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    ch6ee

    くろえ@ch6ee
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    ch6ee

    DOODLE
    七海とシャツを仕立てに行く話「では今度の土曜、新橋に十一時」
     
     ちょっとした出来心だったのかもしれないし、もういい頃合いだ、と思ったからなのかもしれない。新しいシャツを仕立てに行こうと思ったタイミングで後輩からシャツについての質問を受けた。何度も昇級について推薦をねだっていた後輩だったので、これは前祝いで、それから自分からの挑戦でもある。そう思って七海は猪野を次の週末の昼に誘った。恋人も居る回ではあるが、そこは旧知の仲なので支障はないだろう。デートの頭に三十分ばかりください、と彼女にスケジュールの調整を依頼すれば、すぐさま仕方ないなあ、とむくれたキャラクターのスタンプが返ってきてさして問題はなさそうだった。
     
     秋の休日の昼、新橋駅烏森口に十一時。三人の術師が改札で待ち合わせ。猪野くんには直前に彼女のことを伝えていたので待ち合わせのときには小さく驚きがあったらしい。それはそうだろう。彼女はいつもの職場での格好ではなくてデート仕様なのだから。今日はそのあと彼女のお願いで映画をみて、アフタヌーンティーに行く予定だった。そのせいで普段のデートよりもよっぽどめかしこんでいるのだから、彼からしたら別人だろう。
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    ch6ee

    PASTねこ主とななみのねこのひ
    ※ご都合術式

     吾輩は猫である、名前はまだない……ではない。私にはれっきとした名前もあれば学歴も職歴もあって、それから家族は……家族は夏目漱石の「吾輩」と一緒でいない。仕事の帰りに気が抜けたら後部座席で猫になってしまっていた。原因は明らかで、直前の憑き物のせいだろう。うわ、と声を出した瞬間に視界のアイレベルがどんどん下がる。そのせいですぐに異変に気づいた運転席の同僚はひどく素っ頓狂な声を出して路肩に車を停め、私の姿を探そうと後部座席のドアを開いて私の着ていた衣服の中を探って私の新しい身体を抱き起こした。明るいところで自分が伸ばした腕を見れば、一面のグレイ。なぜ、と思いながら手に力をいれれば尖った爪がぬるりと光り、また補助監督の彼女の叫び声を――今度は間近で――聞くことになる。取り落とされない分マシだった、と思いながら彼女は再び私を後部座席に戻し、上司に電話をかけ始める。彼女と一緒でよかった、緊急時の手順が身についている同僚は信頼がおける。そう思いながらガラス越しに彼女を見上げれば頻繁に視線が合う。ドアが再びあいて、すみません、そんな断りとともに自分が撫で回されているのを感じるが、普段の信頼関係からは抗議する気にもなれない。電話が終わるまで彼女は私の首から背から、何から何まで撫で回して――代わりに電話の終了とともにその手を止めて私の着ていた衣服を畳み始めた。さっき助け出されたときにうすうす気づいていたが、今の私は何も身につけていない。ジャケットから下着、ストッキングに至るまで軽く畳んでトランクルームから出した紙袋にまとめる彼女に、ごめん、と言い掛けたらんやあん、と想定内の鳴き声が自分から出て何も伝わらなかった。人間に戻ったときにお礼をしよう、そうするしかなかった。
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    ch6ee

    DONEお疲れの七海は認知能力が落ちたりしてかわいい、とか幼い語彙を喋ってほしいな〜と思っています。そこまで働かせないであげてほしいです。※ネームレス健全夢です
    就眠儀式 ひどく疲れた出張だった。それでも予定よりも一日半早く終わり、日本にいる補助監督に有り余る無理を依頼しながら七海は飛行機のスケジュールを繰り上げさせ、今から間に合う最も早い東京行きの飛行機――羽田の終電ギリギリ時間になるだろう予約――の発券番号を手に機場に向かう。
     預入荷物の奥に鈍の刃も仕舞われ、ついでにコートを預入荷物の隙間に詰め込んで預けてチェックインすれば、変更された予約はきちんと通り、薄い冊子にハンコを押され、数時間を過ごし――最終的に告げられたのは大雪での出発遅延のアナウンスだった。シャワーを浴びてなおイライラしながら七海はグラスを傾けながら続報を待つ。
     ラウンジの新聞に飽きて適当に洋書を買い、文字を目で追いながら耳は順延のアナウンスを追う。まだ彼女にいつごろ帰れそうだ、だなんて通知を送っていなくて良かった。きっと彼女はそれを聞いたら起きて待っていただろうから、必要以上に待たされる体験は自分一人で十分だ、と七海は白く、他の情報を消してばかりの大きなガラス窓に視線を向けながら思う。
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