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    cameidea

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    アイドルパロを書いてみよう!とタイツで盛り上がっていたので勢いだけで参加してみたもの。あまり校正できていないので変だったらごめんなさい。

    Is he an imagenary brother? 田舎行きの深夜バスに乗るため、俺はバスターミナルで待ってる。きっとこれでよかったんだって泣きながら。
     
     高校生になった俺には、推しができた。憧れのアイドル、Sanemiさん。
     SanemiさんはHustlerというグループに所属してる。このグループはみんなとんでもない運動神経を持っていて、しかもかっこいい。最初は一番体格の大きなGyomeiさんをすげーって思ってこのグループを知った。でも雑誌でGyomeiさんとSanemiさんが話してる企画があって、そのなかの一言に俺は心を撃ち抜かれた。休日の過ごし方、みたいな話のなかだったはずだ。
    「俺には夢のなかにだけ現れる弟がいて、どこかで本当に生きてんじゃないかと思ってる。だから、休みの日にはふらっと知らない街に出かけちまうんだよなァ」
     Sanemiさんは知らないのかもしれないけれど、俺は知ってる。Hustlerは偶然集まったアイドルグループじゃないって。今を遡ること約百年、鬼を全て葬り去った鬼殺隊を司どったあの柱達。GyomeiさんはたぶんSanemiさんの探してる相手が俺だって知ってるはずだ。たぶんあの人のことだから事更に言わないんだろうけど。
     Hustlerのメンバーと違って、俺の生活は地味そのもの。あの時の妹2人と一緒ではあるけど、貞子も寿美もSanemiさんのことはただかっこいいというだけで、記憶はないみたいだ。こないだ隣の県にHustlerがライブに来た時には、2階席から緑のペンラを振って応援した。白い髪の人としてはもう一人Tengenさんがいるけれど、Sanemiさんは妹達にとっては別格らしい。かっこいい、色気がある、それでいて他のメンバーにも礼を尽くす姿勢がすごいんだって。
     そのライブに行く費用は俺がバイト代から出してやった。本当は俺も行きたかったけど、ライブで遠くから見るだけじゃ、結局は俺が切なくなるだけのような気がした。だからHustlerを箱推ししてる妹二人が楽しめれば、それでいいやって思っていた。
     でも、バイト代が貯まったからって言って、今度は妹二人がチケットを持ってきた。東京で行われる結成1周年ライブ、しかも席は1階席の中央3列目。俺の心は揺れた。
    「家族のなかで一番Sanemiさんが好きなの、兄ちゃんやん」
    「私達はこないだ楽しんだし、行ってきなよ。それに原宿を歩いたら、スカウトされるかもよ」
     貞子と寿美はスマホを駆使してやっとチケットを取ってくれたらしい。そこまでしてくれたのだしと、俺は両夜行で東京へ行ってくることに決めた。

     新宿のバスターミナルに着いたのは夜明けの時間。夕方のライブまでは時間が有り余るほどあった。
     でも、田舎から半徹で出てきた高校生の俺は、東京の乗り換えは全く理解できない。だからひたすら歩いた。新宿から原宿へ、ラフォーレ前も通過した。でも、多くの店は開店前でひっそりとしていた。表参道ではテレビ局のクルーが準備をしていたけれど、彼らは別に通りすがりの俺なんかに興味はない。
     名前だけしか知らない地名やビル、大学が次々に現れる。SanemiさんもHustlerのほかのメンバーも、この街で暮らしているんだって思うと、途端に自分が場違いな気分になってきた。
     昔の俺は京橋の生まれ、でも今の俺は違う。完全なる東京初心者、スマホの地図アプリがなければあっという間に迷子になる。俺はとてつもなく不安になった。Sanemiさんに早く逢いたい。だから、俺は開演までまだ8時間もあるというのにライブ会場に向かうって決めた。
     
