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    ryuhi_k

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    ryuhi_k

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    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    弐の後の話

    前話「星呑み小話:深海に腕を伸ばす」→https://poipiku.com/315554/6015139.html
    後話「星呑み小話:それは海の味がする」→https://poipiku.com/315554/6737167.html

    ##海王星波
    ##木星旋回
    ##星呑み

    星呑み小話:知らぬは当人のみ改めて足を運ぶと凄い里だ、と伊呂波いろはは思った。
    初めて訪れた時は、そんな事を思う余裕は無かった。そもそも、自分の意志で足を踏み入れた訳でも無い。気がついたら内部だった、というのが正直なところだ。

    「ここには神様がいるからね」

    勇気を出して里の者に声をかけて返ってきたのがこの返事である。この里が、山が豊かな理由はそれだと、素直に言う。この時点でもう、伊呂波は理解が追いつかない。伊呂波の育った村で、神をこんな穏やかな声で呼ぶ者はいなかった。神とは海であり、海とは生活の要だが同時に恐ろしいものだ。畏れ敬い、ひれ伏すものである。実際、それを怠った――当人達は全く心当たりが無かった事だろう――結果、全ては流され何も残ってはいない。あれから、まだ一年も経っていないのだと思うと伊呂波の息は苦しくなる。そう、苦しくなったからこうしてこの里にやって来たのだ。
    豊かな、余裕の有りそうな民達を横目に、伊呂波は真っ直ぐに目的地へと歩を進める。里の者に敬われているのだろうと分かる、整備された神社を突っ切って本殿の前に立つ。そっと周りを見渡し、誰もいないであろう事を確認してから口を開く。

    旋葎せんり、俺だよ、伊呂波。……開けてくれないか?」

    ぎぃ、と音を立てて本殿の戸が内側から開く。そこから中に入ると、伊呂波の身体は消え、戸が今度は音を立てず閉まった。




    「よう、久しぶり」
    「……。やっぱり帰る」

    出迎えた旋葎を見て、伊呂波は踵を返そうとする。

    「待て待て、コイツは気にしなくていい」
    「そう言われても……」

    旋葎が伊呂波の腕を掴む。その後ろからぎりぎりと伊呂波を睨みつける者がいる。楓星ふうせいだ。里の者が見たら信仰心も失せそうだと思ってしまうほどに、俗な――所謂嫉妬であろう表情を浮かべている。旋葎はそれを分かっているのかいないのか、気にする様子もない。

    「俺がいいと言ったら良いんだよ。ほら、行くぞ」

    旋葎が伊呂波を引っ張って歩く。細腕だというのに、振り払えない強さがある。ちら、と後方を窺うが、楓星は何時の間にかいなくなっていた。
    そうして少し歩き、家の縁側に二人は腰を下ろす。自由になった左手の横にはもう湯呑が置かれている。初回は驚いたものだが、今はもうこの原理の検討がついているので驚きはしない。伊呂波も普段、姿を見せない多数の小間使いに生活を世話されている……らしい。らしいというのは、鯨湦けいしょうと名を与えられた鯨があの鯱以外のあやかしを決して伊呂波の前に出そうとしないからだ。曰く『彼以外は貴方が見る価値も無い』とのことだが、それの意味を伊呂波は掴みかねている。

    「思ったより元気そうだな」

    水を飲む伊呂波を眺めて、旋葎がそう言った。

    「思ったより……って、どういうのを想像してたの」
    「そりゃ、前みたいに酷い有様だよ。俺はてっきり、またお前が逃げてくるとばかり思ってたんだ」
    「……」

    当人を前にしてなんという言い様だ、と伊呂波は思うが、内容としては納得するしかない。それほどまでに、人ではないものとの暮らしは疲弊する。泣いて逃げる程ではないが、何処か心休まらない部分があるのは事実だ。だからこそ、伊呂波は一人で此処に来た。

    「いや、だって大変だろ。あんなでかい魚と」
    「確かにでかいけど、普段はあの……アンタのとこと同じように、人の姿だよ。名前をつけたんだから」

    名前を与えるという事は、人の御しやすい形に押し込む行為……らしい。伊呂波の親ほどの歳の姿になった鯨湦がそう言っていた。

    「へえ、そうなのか」
    「そうなのかって……、アンタ知らなかったのか?」
    「そりゃ俺は、お前みたいに名前をやろうと思ってやった訳じゃないからな。勝手に口から出ただけだ」
    「旋葎……」

    最初から思っていたことだが、どうもこの旋葎という男は変わっている。何もかもに関心がないようにも、楽しんでいるようにもとれる、妙な男だ。だが、だからこそ、安心出来る、ような気もする。

