感嘆の声を漏らすモクマさんを見て思う。私はモクマさんがこの国を発つと選択したことに、肩の荷が降りたような気がしていた。
     彼がこの国へ、母と面会することを選んだのは、ヴィンウェイでの出来事がきっかけだ。責任を感じることはないとモクマさんは言うだろうが、想定していた事態とは違ってしまったことに、私自身も動揺していることは確かだった。
     だから、彼が先へ進もうと言うことに私は安堵した。だから、何も気に負わず、感情がそのまま出てしまうのかもしれない。
     
    「美味しそう! チェズレイも一個食べるかい?」

     ぐるぐると自己分析の思考を巡らせている間に、モクマさんが注文したクラブサンドが到着していたらしい。大き目の皿いっぱいに並べられたサンドイッチは、大ぶりなレタス、肉厚なトマト、焦げ目の香ばしいハムと、見ているだけで満腹になりそうだった。

    ***
     
     食事を終えて昼間の繁華街を歩く。有名なレストランには列が伸び、スーベニアショップや免税店はやや閑散としていた。
     ヴィンウェイでの空港のように土産を選ぶ。まだ大した人数はいないと言うのに、モクマさんがあれもこれもと言うのだから、全てコテージへ届ける様に手筈を整えた。
     
    「西に向かうっちゅうと、服装とかは大丈夫なもんかね」
    「それは馴染みのテーラーに依頼しましょう。コテージに戻ってからの方がいいですね」
    「じゃ、なんかつまみでも買っていこうかねえ~」

     土産を見ている時にも、チラチラと通りに並ぶ露店を見ていたのは分かっていた。我慢していたのか、跳ねる様に露店へ向かう姿は子供のように見える。いつぞや、彼には父親役を割り当てたこともあったが、その姿を見れば彼が末っ子だということも頷けた。
     
     お昼時の露店は賑わっていた。待ちきれぬ子どものように、そわそわと前に並ぶ人に商品が渡る姿を見ている。ようやく順番が回ってきて、店主となにやら話しているのか、くるくると表情が変わる。メニューを悩み、おすすめでも聞いたのだろう。最後はぱっと笑顔になり、羽織の袖から財布を取り出して商品を交換した。随分と嬉しそうな顔をしながら、私の名を呼んでまたこちらへ戻ってくる。その時だった。

    「っ、モクマ!?」

     モクマさんとすれ違った男性が、モクマさんの顔を凝視して踵を返す。おもむろに腕を掴み、モクマさんが思わずたたらを踏んだ。
     
    「お前、モクマだな!?」
    「えっ、と? どちらさ――」
    「兄の顔を忘れたというのか!?」
     
     通行人が、列に並んだ人々が振り返る。それでも構わず、その男性は唾を飛ばした。
     
    「兄からここへ来たと聞いてはいたが、よくも今更ぬけぬけと……。
     父や母、兄や俺たちが、お前のせいでどれほど苦労したか知りもせず。
     父を亡くしたばかりの母が、お前の顔を見てどう思う!? 現に今、臥せっているのだぞ!?」

     兄と名乗る人物は語気を強めた。恐らく身分は偽っていない。つまり彼はモクマさんの兄なのだろう。モクマさんの表情からも、それは読み取れた。
     青ざめた顔をして何も言い返せずにいるモクマさんに、兄はまだ言い足りないようだった。しかし往来で叱咤を受けるいわれはない。私は間に割って入った。
     
    「少々落ち着かれては? 人の目もありますし」
    「何だお前は……関係ないだろう」
    「それは職場の制服かと見受けますが、往来で声を荒げては少々印象が」

     私の指摘に、男性は唇を噛んで押し黙った。周囲の人々はすでに興味を失い、散っていた。
     
    「とにかく、これ以上母の負担になるな。モクマ」

     男性は吐き捨てるように言い、私をひと睨みしてから往来へ消えていった。
     モクマさんは、ぼうと地面を見つめ頭を掻いた。とにかく今日はもうコテージに戻ろうと促せば、「また情けないところを見せちまったねぇ」と寂しそうにモクマさんは笑った。
     
    ***

    「あれは3番目の兄貴。昔っから真面目で、曲がったことを許せない質だったが……」

     と、ラタンの椅子に沈み込んだモクマさんは、表情を曇らせた。
     モクマさんの兄弟は、後継ぎとなった長兄、そして三男と四男がこの国で暮らしている。次男は随分と前に海外へ渡っていた。それはモクマさんの家族構成を調べた際に知っていたことだが、さして重要なものでもないと気に留めていなかった。それに、その情報が必要な時は、モクマさんから話してほしい。私の調べた単なる情報ではなく、彼の口から家族を語って欲しかった。
     