     あんまりファンの流儀としてよろしくはないんだけど、俺は入り待ちをすることにした。少しでもSanemiさんに近づいておきたかったから。同じく入り待ちをしている女子が「まだSanemiさんは入ってないと思う」と教えてくれる。ファンクラブのプレミア会員らしいその子は、Tengenさん推しらしい。最近なんと三股という衝撃的な記事が週刊誌に書かれたけれど、もっと驚いたのはTengenさんがその3人とも大事にするって言ってのけたこと。アイドルとしては非難轟々にもなりかねないところだけど、あまりの色気と男気にTengenさん推しのその子はむしろクラクラしたらしい。
    「でも、Sanemi推しになったって子もいるよ。Sanemiってイマジナリーな弟の話はよくするけど、現実の彼女は作らなさそうだから、って」
     へえ、そうなんだ。俺は必死に心のうちを隠しながら相づちをうつ。俺の存在はファンからしたらイマジナリー、なんだ…でも、そもそもSanemiさんの夢に出てくる弟ってのが俺とも限らない。俺のなかで一気に不安が湧き上がる。もしこの後のライブでSanemiさんと目が合ったとして、なんにも反応がなかったとしたら、俺はどうしたらいいんだろう。
     これまでずっと、Sanemiさんの言う弟は俺なんだと思い込んできた。だって、百年前に京橋で鬼に襲われて俺達は別れ、それから鬼殺隊に一緒に所属はしていたとはいえ、まともな会話はしなかった。
     最後の戦いでは風のように現れて、胴を斬られた俺を守ってくれた。一方で、俺も兄ちゃんを守りたくて必死に戦ったけど、結局力尽きた。それから出逢うことなく俺達は百年を過ごした。Sanemiさんにとって俺はもうイマジナリーな存在なのかもしれない。
     そう思った瞬間に俺は怖くて身震いした。「弟なんたいねェ」ってまた言われるんじゃないか。そう思って身をこわばらせたときだ。
     黒いワンボックスが眼の前を横切り、ぐいっと楽屋口に取り付けた。中から白い髪に白いジャージを来た人が降りてくる。背中には「殺」の文字。Sanemiさんだ。
    「Sanemi!」という歓声にもこちらに目を向けることはない。Sanemiさんは「殺」をこちらに見せたまま軽く手を振って楽屋へと入っていった。

     物販では気を取り直して会場限定のペンラとうちわを買った。Sanemiさんのうちわの直筆メッセージは「風に乗って君に逢いに行く」。でも、Hustlerは人気だから俺の田舎まではさすがに来てはくれない。Sanemiさんの文字をゆっくりとなぞりながら席につく。すると、すぐに眠気が襲ってきた。朝からかなり歩いたのだし仕方がない。本番までには起きようと決め込んで俺はグッズを抱き込んで眠り込んだ。
     キャーという甲高い歓声で俺の意識は引き戻される。はっとして起き上がるとちょうどメンバーが現れたところだった。
     Sanemiさんの正面ではなかったけれど、俺はぶんぶんと緑色にチェンジしたペンラを振る。運動神経のよさを誇るHustlerはダンスもキレッキレだ。そして、これまで公式サイトでしか見たことがなかったSanemiさんの実物は、サイトよりも10000倍かっこよかった。顔をしっかり見ればまつげが本当に長い。そのツンツンとしたまつげが瞳をひときわ際立たせていた。どれだけ踊っても息が上がらない特殊な体質のメンバーぞろいだから、ずっと全力なのがとにかく凄い。大柄なGyomeiさんもTengenさんも、まったく動きに隙がない。さすが、柱達だ。
     
     来る途中の夜行バスで俺はあのインタビュー記事のスクラップを何度もバッグから取り出して見た。Sanemiさんの決め顔を眺め、そして記事にも目を通す。記事にはHustlerのメンバー全員がわちゃわちゃと話す内容も書かれていた。
     さっきの女子が言っていた「イマジナリー弟」のところのインタビューの後には、Gyomeiさんだけじゃなくて他のメンバーのコメントも載っていた。Tengenさんには昔の記憶はなくて、Giyuさんは発言してないから全然わからない。でも、KyojuroさんとObanaiさん、そしてGyomeiさんはたぶん俺がイマジナリーでないことを知ってるような書き方だ。
    Kyojuro「俺の弟はずっと俺のことを尊敬してくれている。Sanemiの弟は今もきっと兄を見ているぞ!」
    Obanai「俺には皆目分からんが、Sanemiにとっては弟はずっと生きる意味だからな」
    Gyomei「もし弟が現れたら、今度は優しくしてやらないといけないと常日頃から申しておる、南無」
     その言葉にちょっと勇気をもらったことを、俺は3列目でまた思い出していた。
     
     フォーメーションが変わり、俺の正面にSanemiさんがくる。俺はSanemiさんを凝視した。緑色のペンラに気づいたSanemiさんと目が合う。その神々しさに、俺は目が潰れるかと思った。けれど、しっかりと向き直ったところで、俺はSanemiさんの表情の変化に気づく。Sanemiさんのキレのあるダンスは変わっていないけれど、視線が常に俺に向けられているんだ。まるで、見ては存在しないものを見てしまったような、あんぐりとした顔。しばらくしてもう一度立ち位置が変わってセンターにはKyojuroさんが来る。メンカラの赤に周りのペンラは変わるけれど、俺はずっと緑のペンラを振るのも忘れてSanemiさんを見つめていた。

