「東…ちょっと飲み過ぎじゃない?」
今夜、俺はシャルルで東と2人、酒を酌み交わしていた。
東は最近、異人町にシャルル2号店を出すとかで、毎日忙しくしていた。
今日ようやく諸々の準備が一段落し、明日は久しぶりの休日らしい。
酒を飲むのも久しぶりらしく、東にしては飲むペースが速かった。
「あぁ…?大丈夫…そんなに……飲んでねぇ……」
「いや相当飲んでるって…ほら、もう酒を飲むのはおしまい」
俺は東のそばにあった酒のグラスを取り上げた。すると…
「うっ…うえっ…なんで酒を取るんだよぉ……」
「ちょっ、え!?」
急に東が泣き出した…どうしたんだよ突然!
東、飲むと泣き上戸になるのか!?
…いや、もともと東は泣き虫だった。
松金組に入ったばかりの頃は、兄貴分に怒鳴られてよく泣いていて、それを海藤さんが慰めていたし、
海藤さんが破門された時も、東はぼろぼろ泣いていた。
それから、しばらく東とは会わない期間があって、その間に色々あったわけだけど。東も舎弟を持つ立場になったり、喧嘩だって強くなり、滅多に泣くこともなくなっただろう。
けれど、もともとの気質は、そう簡単に変わらないのかもしれない。
酔ったことで、それが表に出てきたのだろうか。
「あ~ごめんごめん、そんな泣かないでよ。でもほんとに飲み過ぎだから。東のことが心配で……ってうわっ!」
突然、東の顔が、俺の目の前に来ていた。
俺の顔を両手で挟み、じっと見つめている。
涙で濡れた瞳に、俺の顔が映っている。
え……?
なにこの状況は……キスでもされるのか…?
「八神……お前……なんでこんなにイケメンなんだよぉ」
「は?」
「うっ、ぐすっ、それに頭はいいし…喧嘩も強いし…」
「え?あの…東にそんなストレートに褒められると照れるんだけど…」
普段俺のことなんて呼び捨てで、基本的に憎まれ口ばかり叩いてくるから、こんな風に褒められると単純に嬉しい。
「うっ、うっ、それにイケメンだし…顔がいいし…顔がかっこいいし…顔がアイドルみたいだし…」
いやそれ全部顔のことしか言ってねぇぞ!
「お前と付き合えたら…幸せだよな…」
「付き合うって……じゃあ、俺と付き合ってみる?東」
冗談めかして言ったが、ずっと隠していた素直な気持ちだった。
「……」
東は何も言わず、じっと見つめてくる。
やっぱり…ダメかな。
「あ…あ~…悪い、今のは」
「うん……付き合う……」
「……は!?」
「だから……付き合う……」
「え?そ、そうなの…? じゃあ……付き合おうか」
「うん……」
…え?マジで?い、いいのか?
………
………
………
………
………
………いや、良くねぇ!!
こんな酔った相手になし崩し的に「付き合う?」「はい」って感じで付き合いが始まるのは、なんかイヤだ!
東相手なら尚更だ。こういうことはちゃんと素面の時にしたい。
「あ~…でも今、東酔ってるからさ。明日もう1回、俺からちゃんと付き合おうって言うから、その時に返事聞かせてくれる?」
「うっ、ぐすっ、俺と付き合うのイヤなのかよぉ…」
「違う違う!違うから!明日、ちゃんと言いたいの!」
「うっ、わかった…明日だって、返事は同じだけど……」
「そうだよな、わかってるって。ほら、今日はもう飲むのは終わり。家まで送るから」
「うん、ぐすっ、わかった……」
翌朝。
事務所のソファで寝ていたところに、東からの着信があった。
「あ、東?おはよ」
「あー八神……お前、俺のこと家まで送ってくれたのか?昨日シャルルで一緒に飲んでたことは覚えてるんだけど、家に帰った記憶がなくて」
「うん、結構東酔ってたし、送ったよ(覚えてないのか…)」
「そうか…悪かったな」
「いいっていいって。あーそれでさ、昨日俺と東が付き合おうってことになったでしょ?改めてちゃんと言いたいから、あとで事務所に…」
「あ?何に付き合うって?」
「だから、俺と東が、付き合おうって。恋人として」
「は!?……てめぇ、俺をからかってんのか!?何でてめぇと付き合うんだよ!」
ツーツー…
「やっぱり…そうなるよな……」