Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ryuhi_k

    @ryuhi_k

    (・ω・)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 34

    ryuhi_k

    ☆quiet follow

    「一人残らないと先に進めないダンジョンって何なんですか?!」シリーズ番外編。
    前回「制限ダンジョン(※制限内容にはパーティ差があります)」直後の話。

    ##置いてかれF
    ##木星旋回
    ##海王星波

    置いてかれF小話:制限ダンジョン(※以下略)攻略後の一幕「ではこれ、報告書です」

    クリスタルが差し出した書類を受け取ったギルドの受付は、その背後を見て眉をひそめた。

    「勝手に増員したんダスか?」
    「ああ、いえ、これはそういう訳ではなく……。ほら、ここの、これ」
    「……あー。アンタらも毎回凄い攻略するダスねえ……」

    クリスタルが指した報告書と背後を見比べて、受付は呆れたような感心したような声を上げた。
    何故受付が眉をひそめたのか、それは冒険者パーティには様々な制限があるからである。制限なく冒険者の自由意志のみでパーティを形成させると、場合によっては国家を凌ぐ武力を持つ可能性がある。それを防ぎ、冒険者という無法者達を統制する為にほぼ全ての国家で運用されているのがギルド規則であった。その一つに、パーティ人数がある。無制限にして軍隊規模にされてはたまったものではない、ということだ。勿論そんな事が出来るのなら冒険者になぞなってはいないのだろうが、予防線は張っておくに越したことはない。自由の象徴のようなイメージのある冒険者であるが、実際はこんなものである。

    「まあ今回は事情が事情だからお咎めなしダスが……他行くときにそれやったら駄目ダスよ」

    この話の舞台となっている国においては、パーティは10人以下と定められている。これはかなり緩い制限であり、基本は3~6人程度だ。尤も、それはつまり基本程度の人数で挑むと攻略できないダンジョンが多い、という意味である。それでもこのパーティが拠点としている地域は比較的低難度の地域だ。作中に登場したダンジョンが、どれもこれもそんなことがなさそうにしか見えないのはご愛嬌である。

    「やりませんよこんなの。……ああ、ちゃんとありますね。ありがとうございます」

    報告書と引き換えに金銭を受け取り、一行はギルドの一角にある休憩スペースでいつものごとく金を分ける。普段との違いは、未だ3匹のモンスターが人型を取っているためやや狭苦しいことくらいだ。無事分け終わり本日は解散、という状態になったところで、ずっと眉間に皺を寄せていたジャイロが口を開いた。

    「お前、いつまでその邪魔な図体でいるつもりだ」

    睨みつけるように振り返った先にいるのは、緑色の軽鎧を身に着けた青年……の姿に変身している正体鳥のジュピターである。二人の視界の外で初めて見るイケメンにざわざわしている女性陣がいるが、全く気づかれていないし気づかれても無視される運命しか待っていない。尤も、無視され具合でいえば睨みつけてくる視線が新鮮だな、と内心思っているジュピターの普段と似たりよったりではある。

    「べ、別に良いだろ。俺がどうしてようと」

    とはいえ、ジャイロはこのような分かりやすいツンデレ言動を意図的に無視しているわけではなく、本当に気がついていないので、悲惨具合はこちらの方が上かもしれない。

    「まあ確かにそうなんだが。……とは言っても、その図体のまま無銭飲食だの路上居眠りでしょっ引かれたりすると最終的に困るのは俺なんだよ」

    使い魔というものは言ってしまえば「戦闘力のあるペット」なので、犬猫その他同様責任云々といったものは所持者が被ることになる。情報伝達等の限られた用法以外での単独行動は違法であるし、一定以上の知性を有した使い魔の独断だとしても責任はゼロにならない。普段ジャイロの皿から勝手に飯を漁るような、人間社会のルールに迎合していない鳥に人型で出歩かれると考えただけで眉間に皺が寄る……というのがジャイロの心境であった。
    勿論そんなものは伝わっておらず、ジュピターは首を傾げている。

    「……ギルド寮は一人部屋だろうが」
    「それが?」
    「だからお前はそのままだと路上で寝るしかないだろ」

    当たり前だろう、という顔でジャイロが言った。確かに普段居住しているギルドの宿泊施設――本来はそこそこ仰々しい正式名称があるのだが、大抵皆ギルド寮と呼ぶ――は、基本一人部屋である。当たり前だが通常の宿屋よろしく一人部屋に二人で泊まって宿泊費を浮かす、などと言ったことは一発アウトで即出禁となってしまう。勿論、もうひと部屋借りる、追加料金を払って二人部屋を確保するといったことは可能であるが――ジャイロとしては、そんな気は毛頭ない。己の稼ぎで確保したベッドは己で使い、それが出来ない者は路上行きと決めつけている。
    そんな考えを知ってか知らずか、ジュピターは口を開く。

    「いや、なら東の方のやつ行こうぜ。寝心地いいって聞いた」
    「……東?」

    訳の分からない顔のジャイロに向かって、ジュピターは更に続ける。

    「ほら、あいつらが行くとこ」

    そう言いながら指した指の先にいるのは、誰もが予想しているであろうウェーブとネプチューンである。ジュピターと同じくまだ人間の姿のままであるネプチューンの横で、ウェーブは何となく居心地が悪そうにしている。
    指の先を追ったジャイロの思考は答えに辿り着いたようであるが、視線をジュピターに戻した後絶句している。勿論、彼はそれが自身を恋愛・性愛対象に見られている結果ということには気がついていないようであるが。寧ろこれでも気がついていないのか……とナパーム除く5人は呆れるしかない。