     ◇

     本当に夢かと思った。センターに立った瞬間に正面から見た、3列目の高校生風のアイツ。夢とまるで同じ顔をして俺を見つめていた。そしてその瞬間に俺はその弟の名前を思い出していた。不死川玄弥、俺の5つ下で生まれるはずだった弟。なのに、なぜかずっと俺は一人っ子だった。弟が欲しくて、俺は想像上の弟とあたまのなかで会話していた。でも、それは俺にとってはあくまでイマジナリーな存在で「逢いたい」なんていって逢える存在じゃないと思っていた。
     真後ろからぐいっと服を引っ張られる。「チェンジっ!」とObanaiが小さく、でもきつい声で言った。あまりのことにすっかり動きが止まってしまっていたのだ。
    「あれさ、弟くんじゃない?」
     バックに回ったところで最年少のMuichiroに声を掛けられる。なぜかMuichiroは俺の夢に出てくる弟の実像が分かるらしい。
    「昔友達だった気がするんだよね」と言うが、いつどこで友達だったのかは全く思い出せないという。それでも、Muichiroの言葉からは、やはり客席にいるのが玄弥だということが分かる。

     玄弥の正面から離れたあとも、玄弥はずっと俺を見ていてくれた。間違いなく、あれは俺の弟。イマジナリーじゃない。本当はステージからすぐに降りていきたかったけれど、まだ1周年ライブのオープニングだ。メンバーにも迷惑がかかる。俺は別メンバーのバラードの間もずっと袖から玄弥を見つめていた。
     そういえばあの格好は入り待ちでも見たような気がしたのだ。キャーキャー騒ぐファンのなかで一人だけ泣きそうな顔をしていたモヒカンを。一瞬あれ?とは思った。でも既にリハに遅れかけていたから、確認する時間は取れなかった。
     なんであのときに俺は確認しなかったのか、俺はKyojuroにセンターを譲ってからも視界の端でずっと玄弥を追っていた。周りのファンたちがずっと赤のペンラを振る中で、アイツだけはペンラを緑にしたままずっと俺の動きを見ていた。玄弥が俺を追ってやってきたのは間違いない。
     なのに、俺は。
    「なァ、Giyu。俺のパート歌ってくんねえか?」
     これからは俺とGiyuの二人でバラードというセトリ。でも、そのなかにあるセリフを俺は絶対にアイツの前では口にはしたくなかった。
    【夢も思い出も捨て去って、俺達は新しい道をゆく】
     Hustler結成のときにアルバムに入れた一曲。あまりに無口なGiyuのせいで、ほとんど俺のソロのようになってしまうのだ。けれど、俺の頼みにもGiyuはうんともすんとも言わない。俺は舞台袖で周りに聞こえるぐらいの溜息をつく。
     俺は結局、その歌詞も自分で歌うしかなかった。けれど曲のあいだ中、俺は絶えず視線を宙に向けていた。玄弥に向かってあんな言葉を言えるわけもないから。強いスポットライトを浴びていたし、俺は玄弥の表情をうかがうことはできなかった。

     ◆

     この曲だけは心が痛むから苦手だった。過去も思い出も、Sanemiさんにとっては捨て去るべきものだって歌詞。それがいろんな過去を持つHustlerのメンバーの再生を指すんだとしても、俺はSanemiさんに忘れられたくはなかった。
     本当はSanemiさんなんて他人行儀な言い方だって嫌いだ。だってSanemiさんは俺の兄ちゃんなんだから。でもこの曲を聞き終わる頃には、俺はすっかり意気消沈してしまった。兄ちゃんがしっとりと感情を込めて歌いあげていたから。兄ちゃんのバラードはうまい。しかも生歌だから余計に心に刺さった。
     曲が終わり、スポットライトが消える。俺はもう耐えられなくなった。なんでだよ、俺の兄ちゃんなのにやっぱり兄ちゃんは弟のことなんて本当は忘れたの?気づくと俺は、ライブ会場を飛び出していた。

