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    ryuhi_k

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    ryuhi_k

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    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    弐の後の話。

    前話「星を呑んだ 弐」→https://privatter.net/p/7529250
    後話「星呑み小話:知らぬは当人のみ」→https://poipiku.com/315554/6518714.html

    ##海王星波
    ##星呑み

    星呑み小話:深海に腕を伸ばす伊呂波いろはは後悔していた。
    少し、軽く考えすぎていたのかもしれない。勿論、悩んだ末の行動ではある。あのまま旋葎せんりに此処に置いて欲しいと言う道だってあった。それをしなかったのは、やはりあの鯨がどうなったのかが気になってしまったからだ。
    伊呂波一人のためだけに、全てを押し流した化け物。凶悪無比の所業を、悪びれなかった人で無いもの。過ぎ去ってしまえば、まるで夢のような出来事だったが、戻った地はそれが現実だと突きつけてきた。人が住んでいた形跡なぞ欠片も残っていない、只の砂浜が其処にはあった。

    『ああ、お前ですか』

    それを呆然と眺める伊呂波の後ろから声がした。
    振り返ると、黒髪の男が伊呂波の方へと歩いてきていた。身なりが良いので、役人だろうかと伊呂波は思う。太陽の位置のせいか、やや長い前髪のせいか、顔立ちはよく分からない。

    『お前でしょう。お前以外こんな所に来る訳がない。遅かったですね。ほら、早く此方に来なさい』

    男は伊呂波の腕を掴むと、有無を言わせず引っ張っていく。

    「ちょ……な、なに、あんた」
    『疑問は後で、纏めて聞きます。まずは腰を落ち着けなければ』

    男は大股で海岸沿いを進む。伊呂波は声を上げたものの全て無視され、やがて無言で引っ張られるままになった。暫く進んだ後、男は足を止めた。覗き込むと小さな神棚の残骸のようなものがある。

    『戻りました。まだ寝てらっしゃる? ……ああ、よかった』

    男は残骸に手を伸ばす。すると、二人の姿はそれに吸い込まれ、後に残ったのは誰もいない海だけであった。




    「――な、なに……これ……」

    吸い込まれる瞬間、咄嗟に目を閉じてしまった伊呂波の視界に飛び込んできたのは、見たことのない豪華な建物の一室であった。いや、違う。此処とは別だが、同じようになっているものは見た。ほんの少し前まで其処で世話になっていた。旋葎とあの鳥・楓星ふうせいの住まいと同じだ。つまりこれは、と伊呂波は周囲を見渡す。

    『お館様はまだお前に会わせられない』

    ひやり、と冷たい声が降る。先程の男の声だ。けれど、姿が見えない。声の方にあるのは障子扉だが、人の影は見えない。恐る恐る、伊呂波は近寄って障子を開ける。

    「……!」

    障子の向こうにあったのは海だった。果ての見えないそれに、一匹の鯱が顔を出している。

    『お前のせいで負った怪我が、治りきっていないのでね』

    その鯱が喋っていた。そういえば、と伊呂波は思う。突然のことですぐ頭から消えていたが、掴んできた手は人間のような感触ではなかったな、と。この鯱が人の形を真似ていただけだったからだろう。

    『お前が逃げるから。お前が逃げたせいでお館様は大怪我だ』
    「なっ……」
    『逃げずに捕まれば良かった。無駄な手間を掛けさせて。可哀相なお館様。二度と見たくない、神に似た力まで見せられて。お前が逃げたから』

    責めるように鯱が言う。お館様とは、つまりあの鯨の事だろう。伊呂波の肩が跳ねる。だがそれは、責められて傷ついたからではない。

    「に、逃げるに決まってるだろ!! あんな、全部、みんな殺しておいて!! 俺の為とか言って、俺のせいにするな! アイツが勝手にやったんじゃないか!! 他のやり方、いくらでもあっただろ!」
    『……』

    伊呂波の怒声を浴びせられて、ようやく鯱が黙る。暫く沈黙が流れた後、鯱が口を開いた。

    『お前、それ位は言えるんですね』
    「……」
    『なら、安心しました。お館様相手なら、それ位言ってもらわないと。あの方、結構鈍いですからね』
    「……アンタ、俺を……」
    『責任とって死ねとでも言うと思ってましたか? そんな事をしたら、自分がお館様に殺される。さっきの物言いはわざとしました。お前を怒らせるために』

    鯱が笑った、と伊呂波は思った。

    『それだけ思うところがあるのに、お前、何を求めてお館様の海に戻ってきましたか?』

    息を飲む。静寂に己の心臓の音だけが響く。乾く唇を舐めて、伊呂波は言った。

    「な、名前を、持ってきたんだ……! 俺一人で、考えたんじゃないけど……」

    小難しい理屈はちっとも分からないが、人でないものと生きるのならばそれが要るのだとあきらは言っていた。己の中に浮かんだ音に、似合いの字を見繕ってもらい、それを抱えて山を降りた。