    「ええ、値段の割に中々ですよ。こちらの寮よりいいシーツですからね」

    ネプチューンが心底面白い展開になったな、という内心を隠しきれない声で言う。
    ……東の方にある、ウェーブとネプチューンが行く、宿泊施設、とくれば、もう答えは一つしかない。所謂ラブホテルというものである。
    自分で家を構えているのならいざ知らず、ギルド寮のような集合住宅ともなれば、真夜中にあられもない声を上げる行為なぞご法度だ。翌日強制退去になるなら穏便な方で、下手したらその場で隣から殴り込まれて乱闘からの留置所行きになりかねない。勿論この二人は普段完璧な防音魔法等を用いているので、今まで苦情は一件たりとも来たことがない。……廊下のマーキュリーは別として、だが。
    そう、最近まで彼らはわざわざラブホテルなぞ使っていなかった。ではどうしてそうなったかと言うと、一着の服が原因である。いや、それを服と大雑把に呼んでいいのかは甚だ疑問であるが。
    ギルド寮は、基本的に3日以上クエスト等で留守にする場合に他の希望者に部屋を明け渡す場合がある。その際、備品の収納ボックスに私物を全て収めておかなければ、片付けに来たギルド職員にあれやこれやを見られてしまう。本当はボックス外のものは処分という規則だが、ギルド職員も鬼ではないのでそっとボックスに収めてくれる。収めてくれてしまったのだ……冒険用とは言い難い、ウェーブが血迷って買ってきた、一回使用した後恥ずかしくて自身の目の届かない場所に隠していた、服と呼ぶにはあまりにも布地のない、それを。
    クエストから帰還し、預かられていたボックスを受け取って新たな部屋でそれを開けたウェーブの七転八倒を堪能したネプチューンは提案した。

    「またこのような事にならないよう、別の場所に……というのは如何でしょう」

    そこからなんやかんや言いくるめられ、持ち物預かりのあるラブホテルに行くようになったのが数ヶ月前の出来事である。実はその、一見普通の――それにしては随分とオプションやらアメニティが変な方向にまで充実しているのだが――そこの経営を辿っていくとモンスターに行き着くのは、この国の誰も知らぬ事実であったりする。何事も知らぬが仏だ。

    「そりゃいいな。ほら、行こうぜ」

    未だフリーズしているジャイロを抱えるようにして、ジュピターが短い呪文を唱える。すると、二人の姿は即座に消えた。一般的な移動呪文である。本来、人間の居住地の中で唱えても門にしか移動できないそれだが、ジュピターにかかれば狙った座標に着地するのは造作もないことである。尤も、鳥型モンスターであるジュピターが普段をそれを使う必要などないが。同行者がいる今回が特別である。
    一拍置いて、残りのメンバーは事が全部終わったので解散、というように散っていく。消えた二人の心配を全くしていない辺りがこのパーティらしいといえる。

    「ウェーブ」

    名前を呼ばれてウェーブの肩が跳ね上がる。呼ばれた、つまり自分の隣に視線を向けると、見慣れない見慣れた顔のネプチューンがいつもどおり微笑んでいる。

    「私達も行きましょうか」
    「え……あ、うん」

    曖昧に頷きながら、ギルド寮の方へ身体を向けてから気づく。そう、ネプチューンも未だ人型なので、このままではギルド寮に入れない。勿論、追加料金を払うだけの手持ちはあるが――。

    「折角普段と違うのですから、ねえ」

    ――そのような穏便な選択肢が選ばれる筈もない。
    そんな訳で2組の今宵は外泊になったのであった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ryuhi_k

    DONE「一人残らないと先に進めないダンジョンって何なんですか?!」シリーズ番外編。
    前回「制限ダンジョン(※制限内容にはパーティ差があります)」直後の話。
    置いてかれF小話:制限ダンジョン(※以下略)攻略後の一幕「ではこれ、報告書です」

    クリスタルが差し出した書類を受け取ったギルドの受付は、その背後を見て眉をひそめた。

    「勝手に増員したんダスか?」
    「ああ、いえ、これはそういう訳ではなく……。ほら、ここの、これ」
    「……あー。アンタらも毎回凄い攻略するダスねえ……」

    クリスタルが指した報告書と背後を見比べて、受付は呆れたような感心したような声を上げた。
    何故受付が眉をひそめたのか、それは冒険者パーティには様々な制限があるからである。制限なく冒険者の自由意志のみでパーティを形成させると、場合によっては国家を凌ぐ武力を持つ可能性がある。それを防ぎ、冒険者という無法者達を統制する為にほぼ全ての国家で運用されているのがギルド規則であった。その一つに、パーティ人数がある。無制限にして軍隊規模にされてはたまったものではない、ということだ。勿論そんな事が出来るのなら冒険者になぞなってはいないのだろうが、予防線は張っておくに越したことはない。自由の象徴のようなイメージのある冒険者であるが、実際はこんなものである。
    3594