    「お前さんに大口叩いといて、自分がこんな体たらくじゃ……。
     この20年のツケが回ってきたかねえ」
     
     机上のテイクアウトフードはすっかり冷めきっている。それに手を伸ばして、結局止めたモクマさんは天井を仰いだ。
     
    「よく考えりゃあ、当たり前だ。顔を見せることすら遠のいてた中、俺は里を選んだ。
     里から下りて、家族と一緒に出て行く選択肢だってあったのに」
     
     私はただ黙って、彼の言葉を聞く。
     
    「その時点で既に壁が出来てたようなもんだ。
     新天地で苦労したこともあっただろうに、そんなこと何一つ考えたこともない。
     挙句の果てに俺は里長を殺した。罪人の親なんて、そんな噂すぐ広まるだろうさ」

     苦しそうに息を吐き、口を閉じた。
     何が正解なのだろうか。慰めの言葉も、激励の言葉も違うだろう。彼の苦しみを、不安を、どうしたら取り除けるのだろうか。

    「モクマさん、私にはもう療養は必要ありません。
     もう、この国に留まる必要はないのですよ」
     
     私のせいにしていい。私を言い訳にして、私と一緒に、逃げていい。

    「……そっか。そう、だね」

     僅かに頷いた動作を肯定と取って、明日にもここを発つ準備にかかった。
     タブレットを取りだし、構成員に連絡をつける。向かう国での協力者へのコンタクトのため、メーラーを立ち上げた。
     その時、机上にあったモクマさんのタブレットの液晶が点灯する。緩慢な動きでそれを取ったモクマさんの背筋が、だんだんと伸びていった。
     
    「どうされました?」

     モクマさんはタブレットの画面を見せた。
     白い背景に並ぶ黒文字は、丁寧な文面の無機質さをより際立てている。
     
    『母の調子が戻ったため、明日14時に自宅前へ』

     それは長兄からの連絡だった。
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    Replies from the creator

    ajimon_bmb

    DONEモチェと新人構成員の話。おじさんは善人じゃなくてちゃんと悪党ムーヴしてほしいよ~~!って思って書いたら、思ったよりおじさんが嫌な人間になっちゃった……。でもチェ以外には自己中で独善的で逃げ癖治り切ってないおじさんがいいよ~~~~!(ワガママ) モチェですが構成員目線なので、ほぼモチェはでません。最後だけ。あとネームドモブ構成員もいます。
    悪人 足音、怒号、打撃音。下品な金の柱に、趣味の悪い赤い絨毯が鈍く反射している。そういえば、俺の元居た組織のアジトもこんなだったと、彼方にあった記憶がふっと蘇った。思い出して楽しい記憶ではない。乾いた銃声と共に意識は現実に戻って、リロードの隙に横っ面を殴り飛ばした。あ、デジャヴだ。と、またしても楽しくない記憶が蘇った。あの時の俺も、こうやって今の上司に殴られ、気絶したのだった。
     
     半年ほど前だろうか。いやもっと前かも知れない。時間の感覚が分からない程、自分を取り巻く環境が変わったのはこの1年の間だ。
     
     酒癖も金遣いも荒い男の元に生まれ、母親は立ちんぼ。立派に半端なならず者に育った俺は、殺された父親の代わりに地元の一番でかいマフィアの鉄砲玉になった。死んだ親父はどうだってよかったが、断れば母親と弟妹がどうなるかなんて分かり切っていて、俺に選択肢や拒否権なんてなかった。
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    ajimon_bmb

    DONEおじさんの小指を噛みちぎろうとしたチェの話。モチェで当たり前のように同じベッドで寝ている。書きたいところをだ――ッと書いたので体を成していない。メモみたいな感じです。これはゲーム終了時点でおじさん裏切りifでもっと重苦しい感じで考えていたけど、様々を経ておじさん裏切りなんてifでもねえなガハハ!とモチェ圧にやられたのでこうなりました。一生幸福でいてくれや。
     本当に生きているのかと思う程美しく静かに寝る男から、珍しく衣擦れの音がした。
     スプリングが微かに沈む感覚と同時に、手袋をしていない指先が無遠慮に俺の腕をまさぐって、独特の冷やっこさに鳥肌が立つ。
     何かを確認するように皮膚の薄いところをなぞりながら手首を掴んで、手のひらと手のひらが重なった。

    (起きてはいない……ようだが)
     
     されるがまま、視線だけで確認してみる。長いまつ毛は呼吸に合わせて上下して、規則正しい寝息が鼻から抜けていた。
     一方で俺は。こうもぺたぺたと触られて、まどろみの思考が覚醒した。ぱっちりと目を開いて、それでも決して気配は気取られぬように。
     もちろん隣の男を揺り起こし、「どうした?」なんて無粋なことはしない。滑らかな指先が、俺の指の股を行ったり来たりするのを、なんだかちょっとエロいな、なーんて、そんな下衆い思考を楽しむ。
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