     ◇

     ひとしきりソロやデュオの曲が終わり、いよいよラストに向けて全員でステージに出る。その時、俺は3列目中央にポッカリと空いた穴に気づいた。
     アイツ、帰りやがったのか。
     俺は激しく後悔した。どこに行った?会場内のすべての席に目をこらして見たけれど、玄弥はいなかった。もうここを後にしてしまったようだ。俺は歌い踊りながらも玄弥の行き先に頭を巡らせる。そして、衣装替えの隙にHustlerのバックダンサーであるHustlerNextのTanjiro、Zen-itsu、そしてInosukeに手短に頼んだ。コイツらはもうバックダンサーの曲も終わったから出番はない。まだそれほど顔が売れているわけでもないコイツらだが、それぞれものすごい能力がある。1人は匂いで、1人は音で、1人は手の感覚で人を探し当てることができるのだという。俺がいま一番欲している能力だ。
    「客席3列目にいたモヒカン、分かるか?」
    「うん、いましたよね」
    「アイツが今どこへ向かったか、すぐに追ってくれねえかァ?」
    「えー?そんな無茶な。このあとネズコちゃんと約束が…」
    「わりいが見つけ出たらテメェらの好きなもんをなんでも買ってやるからよ」
    「なら、天ぷら腹いっぱい食わせてくれよ」
    「おう、分かったからすぐに探しに行ってくれ。頼むわァ」
     3人を見送り、俺はまた玄弥のいない客席に向けて虚ろな笑顔を振りまいた。

     Inosukeから連絡が入ったのは、ライブを終えてTengenが打上げに誘いに来たのと同時だった。新宿の某所にアイツのいる感覚を感じるという。
    「俺は今日は遠慮するわ。行くところがある」
     事情を知らないTengenは、「Sanemiは最近付き合いがわりい」と口を尖らせる。けれど、そこはObanaiが間に入ってくれた。
    「Sanemiは今晩が人生の正念場だ。行かせてやれ」
     俺は楽屋口から外に飛び出す。出待ちのファンが突然の本人登場に混乱していたが、俺はその場を素早く走り去った。

     ◆

     帰りも夜行バスと決めていた。夜の11時発、チケットはもう持ってる。
     俺は待合室の隅っこのベンチで、ずっとうつむいてスマホをいじっていた。でも朝から使いすぎたせいで、予備バッテリーも使い切っていた。仕方がないから、俺はスマホをバッグにしまう。そして、あのスクラップ記事を見つけた。
    「俺には夢のなかにだけ現れる弟がいて、どこかで本当に生きてんじゃないかと思ってる」
     目は合ったし、その瞬間に兄ちゃんは俺を他の人とは違うと認識はしてくれた。でも「夢も思い出も捨て去って、俺達は新しい道をゆく」っていうSanemiさんにとって、リアルに現れた弟は迷惑だったんじゃないだろうか。きっとSanemiさんにとって、俺はイマジナリーな存在でよかったんだ。なのに、なんで浮かれて東京に出てきちゃったんだろう。
     スクラップ記事を挟んでいたクリアファイルに涙が落ちる。待合室の片隅で、俺は時間までひっそりと泣いていた。

    「23時発ご乗車のお客様」というアナウンスで俺は立ち上がり、泣き顔のまま歩き出す。もうバスに乗ってしまえば明日の朝には田舎につける。俺なんかがSanemiさんの弟だなんて、そもそもひどい勘違いだったんだよ。バスでしっかり寝て東京のこともSanemiさんのことも全部忘れよう……

    「テメェ、勝手に帰るなよォ」
     突然後ろから手首を掴まれ、それからバックから締め上げられる。
    俺はひいっと声を上げたけど、それは俺をバックハグする手だった。
    「な、なに…?」
    「なにじゃねえだろォ、玄弥ァ」
     首筋からはわずかに香料のような香りがする。横に視線を送ると、まだ化粧を落としていない兄ちゃんに密着されていた。
    「だ、だって…新しい道を行くんだもんね」
     バカッと兄ちゃんはさらに俺をきつく抱いてくる。あの曲の歌詞は俺が書いたもんじゃねえ、しかも元々はGiyuさんが歌うはずだったパートで、俺は本当に歌いたくなかったんだって。
    「俺が玄弥の夢を忘れるわけがねえだろ?このままバスに乗って勝手に帰るなんて、許さねえからなァ!」
     周囲もさすがにヒソヒソと俺達のことを噂し始める。特徴的な髪質だから、HustlerのSanemiだって気づいた人もいるみたいだ。それでも兄ちゃんは俺を離そうとはしなかった。
     
     チケットは結局払い戻しにして、俺は兄ちゃんの住むタワマンへと連れていかれた。そこから俺がどうなったか、その話はまた今度話そうと思う。
      
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