    「与えたら、戻れませんよ」

    そう、静かに晶は言った。それでも、と頷いたのは伊呂波の意思だ。どこか満足そうに、だが憐れむように笑った晶の顔を思い出すと、酷く落ち着かない気持ちになる。
    ――それでも、伊呂波は戻った。震える身体と、未だ迷いのある心を抱えて。

    『……。お前は、思ったより胆力のある人間ですね』
    「違う……。俺は、ただ……」

    鯨に言ったように、ただ隣にいてくれる誰かが欲しかっただけだ、と伊呂波は声を絞り出す。

    『お前はそれを、お館様に求めるんですね。……別に幾らでも、人はいるのに』
    「でも……」

    誰にも必要とされずに生きてきた。やった事も、想いの理由も、何一つ理解出来ない。それでも、伊呂波に自ら手を伸ばしてくれたのは、あの鯨だけだ。鯨だけが、伊呂波を何より優先した。他の全てを押し流してしまう程に。
    ――これは恐らく真っ当な感情ではないのだと、伊呂波も分かっている。けれど、これ以外にどうしたら良いのだろう?

    『細かい理由なんざ、自分には関係ないです。……持ってきたのなら、呼んでやってください』
    「会えないんだろ?」
    『それも嘘です。……もう辟易してたとこなんです。お前が帰ってきてくれるのか、自分と一緒にいてくれるのかと、ずっと煩くて』
    「え、ええ……」

    あまりにもうんざりしている鯱の声に、伊呂波の緊張が解ける。
    そうして意を決して、伊呂波は呼んだ。己と生きる、鯨の名前を。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    墓石の上、二人でダンスを:5「これ、どこ向かってんだ?」

    向かいのリングに問う。造りが良さそうな馬車は、それでも振動がゼロじゃあない。窓から覗く景色は、勿論初めてのものだ。何せまだ、リングの屋敷とその職場の往復しかしたことがない。この国も住んでる奴らも、何もかもが俺にとってはどうでもいいからそれに不満はないが、この後に訪れる二人きりじゃない時間には不安はある。

    「お前の意味不明な要望を多分どうにかしてくれる人のとこだよ」
    「男なら普通だろ」
    「えー……」

    何故かリングにはこの当たり前の欲求が理解できないらしい。そりゃ俺だって今の、リングの横の特等席を与えられてる状態は嫌じゃない。寧ろ嬉しい。だが、声、視線、動作、髪の1本ですら欲しがるようにしておいてそりゃないだろう、といいたいのも事実だ。勿論、俺の口からそんな言葉が出ることはない。この不満の言葉達すら、いつの間にかなんだかこう、リングにとって都合よく――……何か腹に渦巻いていた気がするが、どこかへ行ってしまった。そんなどうでもいいことはともかく、俺の身体が直るってんなら単純に嬉しい。というか、二人でこうして出掛けてるのは、所謂デートってやつなんじゃないだろうか絶対そうだ。俺の欠けた記憶に同じようなものは見当たらないが、そもそも前線に出ていた奴にんな経験がなくても変ではないだろう。色んな国の軍服を着て、色んな国の奴らをぶっ殺していたぶつ切りの記憶ばかりの俺に、マトモに街で暮らした経験は……多分ないんじゃないだろうか。別にそれがどうってわけじゃないが。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    手術的な描写有り・全体的に品はないのでご注意ください。
    墓石の上、二人でダンスを:2切り取ったものを丁寧に繋ぐ。沢山の素材から選りすぐった一番を、まるで最初からそうだったように。自分の身体が自分でなくなくなっていく感覚がするんだと、名前のない死体は言っていたらしい。誰にでもできる手法じゃなく、誰でも受け入れられる事態じゃない。でも俺はできるし、……コイツもまあ、適性があるんだろう。

    「あのさ」

    手を止めることなく、その先へ視線を向ける。俺の下で横たわって、首だけ持ち上げてこちらを見つめる緑の、淀んだ目。瞬きをする必要のないそれは、コイツの身体が生きていない証拠の一つだ。

    「視線がうるさいんだけど。目、閉じて」

    俺の言葉に、眉を顰めつつ目が閉じられる。そのまま首を降ろしたのを確認して、手元に集中する。鎖骨付近から肩にかけて切開し、筋組織を付け足し繋いでいく。欠損を補うわけではなく、ただ足すだけの生者にはやらない行為。やれたとしても……いや、やれる人間なんてこの国でも今は俺しかいない。その手元が気になるのは当然という思いもあるけれど、……普通だったら自分の身体を弄られているところなんて凝視するようなものじゃないだろうに。それ以外でも大体……いや全部コイツの視線はうるさいんだよな。
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