    「ま、あの魚がお前を大事にしているようでちょっと安心したな」
    「大事?」

    伊呂波は首を捻る。

    「いや、そうとしか思えないだろ。お前の着物から何から……よくもまあ一人で無事に此処まで来れたなって程、金がかかってるだろ」
    「……そうなの?」

    今度は旋葎が怪訝な顔をする。伊呂波も、それまで身につけていた物より上質だというくらいは分かる。だが、どれ程かを判別出来るような知識も経験もない。

    「そうだよ。ま、あの魚が何かしら目眩ましでも掛けてるんだろうがね。というか、よく一人で来たな?」

    偶には逃げてきたらいい、と言ったのは旋葎だが、本当にそれが叶うとは思っていなかったようだ。実際、鯨湦は最初伊呂波が出かけたいと言った時、良い顔をしなかった。行き先が此処であったから承諾してくれたようなものだ。

    「流石に付き添いってだけで来ると良い顔されなさそうって言ってた」
    「ま、人間で言うとお貴族様とかみたいなモンらしいから、そういうものなのかね。俺達には分からないが」
    「多分」

    人間ではないものでも、ある程度の決まりや何やらはあるらしい。実際、只の人間から見れば楓星と鯨湦は神と呼ぶべき存在である。対して、今伊呂波の横にいるのは同じく人間である旋葎だ。それだけで、随分と息は楽になる。

    「旋葎」
    「うん?」

    ……けれども、

    「……多分どっかの木からアイツが俺を睨んでるんだよね」
    「アホかアイツは」

    此度の滞在は、違う意味で心休まらぬものになりそうである。
    旋葎はこの行動を、ひいては楓星をどう思っているのだろうか、とは聞けない伊呂波であった。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    墓石の上、二人でダンスを:5「これ、どこ向かってんだ?」

    向かいのリングに問う。造りが良さそうな馬車は、それでも振動がゼロじゃあない。窓から覗く景色は、勿論初めてのものだ。何せまだ、リングの屋敷とその職場の往復しかしたことがない。この国も住んでる奴らも、何もかもが俺にとってはどうでもいいからそれに不満はないが、この後に訪れる二人きりじゃない時間には不安はある。

    「お前の意味不明な要望を多分どうにかしてくれる人のとこだよ」
    「男なら普通だろ」
    「えー……」

    何故かリングにはこの当たり前の欲求が理解できないらしい。そりゃ俺だって今の、リングの横の特等席を与えられてる状態は嫌じゃない。寧ろ嬉しい。だが、声、視線、動作、髪の1本ですら欲しがるようにしておいてそりゃないだろう、といいたいのも事実だ。勿論、俺の口からそんな言葉が出ることはない。この不満の言葉達すら、いつの間にかなんだかこう、リングにとって都合よく――……何か腹に渦巻いていた気がするが、どこかへ行ってしまった。そんなどうでもいいことはともかく、俺の身体が直るってんなら単純に嬉しい。というか、二人でこうして出掛けてるのは、所謂デートってやつなんじゃないだろうか絶対そうだ。俺の欠けた記憶に同じようなものは見当たらないが、そもそも前線に出ていた奴にんな経験がなくても変ではないだろう。色んな国の軍服を着て、色んな国の奴らをぶっ殺していたぶつ切りの記憶ばかりの俺に、マトモに街で暮らした経験は……多分ないんじゃないだろうか。別にそれがどうってわけじゃないが。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    手術的な描写有り・全体的に品はないのでご注意ください。
    墓石の上、二人でダンスを:2切り取ったものを丁寧に繋ぐ。沢山の素材から選りすぐった一番を、まるで最初からそうだったように。自分の身体が自分でなくなくなっていく感覚がするんだと、名前のない死体は言っていたらしい。誰にでもできる手法じゃなく、誰でも受け入れられる事態じゃない。でも俺はできるし、……コイツもまあ、適性があるんだろう。

    「あのさ」

    手を止めることなく、その先へ視線を向ける。俺の下で横たわって、首だけ持ち上げてこちらを見つめる緑の、淀んだ目。瞬きをする必要のないそれは、コイツの身体が生きていない証拠の一つだ。

    「視線がうるさいんだけど。目、閉じて」

    俺の言葉に、眉を顰めつつ目が閉じられる。そのまま首を降ろしたのを確認して、手元に集中する。鎖骨付近から肩にかけて切開し、筋組織を付け足し繋いでいく。欠損を補うわけではなく、ただ足すだけの生者にはやらない行為。やれたとしても……いや、やれる人間なんてこの国でも今は俺しかいない。その手元が気になるのは当然という思いもあるけれど、……普通だったら自分の身体を弄られているところなんて凝視するようなものじゃないだろうに。それ以外でも大体……いや全部コイツの視線はうるさいんだよな。
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